『H』な悪魔のサディック・S・サディスト
その日の夜9時、戸川家リビングにて。
「…じゃあ、この子は悪魔ってこと?」
ユキは自分の目の前にいる二人に疑いの目を向ける。
「はい、そうです!」
そこにわん子が両手をあげて元気に答える。
「ユキ、しかしまさかお前も悪魔が見えるとはな…」
「実際に犬耳も尻尾も生えてるみたいだし…本当なのかな。だとしたら、あなたのおじいちゃんは相当やばいものをあなたに譲ったみたいね」
「確かにそうかもな。まあ実際に悪魔が召喚できるわけだし、ただのおもちゃのネックレスってわけじゃないのは確かだな」
「それにしても…プクク…本当に……ダ…サい…」
ユキは吹き出しそうになる口を手で必死に抑える。
「頼む。それを言うな…」
だがそんなことを言っても実際、中二病全開のダサさがあることは否めない。
「確かにそれはダサいですけど、そこは心配する必要ナッシングです!」
「え、なんで?(なんか古い…)」
「そのネックレスは、装着時悪魔の見える人間以外には認識できませんから」
「そ、そうなの?そんなに都合のいい事ってある?」
「ええ、魔界でそのネックレスを作った古代の有名な悪魔がそのダサさゆえに恥ずかしくて自殺したため、その次の装着者が認識できないように魔法をかけたと言う言い伝えが残っています!」
「なんだよそれ⁉ていうか悪魔基準でもこれってやっぱりダサいんだ…」
「そうですね、ダサいです!」
「頼むからはっきり言うな…。まあとりあえずは高校生活でバレるって事はなさそうだな」
「悪魔の見える人間はそう多くありませんから。むしろここに二人集まってるのが驚きです」
「分かった。ユキ、もう遅いしとりあえず今日はもう帰ったらどうだ?このネックレスについては日曜日だし明日から色々調べてみる」
「いや、今日は泊まる!トオルをこんな『トオル好き好き大好き悪魔』と二人きりで一晩過ごさせるわけには行かないわ!」
そう言ってユキは座っていた椅子から立ち上がる。
「おお!『トオル好き好き大好き悪魔』ということはついに幼馴染から認められた公認カップルになったというわけですね!」
「「なんでそうなるんだよ⁉」」
「それにわん子だって帰るんだよな?」
「いえ、帰りませんよ?」
「え?」
「帰りませんよ?」
「門限とかないのか?」
「私これでも人間であれば成人してますから!」
「いやそれでも駄目だから…」
自信満々のわん子に対してユキが呆れたようにツッコミを入れる。
「仕方ない…」
そう言うとトオルは立ち上がる。
「開け!サモンズゲート!」
トオルはゲートを発動させる。するとネックレスのドクロが怪しく光る。
「ギャーーーーー!!!!ご主人たまが二日目にして既にゲートを使いこなしてる⁉」
わん子の体がネックレスへ吸い込まれ始める。
「しかし負けぬ!」
わん子はそう言うと下半身を飲み込まれながらもトオルの体に手を掛け、ネックレスの吸引力に予想以上の抵抗を見せる。
「痛い痛い痛い痛い!!!」
ゲートの吸引力に抵抗するほどの腕力が体にかかっているので、想像を絶する痛みがトオルを襲う。
「これで、ご主人たまの体にも触れて一石二鳥ですね!」
わん子は頬を赤らめながら、息を乱してトオルの方を振り返る。
「さあさあ、諦めるなら今ですよ?」
わん子にはまだ余裕がありそうだ。
するとユキがわん子をゲートへ押し込もうとする。
ギュウウ
「おとなしく帰りなさい!」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」
嫌がるわん子の姿はまるで駄々っ子のようだった。
トオルも一緒になってわん子をゲートへ押し込もうとする。
その時である。
ムニュ
トオルの手がわん子の柔らかい部分に触れた。
すでに下半身がゲートに飲まれているのでどこに触れたかは言うまでもない。
「あ…」
トオルは思わず声をあげる。
「あ…」
それを見たユキも思わず声を出す。
「あ…ご主人たま…積極的…」
ちなみに、わん子の「あ…」は喘ぎ声である。
その瞬間、ゲートの効力が切れた。
ゲートの吸引力は装着者の精神状態に比例するらしい。
「やったーーー!」
わん子がぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを表現する。
