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episode3:魔法じゃない

「ゼロ。お迎えに上がりました。」

「緋焔帝の妹君がわざわざ・・・ 」

 扉を開けたところで零が固まった。

「は、派手だったかな? 」

「い、いや。綺麗だよ。」

 言われ馴れない言葉を聞いてロゼも赤面した。その様子を柱の陰で見ていたメイドたちが、またざわめく。

「さすが、メイド長のお選びになったドレス。華美にならず、華やかで清楚。きっと殿方の注目の的ですわ。」

「えぇ。きっとゼロ様も姫様の虜に違いありませんわ。」

 本人たちを差し置いてメイドたちは大盛り上がりだ。零がロゼの手を携えて広間に現れるとミロ自ら出迎えた。

「二人とも、お似合いだな。」

 言われた二人も軽く会釈をする。ミロは衣装が似合っていると言っていたのだがメイドたちはもう緋焔帝陛下公認だと更に盛り上がる。実のところ、ミロの即位以降、緋焔帝国では華やかな話題に乏しかった。九帝国の関係は安定していたものの、国境付近の不穏な空気は疑心暗鬼を招き、最悪、一触即発となりかねない。その為にミロは国境に自分の妹を送り出し、敵意の無い事を示そうとした。そして、不穏な空気の正体を初めて掴んだのが零である。その零をミロは異国から来た友と臣下に宣言した。そしてメイドたちの目撃と妄想と誤解が噂話に尾ひれを付けた。宴は普通に盛り上がり、メイドたちは噂話に盛り上がる最中さなか、中庭に轟音が鳴り響いた。その音を聞いて零とロゼが同時に走り出した。

「いつの間に国境を… 私が相手をします。ゼロは下がってて。」

 ロゼは近くの兵士から剣を奪うと眼前の黒い煙のような塊に向かっていった。

「その顔は… 国境警備隊長さんだったな。目障りだ。殺れ。」

 背後に居た青褐色の鎧の男が命じると黒い煙のような塊がロゼ目掛けて動き出した。ロゼも魔法を繰り出すが、構わず塊は進んで来る。

「残念だが、こいつには魔法も剣も通用しないんだよっ! 」

 黒い煙のような塊が腕を振り下ろし、誰もが殺られると思った次の瞬間、ロゼの身体からだは零の腕の中に在った。

「え!? あの… 」

「ちょっと片付けて来る。この剣、借りる。」

 零はロゼの持っていた剣を受け取ると黒い煙のような塊に向かって歩き出した。

「貴様、何者だ? 」

 青褐色の鎧の男が兜越しに尋ねた。

「人に尋ねるなら自分が先に名乗ったらどうだ? 」

「ふぁっ。貴様のような雑魚に名乗る名など、無いわっ! 殺れっ! 」

 黒い煙のような塊が再び腕を振り上げた瞬間、その腕を振り下ろすより速く、零が剣を振り下ろした。

「だから、こいつには剣も魔法も効か… !? 」

 塊は煙のように霧散した。

「どうやら、剣も魔法も(・・・・・)じゃなくて剣と魔法は(・・・・・)通用しないって事らしいな。」

「き、貴様… 何者なんだ!? 」

「だから、先に名乗れと言っただろ。」

「俺はラース… ラース・ロットだ。」

「俺の名は… ゼロ。」

「ゼ、ゼロだと!? まさか… いや… しかし… 覚えていろっ! 」

 慌ててラースは撤退していった。

「ゼロ~っ! 」

 駆け寄ったロゼは思いっきりゼロに抱きついた。

「おいおい、皆見てるだろ。それより、さっき何で先に出た? 」

「え!? だって今日はお客様でしょ? これでも国境警備隊長だし… 。」

 すると、そこへミロがやって来た。

「その件だが… ロゼ、お前を解任する。」

「兄上!? 」

「平時であれば、お前のような者の方が荒事にならぬので良いが、あのような輩が出るようであれば可愛い妹を危険に晒したくはない。」

「ですが、このような危険な任務を誰が… 。」

「居るではないか。頼りになる男が。」

 そう言ってミロは視線を横にずらした。ロゼがその視線の先を辿ると、そこには零が居た。この世界で行く当てもないし、衣食住の面倒を見てくれると云うのであれば何もしないのは気が引ける。零は二つ返事で承知した。

「お聞きになりました? 」

「陛下もゼロ様を頼りになると。」

「先ほどの一瞬で姫様を助けた時など、速すぎて気づかないくらいでしたわ。」

 瞬間移動テレポートしているのだから気づく暇など在りはしない。

「文句はあるまい? 」

「は、はい。ゼロ殿でしたら異論などあろう筈がございません。」

 ここだけを切り取ってしまえば縁談成立と思われても仕方ないかもしれない。

「しかし、剣も魔法も効かぬ相手に何をした? 」

「俺の能力ちからは魔法じゃない。理解して貰えるように説明するのは難しいけどな。」

「そうか。俺も難しい説明を聞くのは苦手だから深くは聞くまい。ただ一つ、確認させてくれ。その方、本当に創世の破壊王とは無縁なのだな? 」

 零は頷いた。

「ロゼから聞くまで創世の破壊王が何なのかも知らなかったくらいだ。」

「兄上っ! ゼロ殿を困らせないでください。」

「何故、お前が怒るのだ? フッ。まぁよい。その方の言葉、信じようではないか。ロゼに睨まれたくもないしな。・・・皆の者。興が削がれた。今宵の宴はこれまでとする。今後も今日、襲撃して来たような輩が現れるやもしれぬ故、只今より国境警備隊長をゼロに任せるっ! 」

 たった今、目の前で起きた事象を鑑みれば、異を唱える者など在りはしない。剣と魔法に秀でた現国境警備隊長であるロゼが刃の立たぬ相手を一蹴し、そのロゼの危機を瞬時に救ってみせたのである。そしてメイドたちの噂話も徐々にではあるが広まっていた。

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