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episode9:それぞれの思い

「落ち着け、シャルル。ダーク・フリード、剣を交えて何か分かったか? 」

 ダーカーは荒れるシャルルを宥めてから、フリードに尋ねた。

「小細工の通じる男でも、小細工をする男でもございません。ここは正面から挑むべきかと。」

 すると背後から豪快な笑い声が聞こえてきた。

「なるほど、その役目、このグリードヴァルが引き受けよう。」

「策はあるのか? 」

「策など要らぬ。ダーク・フリードも、たった今、正面からと申したではないか。手強き相手がゼロ一人ならば、三万も兵を率いて攻め込めば奴も相手をしきれまい? 俺は俺の顔に傷つけた九帝騎士共を蹴散らして怨みを晴らす。」

 そう言い放つとグリードヴァルは出ていった。

「数で押し切れる相手ではないと思うのだが。」

 ダーク・フリードは物量で押し切ろうとするグリードヴァルの策に懐疑的だった。ただ、それだけの大軍勢に零が気づかない筈もなかった。

「なんだ? 出迎えは貴様一人か? 」

 待ち伏せには見えなかった。三万の兵を前にして零が一人で立っていた。

「緋焔帝国、国境警備隊隊長のゼロだ。」

「ダーカー王が怨託の騎士、グリードヴァル。この数を相手にどうするつもりだ? 」

「数だけで、ここを通れると思うなよ。」

「ぬかせっ! たとえ貴様が一騎当千たりとて、三万の兵を抑えきれるものではないわっ! 者共、進軍せよ。ゼロを踏み潰せっ! 」

 だが軍は一歩たりと前に進む事は出来なかった。

「何故、進まぬっ? 」

「そ、それがグリードヴァル様。何やら見えない壁のようなものが。」

「なんだ、魔法か? 」

「いえ、魔力は感じられません。」

 グリードヴァルは馬上から腹立たしそうに零を見下ろした。

「ダーク・フリードからは小細工はしない男だと聞いていたのだがな。」

「こんな弱い相手に小細工なんて必要ないだろ? 」

 するとグリードヴァルの態度が硬化した。

「このグリードヴァルを愚弄するとは、いい度胸だが後悔するぞ。」

「フッ。国を背負って攻め込むと云う事は相手が自分より弱いと踏んだ時だろ? だが、国を守るという事は相手が如何に強くとも防がねばならない。つまり進攻より防衛の方が真の強さを要求されるんだよ。」

「ならば、貴様の強さ、見極めてやるっ! 」

 グリードヴァルは馬に鞭を入れたが、やはり前には進まない。

「お前の部下が言ってただろ? 貴様らと俺の間には見えない壁がある、どれだけの腕前だろうと、どれだけの数だろうと、どれだけの魔力だろうと、そう簡単には破れないぜ。」

「おのれっ! 」

 馬から降りるとグリードヴァルは手にした槍をおもいっきり零目掛けて突き出した。しかし、零に届く事はなく、先端がグニャリと曲がってしまった。

「なぜ、戦わぬ? これ程の能力があるなら本気を見せてみよっ! 」

「お前がどんな怨みをダーカーに託したかは知らないが、そいつを捨てるなら止めを刺す気はないんだがな。」

 零にしてみれば異世界の争い事に何処まで干渉してよいものなのか、まだ迷っていた。だが、そんな事情をグリードヴァルが知る由もない。

「せっかくだが、怨みを捨てる気も、ここで止めをを刺されるつもりも無ぇ。貴様は、このグリードヴァルが倒す。覚えておれ。者共、撤収だ。帰るぞっ! 」

 結局、この日もダーク・キングダムの進攻は未遂に終わった。

「焔帝自ら俺の監視か? 」

 振り向きざまに言うとミロが姿を現した。

「なかなかの手腕だな。だが、追い返しただけというのは何故だ? 」

「あの数を追い返すのは簡単だが、倒すとなると、そうもいかない。かといって現状の緋焔帝国の戦力で立ち向かっても死傷者を増やすだけだろ? 」

 するとミロも頷いた。

「確かにな。魔法が通用しない原因の究明と兵たちの実力向上は急務だな。お前のような能力ちからを他の者も持てればいいのだが。」

「お薦めはしないな。俺の能力ちからは生まれつきだが悪用されると今以上に戦局は難しくなるぞ。」

「それは困る。まだ、暫くはお前の世話になるしかなさそうだな。」

 ミロに他意が無い事はわかっている。監視というよりはロゼの代わりに来たのだろう。だが、焔帝ともなれば、もう少し自分の立場を弁えて自重してもらいたかった。案の定、城に戻るとロゼが駆け寄ってきた。

「やはり俺よりゼロが先か? よほど焔帝より国境警備隊隊長の方が… 」

「コホン。」

 メイド長がわざとらしく咳払いをするとミロは苦笑して言葉を止めた。だが、その間もロゼは怪我は無いか、綻びは無いかと零の周りを回っていた。

「ふぅ。」

 ミロは頭を抱えて溜め息を吐いた。

「え? 兄上、何か? 」

「いや、なんでもない。」

 ミロの思いもメイド長の気遣いも気づいてはいないようだった。今回の零の活躍は公にはされなかった。それは零が遠慮した事もある。それ以上に国民にも兵士にも安心感を与えると同時に、皆が零1人に頼りきってしまう事と、もし零が倒れた時に即、絶望に繋がる事をミロは避けたかった。

「やはり、何も出来なかったか。」

 戻ったグリードヴァルに無感情な口調でフリードが声を掛けた。むしろ無感情なのがグリードヴァルには腹立たしい。嘲られた方が、まだ反論も出来ようものを。

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