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episode8:竜殺し

 ダーク・フリードは国境付近で零が来るのを待っていた。すると、そこへ意外にも零が一人で現れた。

「今日は一人でお散歩ですかな? 」

「そういう、そちらは男二人で散歩か? 」

 零の言葉にダーク・フリードは眉を寄せた。

「なるほど、貴様は知らぬ事らしいな。」

 突然、少し離れた岩場が崩れ、慌ててパーシュが姿を現した。

「パーシュ・ヴァルツ!? 何をしに来た? 」

「生憎と、これもダーカー王の御命令でね。それより驚いたな。うちのダーク・フリードさえ気づかなかった俺に気づくとは。確かに侮れない相手のようだ。」

 その様子に零は苦笑した。

「何が可笑しい? 」

 ダーク・フリードは腹立たしそうに言った。自分の知らぬ間に、ダーカーがパーシュをつけた事に苛立っているようだった。

「どうやら、私は引き上げた方が良さそうだな。」

「い、いや、それは… 」

 それは困ると言いかけてパーシュは言葉を濁した。今、零をこの場から放す訳にはいかない。だが、その理由がダークの提案を却下した筈の山越えしての橙雷攻めだ。パーシュにはフリードがへそを曲げるのが目に見えていた。

「パーシュ・ヴァルツとか言ったな。安心しろ。山を越えての橙雷攻めは、どちらにしても失敗だ。」

「どういう事だ、パーシュっ! 」

 一旦はパーシュの胸ぐらを掴んだフリードだったが、すぐに手を離し零の方に向き直った。

「見苦しいところを見せたな。事の次第は後でダーカー王に確認するとして、今は如何なる理由があろうと、私は貴様と剣を交えねばならぬらしい。」

「だから、向こうが失敗したんだから陽動の意味はないだろう? 」

 この場に居て山越えの橙雷攻めを失敗したと言いきる零の言葉がパーシュには信じ難かった。フリードはそもそもが陽動のつもりで、この場を訪れた訳ではない。だが、実際に橙雷攻めは失敗していた。

「な、何故、我々の山越えがバレている!? 」

 シャルルは予想外の待ち伏せに遇って焦っていた。

「貴様らが山を越えて攻めて来ると知らせてくれた者がおってな。かかれいっ! 」

 橙雷の軍は隊長の指示の元、弓矢、落石、落とし穴に丸太落としと次々に仕掛けた。魔法は通じず、剣の腕には自信も有った。だから、山中という不慣れな場所で橙雷帝国の国境警備隊に遭遇したとしても後れを取るとは考えていなかった。それが、こんな原始的な手法で撤退に追いやられるとは思ってもみなかった。ラース・ロットの助けを借りて何とか撤退したシャルルは悔しげに発煙筒で黒い煙りを上げた。その煙りの色を見て、ようやくパーシュも零の言う事を信じる気になったようだ。

「いや参ったね。本当に失敗したらしい。しっかし気に入らない。何もかも気に入らないな。その何でも見透かしたような態度も、訳のわからない予言めいた発言も、全部が気に入らない。一体あんた、何者なんだ? 」

「今の俺は緋焔帝国国境警備隊長だ。それ以上でもそれ以下でもない。」

「パーシュ、下がれ。私は予定通り、こいつの力量を確かめてから行く。」

 フリードとしても、このまま引き下がるのは納得いかなかった。

「じゃ、構えな。」

「言われるまでもない。」

 さすがに、このタイミングで手を出せば自分がフリードに斬られかねない事をパーシュも知っている。勝負は一瞬だった。フリードが構えから踏み込もうとした次の瞬間、フリードの剣は宙を舞っていた。

「何っ!? 」

 剣を弾き飛ばされたフリード自身が一番、信じられなかった。

「次、来る時は自身の得物を持って来るんだな。」

 零の言葉にフリードは驚きを隠せなかった。

「貴様、何故それを!? いや、それが何だか知っているというのか? 」

竜殺し(ドラゴンスレイヤー)・・・だろ? 」

 フリードはパーシュを下がらせて正解だと思っていた。

「それを承知で次と言うのか…正々堂々。それが貴様の騎士道と見た。ならば聞かせてやろう。私は竜に国を滅ぼされた亡国の王。今は竜への怨みをダーカー王に託した怨託の騎士。私は竜を倒すまで敗れる訳にはいかぬのだ。」

「悪いが俺には語るべき理由はない。俺は戦士として守るべきを守る。それだけだ。」

 戦闘中の事故でこの世界に飛ばされてきただけの零に大義名分など、あろう筈もなかった。

「守るべきを守る。充分な理由ではないか。次に会う時まで、その命、預けておく。さらばだっ! 」

「この世界には本物の竜が居るのか。帰ってからミロに話しを聞いてみるかな。」

 別に零が今、フリードと戦わなかったのは正々堂々などというつもりは無かった。ここで倒すには惜しいと思ったのと、フリードの戦う理由を直接聞けると思ったからだ。零とて、のべつ幕無しに他人ひとの考えを読んでいる訳ではない。竜への怨みと云うのは意外だった。それと同時に他の騎士たちにもダーカーに託した怨みというものが有るであろう事も確認出来た。零は周囲に気配の無い事を確認すると城へ帰っていった。一方、敗走を強いられたシャルルは荒れていた。

「何故、ダーカー王の策が橙雷に漏れていた? 奴らは知らせてくれた者が居ると言っていたぞ? 」

 シャルルは疑心暗鬼に刈られていた。

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