その直後錯乱したユキによって、トオルが鉄拳をモロに喰らって気絶したためわん子を魔界へ送り返すのは諦めた。
*
夜11時。
トオルの部屋にて。
「で、もう寝ようと思うわけだが…」
トオルがちらりと後ろにいるわん子を見る。
「なんでお前がいるんだ⁉」
「いやー、ご主人たまの寝込みを襲おうかと…」
「わざわざ宣言してどうする⁉ていうかそんなやつと寝れるわけないだろ⁉」
「しまった!」
わん子はわざとらしくリアクションをとる。
この一日を一緒に過ごしてわかったことだが、この一見わざとらしくとも見れるリアクションはわん子の素の反応のようだ。
「いや、宣言しないということは、逆に私が襲われる…キャーーーーー!!!!」
「そんなわけないだろーが!何でお前はそんなに俺のことが好きなんだ?」
「そりゃあ、私はご主人たまの『好き』な気持ちに反応して契約された悪魔ですから。あなたが私と契約した時に抱いていた『好き』という気持ちぐらいご主人たまを好きなのは当然のことです!」
わん子は大声で、しかも自慢気にその豊満な胸を張る。
「はぁ…でも私が召喚された時、ユキが近くに居たってことは…」
「いやいや、そんなわけないだろーが!ていうかもう夜遅いから静かにしろよ‼」
ガンッ
「あんたが静かにしなさい!」
そこにユキの鉄拳がトオルの頭を直撃する。ユキの顔が赤く紅潮しているがトオルは頭の痛みでそれには気づかない。
「ユキ、何でお前もいるんだよ!」
「そ…それは…監視よ監視。この悪魔がトオルに手を出さないか見張ってるのよ!」
「だったら二人とも隣の部屋で寝てこい!隣はうちの親の寝室だから問題ないだろ」
「ぶーー」
わん子は分かりやすく不服の意志を示す。
「そ、それは…でもわん子がトオルと同じ部屋で寝るよりは…でも…」
ユキはぶつぶつとそんなことをつぶやく。
*
結局その日、トオルは自身の部屋、ユキとわん子はトオルの両親の部屋で寝ることとなった。
*
深夜12時、トオルの部屋にて。
トオルは真っ暗な天井を見つめながら物思いにふけっていた。
(これからこんな生活だと本当に身が持たないかもしれない…)
(とにかく外す方法か何かを探さないと…)
(………………)
ムニュ
トオルは自分の手をまじまじと見つめながらあの時の手の感覚を思い出す。
(…柔らかかったな…初めて触ったけど…)
ピカー!
その時、ネックレスが怪しく光り出す。
「お、おい…まさか…」
ボンッ
白い煙が部屋全体に立ち込める。と同時に二つの柔らかな風船のような感触と肉感的な重さなトオルの体にかかる。
「わーーーーーーー!!!!」
それを見たトオルが真夜中というにも関わらず大声をあげる。
*
それとほぼ同時刻、隣の部屋にて。
わん子とユキは隣同士で寝ていた。
(この悪魔…本気でトオルを狙ってるのよね…)
(…このままこの悪魔にトオルが奪われでもしたら…)
(いやいや…でも…男の子はみんなおっぱい好きっていうし…)
ユキは自分の胸を見る、そこには平坦な台地が広がっていた。
つまり貧乳、俗に言うまな板である。
(…考えないようにしよう…)
そう思いながらも、ユキは目の前で横になっているわん子のものと見比べてしまうのであった。
その時である。
「わーーーーーーー!!!!」
隣の部屋からトオルの悲鳴が聞こえた。
「な、何なの⁉」
「ご主人たま⁉」
二人は一斉にトオルの部屋へと駆け出す。
ガチャ
そして二人は同時にドアを開ける。するとそこには、ベッドでトオルの上に覆いかぶさる美女、と言う男なら羨ましい状況が広がっていた。
その美女の容姿はまるで本当に絵画の中から出てきたような美しさで見るからにグラマラスな体型である、さらにその黒い髪を辺りまでおろしており、着ているか着ていないかと思われるような胸元の大きく開いた服の隙間から浅黒い肌とわん子以上の柔らかな双丘を覗かせていた。
その情報だけを見れば、絶世の美女だが。その頭からはドラゴンを思わせるような先で二つに枝分かれした角が生えており、さらに背中からは小さく黒いコウモリのような翼が生えていた。
隣の部屋で寝ていた二人はその姿を見るやいなや悲鳴を上げる。
「「キャ―――――!!!!」」
