episode26:揺らぐ帝国、揺れる王国
「さてと、ちょっと本気でいこうかな。」
ゼロが睨み付けると一瞬でインヴィディアの動きが止まった。その巨体を念力で抑え込んでいた。やがてインヴィディアは膝を着いた。それは、どんなに嫉妬の炎を燃やしても抗えない圧倒的な実力差。やがて前足をつき、翼も頭も上がらない。
「人間の嫉妬心が失くなるとは思えないが、罪竜を形作るほど貯まるには数百年は掛かるだろ。」
一切の反撃を許さず、ゼロは文字通りインヴィディアを力で捩じ伏せた。この事実を二人のデスドラゴンが知るまで、そう時間は擁しなかった。
(まさか、ここまでとはな。さすが地球連邦軍第一級超能力戦士と呼ばれていただけの事はある。策を練り直す必要があるな。)
完全な誤算だった。わざわざゼロが転移してくるよりも前の時代に転移し、暗黒・王国を築き上げ、伝承にあった罪竜まで復活させたというのに、こうも歯が立たないとはダーカーにとって想定外の出来事であった。怨託の騎士の候補ならば、替えはいくらでも探せた。しかし、罪竜となると、そうはいかない。虚飾竜ヴァニティ、淫蕩竜ルッスーリアに続き、嫉妬竜インヴィディアまでもが敗北してしまった。それも惜敗ではなく完敗である。この事実は少なからずダーク・キングダムを揺るがしていた。一方で紫闇帝国皇帝フェロに続き藍嵐帝国皇帝ヒロを失った九帝国にも動揺は広まっていた。紫闇帝国については巫女の役目を終えたメロが正式に即位し、フェランについてはメロ預かりとなった。平時であれば前帝殺しの簒奪者として九帝国として処分をくだすべきところだが、現状の最優先事項は対ダーク・キングダムであり、紫闇帝国内部で処理する事に異論を唱える帝国も無かった。
「問題は空位となった藍嵐帝国の皇位だ。あの国には皇位継承権者が存在しない。」
九帝国の体制維持は対ダーク・キングダム同様に優先され臨時九帝会議が召集されていた。この状況下で会議が開けるのも、ひとえにゼロとレイの存在がある。今回の議長担当はヒロであったが亡くなった為に前回担当の蒼海帝国皇帝ネロが務めていた。意見は割れていた。過去を踏襲するのであれば、他の帝国の皇位継承権2位もしくは3位の者に継がせるというのが九帝国を築いた始祖の血脈を絶やさぬ為の方策であった。しかし、ここへ来て藍嵐帝国同様に皇位継承権者不在の国も多く、居たとしても嫡子のみで2位、3位までは居なかった。分割統治を唱える者、兼任統治を唱える者、併合を唱える者、他国に藍嵐帝国を継げる者が生まれるまで藍嵐帝国内部の者に代理をさせるべきと唱える者など意見は纏まらなかった。結局、この日は持ち帰り案件となり結論は次回に持ち越された。だが、ダーク・キングダムの怨託会議は、そう穏やかにはいかない。
「誰の許可を得て、この場に現れた? 」
純粋な魔術的同位体といえどダーカーが存命中は、あくまでも影として存在する筈のアルターが怨託会議の場に現れた事にダーカーは冷静に、だが語気は強めにアルター自身に問い掛けた。
「どれだけ対策を練ってきたのか知らないけど、貴方のやり方ではゼロには通用しそうもないからね。前倒しで交代してあげようと思ってさ。」
嘯くアルターに怨託会議の場に緊張が走った。アルターの言っている事は、いわばクーデターである。怨託の騎士もざわめく。今までは九帝国の剣も魔法も罪竜の加護によって守られてきたので好きに暴れられた。しかしゼロにはその加護が通用しない。実に三分の一の罪竜が既にゼロの前に敗北をしている。アルターの言うとおりダーカーのやり方ではゼロに通用しないのではないかと疑念が湧いても不思議は無かった。
「では、何か策でもあるのか? 」
ダーカーも今のままでは拙いとは考えている。しかし、そう簡単に対応策が見つかるとは思っていない。ゼロ1人に手を焼いているというのにレイまで現れた。もしアルターに具体策があるのであれば聞いてみてもよいと思った。しかし、アルターの答えはダーカーにとって、ダーク・キングダムにとって期待外れでしかなかった。
「それはこれから考えるさ。その過去に縛られた頭よりは名案が浮かぶと思うよ。」
「傲るなよ、アルター。私が過去に縛られているとすれば同位体たる貴様も縛られているという事になる。貴様は私にはなれても私を越える事は無い。無駄な事は考えず私が息絶えるまではおとなしくしておれ。させれば労せずしてダーク・キングダムはお前の物になる。」
「お断りだね。僕は僕の力で玉座を手に入れる。老いて手に入れた玉座では守るのが精一杯だ。今の貴方のようにね。」
アルターが剣を抜いた瞬間、ダーカーが右手を上げた。その瞬間、アルターの体を背後から剣が貫いていた。
「な… レイの言っていたとおりか… 。」
レイの言葉を覆せなかった事を無念に思いながらアルターは息を引き取った。
「やれやれ。マァリンめ、作り直しだな。御苦労だったな、トリヴィラン。」
そこには橙雷帝国の雷帝マロの暗殺に失敗して以来、蟄居させられていたトリヴィランが、かしずいていた。




