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episode4:国境警備

「急な事ですまないが、隊長の座をゼロ殿に譲る事になった。」

 ミロから通達が出ているので驚く者はいなかったが、改めて目の前の光景に動揺が走る。いつもの国境警備隊の服装ではなく、美しいドレス姿で零に寄り添うように立っている。

「皆の気持ちはわかっている。ロゼと一緒に居たくて国境警備隊を志願した者も居るだろう。突然現れた男が隊長だと言われて面白くない者、戸惑っている者も居る。敵は剣も魔法も効かない得体の知れない存在だ。皆もロゼを危険な目に遇わせたくはないだろ? ここは一つ、ロゼの為、国の為、力を貸して欲しい。あの敵が現れたら俺が戦う。皆は警備に専念してくれ。」

 零が殊更ロゼの名前を出したのは精神感応テレパシーのチャンネルを若干開いて国境警備隊員たちの心を読んだからだ。だが、そんな事は知らないロゼは名前を連呼されて思わず頬を赤らめていた。そんな様子を見た警備隊員たちの中ではメイドたちの噂話が信憑性を帯びてくる。ただ、先日の襲撃を1人で退けた事は知れている。ミロの信頼も厚い。そしてロゼを守りたいという気持ちは自分たちと一緒だ。自分たちの気持ちをわかってくれている。国境警備隊員たちは一致団結した。全ては零の掌の上なのだが。その様子をこっそり見ていたミロも感心していた。

「ふむ。人心掌握にも長けているようだな。」

 自分が任命したとはいえ、鳴り物入りである。隊員たちが反発するようであれば自ら説得するつもりでいたのだが徒労に終わった。零は早速国境警備に出る事にした。零はまだ、ロゼと出逢った周辺の地形しか頭に入っていなかったので、やはり自分の目で国境の状態を見ておきたかった。緋焔帝国は九帝国の中でも南端にあり、温暖な気候に恵まれていた。

「今日は何も出ないようですな。敵も新隊長に恐れをなしましたかな。」

「世辞は要らないし、恐れもなしてないようだ。」

 零が一点を見据えると、岩影から鎧姿の女性が高笑いをしながら出てきた。

「ハハハハハッ。今度の国境警備隊長さんは手強そうだネ。」

「女!? 」

 そう声を挙げた隊員の方を女性が睨み付けた。

「女だからって舐めるんじゃないよ。あんたらの隊長だって昨日まで女だったろうが。」

「なっ 」

 食って掛かろうとする隊員を零が下がらせた。

「念のため聞くが、ラースの仲間だろ? 名前は? こんな所に1人で来た用件は何だ? 」

「何故1人だと思う? 伏兵が潜んで… 」

「いない。」

「魔物を隠して… 」

「いない。」

 零は相手を真っ直ぐに見据えて否定した。

「な、何故言い切れるっ!? 」

「実際にいないからだ。」

 事実、いなかったので反論のしようがなかった。

「言っておくがラース達とは仲間ではない。同志だ。仲間などと安っぽい言い方をするな。」

「それはどっちでもいいんだが、名前は? 」

「シャルル… シャルル・ダークだっ! 」

「ラースといい、貴様といい、将として敵の前に現れたなら、堂々と名乗りくらい上げてもいいだろう? 」

 距離を詰めるでなく、開くでなく、零とシャルルは一定の距離を保っていた。

「何処の国のしきたりかは知らないが、何故名乗らねばならない? 」

「国境付近で会った女とか、このあいだ襲撃してきた男、なんて言うよりシャルルとラースの方が簡単だろ? そっちだって名前の方が楽だろ。誤認も少ないし。」

 理は通っているとシャルルも思った。零はシャルルに色々と考える間を敢えて与えた。考えれば考えただけ思考が読める。どうやら今日のところは、ラースを撤退させた零を観察に来たらしい。見つかり難いよう単独で来たので零に見つかったのは予定外か。そこへ別の思考が飛び込んできた。

「ラースの御到着か。」

「な、何故分かった!? 」

 驚いたように警備隊員のかなり後ろからラースが現れた。これには背後を取られた警備隊員はおろか、シャルルさえも気づいていなかったらしい。虫や動物の擬態や保護色と違い、偶々隠れてしまったのでなければ、人間の隠れるという行為には隠れようとする明確な意思が働く。

「俺と隠れんぼなんて、千年早いんだよ。シャルルの様子を見に来たんだろ? 連れて帰りな。」

「次に会う時には決着をつけてやるっ! 」

 ラースとシャルルは姿を消した。念のため零が周囲を探ったが、本当に撤退したようだ。

「隊長。何故見逃したのですか? 」

「ミロに国境警備隊の装備の見直しを頼んでみる。2人を相手に今のお前たちの装備じゃ守りきれない。」

 あのまま戦えば警備隊員たちに負傷者が出るのは目に見えていた。

「我々は国境警備隊です。怪我の1つや2つ恐れはしません。」

「警備隊なら、奴らを撤退させたんだ。任務は遂行出来ている。それに俺にも奴らの能力は未知な部分もある。怪我どころか命に関わるかもしれない。そんな事はミロもロゼも望んではいない。」

 ミロとロゼの名前を出されては隊員たちも返す言葉が無かった。

(情報が足りない。ラースが来るのがもう少し遅ければ、シャルルの深層から情報を見つけられたかもしれないんだがな。)

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