「わーーーーーー!!!!」
「あらら」
「「キャーーーー!!!!(トオル/ご主人たま)がまた別の女を連れ込んでる!」」
「わーーーーー!!!!ちがうっての‼」
「あららら」
今日の朝と似たようなやり取りをもう一度繰り返す3人。
その3人とは反対に現れた新しい美女、いや悪魔の反応はとても落ち着いたものだった。
「トオル君?この子達は?」
「その前に誤解されるからあんたから名乗ってください!ていうか先に降りてください!」
そう言ってトオル真っ赤な顔ではじたばたと暴れる。
「仕方がないわねぇ」
そう言うと、体のあらゆるところをトオルに押し付けるようにしてノソノソとベッドから降りる。
「また悪魔なの⁉」
「ご主人たま、私以外の悪魔を連れ込むなんて…ひどい」
二人は勝手に思い思いのことを口にする。
だがそんなことは気にもせず、美女は自己紹介を始める。
「私はトオル君の『H』な気持ちに反応して契約された悪魔、サディック・S・サディストと申します。どうぞよろしく」
「「えーーーー!!!! SM⁉」」
「ご主人たまにそんな趣味があったなんて……」
「私はトオルをそんな子に育てた覚えはありません!」
「違うからね⁉違うからね⁉」
「確かに今は違うけど…今から鞭打ち拷問何でもありの超超超ハードなプレイで絶対立なドMに成長させてみせるわ♡」
「あんたは悪魔か⁉」
「悪魔だけど?」
「ああ…そうだった…。ていうかそろそろ二人も落ち着けよ」
「はぁ…まあトオルにそんな趣味がないことぐらい知ってたけど…いきなり現れた悪魔にトオルがドMに改造されるのはいただきないわね…」
「私もご主人たまが新参者の悪魔に横取りされるのは許しせません!それにご主人たまはそんな巨乳には騙されません!ご主人たまが一番好きなのは私のサイズですから!」
そう言ってわん子がムニュっと自分大きな胸を叩いてみせる。
「いや、トオルが好きなのは貧乳だから!」
とユキもわん子と同様に胸を叩いてみせるが、ぺちっと言う貧相なことしか鳴らなかった。
「どうした?ユキまで…寝ぼけてるのか?」
その言葉を遮るようにサディックが発言する。
「えー?本当に?でもさっきミニトオル君が反応してたような…」
「「「え⁉」」」
その発言に他の3人の声が重なる。
「トオル、本当なの?」
「本当なんですか?発情期ですか?」
「ちょっと待て!俺は本当に何ともなかったからな⁉」
その発言通り、通常であればこの状況に反応してしまうミニトオルはここではあまりの状況の移り変わりの早さに何ともなかったのだ。
しかしそんなことも知る由もない他二人はトオルを問い詰める。
「信用なりませんね…確認を…ハア…ハア」
わん子が頬を赤らめながら近づく。
「え、それはちょっと…」
「わん子!お前は見たいだけなんじゃないのか⁉」
「いや、ご主人たまのユキもこれは確認ですから…正当な理由ですから…決してやましいことなど…ハア…ハア」
「そ、そうよね…これはあくまで確認だから…」
ユキが自分を納得させようと独り言のようにつぶやく。
「ユキ⁉え?本当に⁉」
迫り来る二人。焦るトオル。
そしてそれをサディックは楽しそうに眺めていた。
それに気付いたトオルがサディックを睨む。
「サディック…お前…まさか、わざと…」
ニヤリ
サディックは興奮と歓喜が入り混じったような笑みを浮かべる。
その笑みでトオルは全てを悟る。
しかしその時には全てが遅かった。
「「H」な悪魔っていうかただのドS変態悪魔じゃねーかあぁぁぁぁぁぁぁぁーー!」
その後のトオルは悪魔と柔道少女の圧倒的な力の差にねじ伏せられるのみだった。
*
ちなみにトオルの純潔は何とか思いとどまったユキによって守られました。
・おまけ・
「ねぇ、わん子?」
「 何ですか?サディック」
「なんであなたトオル君のこと『ご主人たま』なんていう呼び方で呼んでるの?そういうプレイなの?」
「ちげーよ!ていうかこの話前回終わっただろうが!」
「あらそうなの?」
「はい」
「私の予想では、『ご主人たま』の『たま』はトオル君のキ〇タ「ストーーーーーップ‼そんなわけないだろうが!てゆうか投稿できるわけないだろうが!」
「まあ、それもありますね…」ポッ
「いや、あるんかい!」