表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/34

episode31:ファーヴニル

 一つ、言える事はシャルル以外の言葉は一貫してシャルルが暗示を掛けられていると云うことを肯定しているという事実だった。

「フリード、説明してくれ。どういう事なんだ!? 」

 この場に居る人間の中でシャルルは一番信用の置けるフリードに問い掛けた。しかしフリードは、それには答えずにゼロに視線を向けていた。

「もう一度、訊く。シャルルの暗示を解けるか? 質問の意図は判っているのだろ? だが、こちらは言葉にされないと伝わってこないのでね。」

 フリードの言うとおり、ゼロから読み取る事は出来るが、会話となるとロゼのようにはいかなかった。

「そいつぁ、難しいと思うよ。彼にはさ。」

 突然の声にフリードもマロも、そしてゼロさえもが驚いた。誰も、その気配も意識も感じる事が出来ていなかった。

「貴兄は? 」

 冷静にフリードは、その人物に尋ねた。

「僕の事はどうでもいい。今はシャルル嬢の暗示が問題だろ? 掛けたマァリン以外に、そいつを解けるとしたら白陽の皇帝ソロモ… ソロくらいなもんさ。僕やゼロじゃ系統が違う。九帝魔法でもゼロの能力でもない。」

 ダボダボの土褐色のコートを纏ったその人物はマイペースで語るが、その脇でシャルルは不安に怯えていた。

「可能性が在るのならばシャルルを貴兄に預けようとも思ったのだが、名も知れぬ相手というのは些か怪しまざるをえないな。」

 フリードに言われてその人物はやれやれという感じで頭を掻いた。

「はぁ… どうせ偽名を名乗ってもゼロにはバレそうだし仕方ないか。僕の名前はホーエンハイム。創世の破壊王ゼロ、大魔法使いマァリン、大魔術師ソロモンと一緒に九帝国に分割される前の国を作り上げた、俗に大錬金術師と呼ばれているのが僕さ。」

 ソロから聞かされた時のトリヴィラン同様、フリードにも俄には信じられない話しだった。しかし、ダーカーの側に居るマァリンが大魔法使いであるならば、あり得る話しだとも思えた。

「ゼロ、この者の話しに嘘、偽りは無いか? 」

 フリードはゼロに問い掛けた。

「人を嘘発見器みたいに聞くなよな。俺が嘘を言うかもしれないだろ? 」

 ゼロの言葉にフリードは冷笑を浮かべた。

「シャルルの今後が懸かっている場面で、貴様は嘘を吐くような男ではないよ。」

 今度はゼロが自嘲する。

「買い被られたもんだな。いいぜ、保証する。こいつは本物のホーエンハイムだ。そして白陽の皇帝がシャルルの暗示を解けるっていうなら… 」

「大魔術師ソロモンという事だな? 」

 即答したフリードにゼロは頷いた。

「ならばシャルルを預けよう。シャルル、こいつらを信じられぬなら私を信じては貰えぬか? 」

 パニック状態のシャルルは自分で判断する事が出来ず、漫然と頷いた。

「で、シャルルを預けて、どうするつもりだ? 」

 踵を反したフリードをゼロは呼び止めた。

「この橙雷の国境で会った時に言ったであろう。私は竜への怨みをダーカー王に託した怨託の騎士だと。このままでは罪竜全てをゼロたちに狩られかねないのでな。我が剣ファーヴニルの小手調べに悲嘆竜グリーフを斬らせてもらう。」

 一瞬、シャルルが驚いた表情を見せたが、それ以上の動きはなかった。

「それが本来の貴様の得物か? 」

 ゼロの問いには答えずフリードは、その場を立ち去った。

「それじゃ、後は任せたよ。」

「ちょっと待てよ。」

 続いて立ち去ろうとしたホーエンハイムをゼロが呼び止めた。

「何かな? 僕も忙しいんだから手短に頼むよ。」

「シャルルをソロモン所に連れて行くんじゃなかったのか? 」

 ゼロの態度にホーエンハイムは悪戯っぽく笑みを浮かべた。

「うんうん。僕の考えが読めないとは少しお疲れのようだね? まぁ、こんな事で無駄に能力を使うことはないって判断したのかもしれないな。だとすると少し面白くない。でも、まぁ言葉にしてあげよう。シャルルは雷帝マロに預けるよ。因縁もあるだろうし。何よりソロモンは僕を知っていても白陽帝国の兵士からすれば僕はただの不審者にしか見えないだろう。しかし橙雷の皇帝となれば素直にソロモンの元に案内してくれる筈さ。大丈夫、今の一部始終を見ていたんだ。マロ陛下はちゃんと用事を果たしてくれるよ。それじゃ失礼する。」

 ホーエンハイムは現れた時と同様に一瞬で姿も気配も消してしまった。

「… 頼めますか、マロ皇帝? 」

 ゼロの問い掛けにマロは力強く頷いた。

「あぁ、任せておけ。シャルル姫は国賓として扱わせて貰う。これは元エクレールの将としての責務だ。必ずソロ皇帝に暗示を解いて貰ってみせる。」

 豪胆に答えたマロだったが、ゼロにはシャルルが怯えているように見えた。

「レイ、居るんだろ? シャルルに付き添ってやってくれないか? 」

 貪食竜ディヴァゥアを封じてから隠れていたレイが渋々出てきた。

(なんで、そういう気遣いが私にだけ、出来ないのかしら。)

 レイは精神感応テレパシーでダイレクトに訴えた。

(フリードがグリーフを倒すまでマロの魔法はシャルルに通用しないんだから仕方ないだろ? )

「はぁ。いいわよ。可愛い弟の頼み(・・・・・・・)だからね。」

 さっさとゼロに背を向けるとレイはシャルルを連れていった。ゼロも緋焔帝国へと引き揚げてていった。

「なんだ、ありゃ。ブラコンか? 」

 事情を知らないマロは呑気に呟いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