私の婚約者は、鬼畜なのに天使なんて呼ばれて納得できません。
暇つぶしにでも読んで頂けたら嬉しいです。
馬車に乗って侯爵家へ向かう道中、私と婚約者のレオは盗賊っぽい者達に襲われていた。
「ほら、アンジェ。一人捕り逃がしましたよ。殺さないように魔力をコントロールして捕まえなさい。殺してしまったら情報が得られなくなりますよ。最悪、瀕死状態までは許しましょう。ただ、お仕置きの時間が増えますけどね。まぁ、僕としては、それはそれでアンジェの苦悶に満ちた表情などいろいろと見られるので至福の時となるのですが。」
光悦とした顔で言うな。
この変態鬼畜野郎が。
「声に出ていますよ。まぁ、否定はしません。ただ、僕がそうなるのは、アンジェと今僕たちを襲っている盗賊のフリをした暗殺者の皆さんの前だけですけどね。」
やっぱり暗殺者。
私とレオが乗った馬車を襲う盗賊がいるとか皆無に等しい。
数年前に一度だけ襲ってきたことがあったけど、レオと私で壊滅させてしまった。
魔力のコントロールが今以上に出来ていなかった私は、常に全力で攻撃魔法を発動し辺り一帯を焼け野原にしてしまったのだ。
今まで、バケモノ並の攻撃を受けたことがなかったのだろう。恐れをなして隠れて住んでいた盗賊達もぞろぞろと降参してきた。
騒ぎを聞きつけた騎士団の皆様が晴れやかな顔をして盗賊達を引き取ってくれた。なかなか盗賊の頭まで捕まえることができず歯痒い思いをしてきたようだった。
「私は、そいつらと同類なわけ?」
「いいえ。アンジェには、ありったけの愛情と欲情があります。だから、安心して僕の婚約者でいてください。何なら、今すぐにでも侯爵家に嫁いできても構いませんよ。」
ありったけの欲情...
婚約者とはいえ、一応は貴族の娘なんだけど。
そこは、恥じらった顔をすればいいのだろうか。
それに、12歳の私に欲情…
いろいろと不安を覚える。
「安心できないし。変な性癖が垣間見えた気がして何か嫌だ。それに、私まだ12歳。レオだってまだ17歳だし法的に結婚できない。」
「そんなこと既成事実さえ作ってしまえば法なんて関係ありませんよ。一緒に住めば問題ありません。成人になれば届けを出せばいいわけですし。アンジェとの婚姻に関して言えば、僕が法ってことですね。それに、アンジェのご両親だって手放しで喜んでいましたし。僕の両親だって、アンジェのこと大変気に入っていますよ。」
「……。」
思わず遠い目をしてしまった。
そりゃ、私のお父様とレオのお父様は親友だし。
私とレオが婚約する日、お父様がウチに女の子が生まれたらレオと婚姻させるんだって息巻いていたってお兄様が私に同情する目で教えてくれた。
お兄様とレオは、同い年の幼馴染みでレオの性格を知っている数少ない一人だ。私の境遇を心底同情してくれて、無理に婚姻しなくてもいいと言ってくれた。わざわざ家格が上の侯爵家に嫁がなくても、我が家は魔法省に勤めているし魔道具の製作・販売が好調だから伯爵ながらもそこらの貴族よりはお金持ちだ。だから、貴族であれば好きな人と結婚すればいいと言ってくれた。
お兄様は、本当に優しいし私に甘すぎる。
だから、私はお兄様が大好きだ。
だけど、小さな頃から魔力が高い私は犯罪者に確実に狙われる。魔力が高い子供は、他国や自国の貴族に高く売れるのだ。現に、今も暗殺者に絶賛狙われ中。
こんな私が、好きな人が伯爵家以下の人だったら…
私の警護だけで破産するんじゃないだろうか。
お兄様は、警護にかかる費用も伯爵家で出すとか言いそうだけど。惚れた腫れたで結婚したら、大変なことになるのは目に見えている。
その点、レオの家は建国当初から王家の影として優秀な暗殺部隊や諜報部隊を管轄している。
なので、私の警護などで破産することもなく、寧ろ有り余る魔力を早く使いこなして侯爵家の為に仕えろと言わんばかりである。
一通り、攻撃魔法や防御魔法は扱えるので後は魔力のコントロールさえできれば文句ないのだけど、それがなかなかできないのだ。
レオは、ここぞとばかりに襲ってくる暗殺者を利用して練習させるんだけど、気を抜くとここら一帯が焼け野原となってしまう。被害を最小限に抑える為、住宅がない道を馬車で通ることにしているのだ。
そんな事を考えている間にも、一人の暗殺者が逃げていく。その暗殺者に向かって捕縛魔法を発動させ捕まえた…が、
「ぐわぁぁぁ…」
魔力の加減を間違えたらしい。
骨が数本折れたみたい。
意識は、ありそうだから瀕死ではないよね…?
