episode33:フリード
ダーク・キングダム内では下級兵士の間で不安が広まっていた。罪竜の加護を得た怨託の騎士。たとえ九帝国の皇帝と云えども凌駕する存在。だが、そんな存在をも凌駕する者が現れた。しかも、その名はゼロ。いつしか創世の破壊王の再来と噂されるようになっていた。
「いずれフリードが我に刃向かう事は目に見えていた。それでも、ゼロをファーヴニルで仕留めてくれれば処断は、それからと考えておったのだがな。」
ダーカーとすればフリードの裏切りは折り込み済みだったようだ。ただ少し、予定とは食い違ってもいた。ゼロとフリードが争って共倒れになればよし、どちらかが残っても消耗した状態ならば討ち易しと踏んでいた。それがシャルルを救う為に裏切りが前倒しになるとは思っていなかった。一方、マァリンはと云えば遅かれ早かれフリードは裏切ると思っていたので意に介してはいなかった。
「マスター、誰から始末しますか? フリード? シャルル? ゼロ? それともダーカー? 」
A2はマァリンをマスターとして認識していた。見た目はアルターと変わらないが、その性格は大幅に変更されている。
「そうだな… 一番厄介なのはゼロだが未知数な部分も多い。あのファーヴニルという剣もなかなかに厄介な代物だしね。」
マァリンの言葉を受けてA2は、その場から姿を消した。そして次の瞬間にはフリードの背後に現れた。フリードはA2の気配に反応してファーヴニルを一閃した。完全にA2の死角から放たれた太刀筋にも関わらず、ファーヴニルの刃はA2を捉える事は出来なかった。
「貴様もアルターか? 」
フリードの問いにA2は自嘲した。
「ある意味では正解。だが、ある意味では不正解だ。私はアルターほど身勝手ではないし、ダーカーほど愚かでもない。マスターの邪魔となる存在は排除するのみ。」
A2は自分の身の丈の倍はあろう巨大な鎌を構えていた。
「なるほど。この私と本気でやり合うつもりのようだな。」
A2の巨大な鎌には鬼火のようなものが纏わりついていた。それは、その鎌をA2が手にする以前から多くの命を吸ってきた事を物語っていた。さすがのフリードの背筋にも悪寒が走った。だが、ここで退く訳にはいかない。目の前にいるこの男は、ここで倒さねばならないと本能的に悟っていた。フリードも剣を構えた。両者の間に沈黙が流れた。そして、静寂を破ったのはA2だった。フリードが斬りかかる前に、A2は目にも留まらぬ速さで、その巨大な鎌を振り下ろした。間一髪、躱しはしたがA2はアルターよりも腕は上のようだ。
「いいだろう。竜殺しの技、ゼロ以外に放つ事になるとは思わなかったが… 見るがいい。滅竜技、ドラグスラッシュ! 」
「何っ!? 」
A2は完全に意表を突かれた。てっきり悲嘆竜グリーフを倒したという技が来ると思っていた。予想とまるで異なる太刀筋をなんとか躱しはしたが、大鎌の柄を断たれA2は得物を失った。
「ドラグブレイク! 」
二撃目はグリーフを倒した技だった。A2の初手の動きを見たフリードは先に得物を封じる為にスラッシュを放ち、とどめにブレイクを放った。自分の意思を持つA2を人間と見なすか単なるダーカーの複製と見るか、迷っている余裕はなかった。しかし、フリードの目的はこれで終わりではない。まだ三匹も罪竜は残っている。そしてフリードが討伐目標とする竜は別に在る。フリードは次の罪竜を倒すべく先へと進んだ。このA2の敗北はダーカーにもマァリンにとっても想定外の出来事だった。
「マァリン、アルター3の準備はどうなっている? 」
するとマァリンは渋い表情で首を横に振った。
「しばらくは無理ですね。擬似とはいえアルターも生命体といえます。人1人作るのは、そう簡単ではない。それに貴方の細胞以外の材料も不足している。何しろ倒されるまでが早すぎた。当面は戦力になりませんよ。」
そうは答えたがマァリンには、もうダーカーのアルターを作るつもりも理由も無かった。正確にはマァリンにとってダーカーの利用価値は無くなっていた。そして、その事にダーカーも気づいていた。
「残された罪竜も三匹、マァリンの目的の為には駒不足だろうな。だが、我が掌中には、もう一匹の竜が居る。あのフリードめが本命とする竜がな。」
九帝国を巨大な地震が襲った。しかも、その震源は九帝国直下に三ヶ所、帝国外に一か所の同時多発地震。しかし建造物の一部倒壊はあったものの人的被害は皆無であった。それは奇跡でも何でもない。事前にゼロが予知していたからに他ならない。罪竜にはソロモン、ホーエンハイム、そしてフリードが向かっていた。フリードにとっては苦渋の選択ともいえる。何故ならフリードの目標物をゼロに譲ったのだから。ゼロは独り九帝国最南端、緋焔帝国は外門の前に居た。その眼前には禍々しい殺気を放つ巨大な竜が待ち構えている。
「お前の後には大魔法使いマァリンの相手をしなくちゃならないんだ。とっとと退場してもらうぞ、死竜! 」




