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episode34:シャルル・エトワール

 おそらくは、これがゼロとダーカーの最後の戦いとなるであろう。そう考えると年代記(クロニクル)()記録者レコーダークロノスとしては少々、面白味に欠ける。長い間、マァリンに封印されていたが為に、結末部分しか記する事が無い。クロノスは一冊の手帳を取り出した。

「ふん。余が直接、記した訳でもない記録という名の記憶など残しておいても意味は無いな。あの小娘の元へ帰るがいい。」

 クロノスが手帳を宙に投げると光の粒となって風に流されていった。


 ***


 橙雷帝国の雷帝マロに預けられていたシャルルは光の粒に包まれたかと思うと不意に眩暈がして倒れ込んだ。

「大丈夫か、シャルル姫? 」

 マロが声を掛けるとシャルルが目を覚ました。

「ラスコー将軍? 何故、ここに? …痛っ。」

 シャルルは起き上がるなり妙な頭痛に襲われた。

「まだ休んでいた方がいい。」

 昔の名前で呼ばれたマロが寝かしつけようとしたがマロの声が聞こえていないのか、シャルルはじっと自分の手を見つめていた。

「私はシャルル… エトワール王国のシャルル・エトワール… だった… 。王国は… 父上… 母上… 私は… !? ここは? ダーカーめは何処に! 」

 シャルルは記憶が混乱していた。 ダーカーによって奪われていた記憶をクロノスによって突然、返されたのだから無理もない。シャルル・ダークとして過ごした日々の記憶が消えた訳でもない。ただ、記憶を奪われる前から見知った顔がいたのは幸いだった。

「ラスコー将軍… いえ、今は雷帝マロとなられた… のでしたよね? 」

 自分の記憶を確認するようにシャルルがマロに問いかけた。

「事情と状況と理由は存じませんが、元に戻られた… と思ってよろしいかな? 」

 マロとシャルルは互いの問いに答えるように頷いた。

「とはいえ、やはり白陽のソロ皇帝… いや、大魔術師ソロモン殿に診てもらうべきか。」

「いや、その必要はないだろう。」

 いつの間に、どうやって入ってきたのか、そこにはソロモンが居た。

「白陽はよろしいのかな? 」

 マロが問うのも無理はない。ソロモンも表の顔は一国の皇帝である。そう簡単に外出されては臣下はたまったのではないだろう。

「心配は無用だ。この姿は幻影のようなもので実体はちゃんと白陽帝国に居る。ゼロほど身軽な立場ではない。けれど、まぁ姿が見えた方が話し易かろうと思ってね。それよりシャルル姫の暗示の件だが… 私に診せようというのはホーエンハイム辺りの入れ知恵だろ? どうやら彼も黒冥の皇帝クロ… というよりはクロノスが、このタイミングでシャルル姫の記憶を戻すとは思っていなかったのだろう。ダーカーの暗示など私にすれば大したものではない。」

 思わずマロとシャルルは顔を見合わせると互いに首を捻った。

「すまないが言っている事が飲み込めんのだが? 」

 マロの問い掛けにソロモンは苦笑した。

「いや、すまない。端的に言えばエトワール王国や旧エクレール、ダークとなってからのシャルル。その全てを知っているのは私やホーエンハイム、それにクロノスやマァリンを除けば雷帝マロしかいないのだから、貴公の元に居るのが一番だと言うことだ。おっと、どうやら皇帝としての務めのようだ。これでおいとまするよ。」

 ソロモンの幻影は呼び止める間もなく消えてしまった。

「な、なんだったのでしょう? 」

 さすがにシャルルも、きょとんとしていた。

「突然、現れて言うだけ言って消えるとは… 。まぁ、なんだ。シャルル姫の身柄は橙雷帝国が預かるということでよろしいかな? 」

 しかしシャルルは首を横に振った。

「ダメです。」

 意外なシャルルの反応にマロは困惑していた。

「たった今、ソロモン殿もおっしゃったではありませんか。マロ殿の元に居るのが一番だと。ですから私の身柄は国としてではなくマロ殿の側に置いてください。」

「あ… いや、この性格だ。前線に立つことも多いからだな… 」

「ならば、その背中は私が守ってさしあげます! 」

 戸惑うマロにシャルルは毅然と返してきた。

「しかしシャルル姫… 」

 なんとかシャルルを思い止まらせたいマロだったが、どうにも言うことを聞いてもらえる雰囲気ではない。

「別に罪竜の加護などダーク・キングダムには無意味ですしね。それからエトワールは既に亡国。私のことはシャルルとお呼びください。私も陛下とお呼びしますので他の臣下の方々と同様に扱ってくださって結構です。」

 どうあってもシャルルの決意は変わりそうにない。

「わかった、シャルル。だが臣下になった訳じゃないんだから陛下じゃなくマロって呼んでもらえるか? 」

「マロ… 陛下… 」

「そっちが陛下ってつけるなら、こっちもシャルル姫って呼ぶぞ? 」

 シャルルも困惑していた。

「そういう小狡いところはエクレールの将軍時代から変わらないのですね。」

「で? 」

「…マ…マロ。」

「では余の背中は預けたぞ! 」

「はい! 」

 橙雷帝国からダーク・キングダムに向かうには九帝国の最南端、緋焔帝国を通過しなければならない。国境に差し掛かったところにはロゼが待ち構えていた。

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