「……アンジェ。」
何、その間。
怖いんだけど。
それに、その満面の笑顔も怖い。
他の人から見たら、天使の微笑みなんだって。
プラチナブランドのうねりのある髪に、透き通るような白い肌。スッと通った鼻筋、切れ長の目に宝石のサファイアのような瞳を持ったレオの顔は、この国一番の美丈夫って言われてる。
女性からの人気はもちろんだけど、男性からも人気があるようだ。女性にも男性にも見える中性的な顔は、まさに天使そのもの…らしい。
私とお兄様からしたら、悪魔通り越して魔王の微笑みとしか思えない。お兄様も、レオが微笑むとこの世が終わる感じがすると言っていた。
そんな話を兄妹でしていたら、気配を消して近づいてきたレオに聞かれ『さっそく、この世を終わらせて差し上げてましょうか?』と満面の笑顔で言われ、兄妹抱きしめあってガタガタと震えたのを思い出す。
「レオ、捕まえた。骨折れてるけど瀕死じゃない。お仕置きナシ。」
お仕置きが嫌でカタコトになってしまった。
まともにレオの顔を見れない。
笑顔怖い。
「…気を失っていますけどね。魔力が多すぎてコントロールが難しいのはわかりますが。前に比べて焼け野原になる事は減りましたけどまだまだですね。とりあえず、今日はお仕置きはナシです。」
「やったぁ!レオ、お腹空いた。早く帰ろう。」
「今日は、アンジェの大好きな冷菓子を用意していますよ。」
「やったぁ!レオも一緒に食べよ?」
レオは、嬉しそうな顔をすると私をヒョイっと抱き抱えた。
「そうですね。僕が食べさせて差し上げてましょうね。今日は、アンジェを甘やかせる日としましょう。明日は、今日のお仕置きが待っていますからね。」
え…?
「お仕置きナシってさっき言った!」
「今日は、と言いましたよ。さっきの暗殺者は、瀕死ではありませんが、無傷ではなかったでしょう?無傷であれば、お仕置きはナシだったのですが…。詰めが甘いです。そこが、アンジェの可愛らしいところですが。」
「お仕置きヤダ!」
「今日は、たくさん甘えていいですから。僕も今日は仕事終わりましたし一緒に過ごしましょうね。」
「一緒に寝てくれるの?」
「…コルンがめんどくさそうですが、一緒に寝ましょう。」
「お兄様がどうしたの?」
「何でもありません。明日は、時間内に魔力コントロールの練習1セットできなかったら、できるまで繰り返しますからね。頑張りましょうね。」
「鬼畜!」
「アンジェの苦悶の表情が見られそうで楽しみです。アンジェ、愛していますよ。」
レオは、そう言うと抱き抱えたまま私の唇にチュッとキスをした。
「この変態鬼畜野郎!」
こんなヤツが天使とか言われてるなんて納得できない!
続く…かな?