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episode25:紫闇を治める者

「なるほどね。やはり罪竜の加護が無ければ九帝国も落とすに難いか。」

 アルターの部屋の外も騒がしくなってきていた。

「まぁ親殺しも大罪なんだけど… 一個人の怨みでは罪竜を生み出す程にはならないからね。ラストがもう少し僕の思ったとおりに踊ってくれればフェランの使い道もあったんだけど。居るんだろう、ガエンヴィ。」

 柱の陰からアルターの声に応えるようにガエンヴィが姿を現した。

「ダーカーの計画と違わないかい? 」

「それは人選を誤ったダーカーの所為さ。僕の責任じゃないよ。」

 アルターの言葉にガエンヴィは自嘲気味に笑った。

「行け。」

「あくまでダーカーの命令に従うのかい? 」

 するとガエンヴィは首を横に振った。

「いいや。だがラスト亡き今、フェランでは足止めになる訳、ないだろ? ラストのロゼに対するゼロへの嫉妬も、お前のダーカーに対する地位への嫉妬も、ゼロに対する能力への嫉妬も、よくは知らないが緋焔帝国から抱えてきた嫉妬も、全てを喰らって甦るがいい、嫉妬竜インヴィディアっ! 」

 ガエンヴィの雄叫びと共に藍嵐帝国の地下奥、深く強大な振動と共に蠢く罪竜が居た。封印石は一瞬で砕け散り頭上の城をも粉々にして飛び立った。それは、あまりにも突然の出来事であり皇帝ヒロ・ジェラス・リッパーですら逃げること叶わなかった。藍嵐帝国と紫闇帝国は国境を接した隣国であり、両国の国民は互いに逃げ場を失っていた。そのどさくさに紛れるようにアルターは紫闇帝国を離れていった。正確にいえば、その動向をゼロは掴んでいた。しかし、罪竜インヴィディアをそのままにする事も出来なかった。

「ゼロ殿、兄上をお願いします。私は民の避難を誘導します。」

 この混乱の中、誰が先導してもいい状態ではない。立場のある人間でなければ従うものも従わない。たとえ現皇帝であり実兄であるフェランに追放処分とされていようともメロは皇族に生まれた者として国民を捨て置く訳にはいかなかった。

「気をつけて。」

 ゼロの言葉に頷くとメロは外へと走り出した。その頃、玉座の間ではフェランがガエンヴィに斬りかかっては、あしらわれていた。

「貴様、友ではなかったのかぁっ! 」

 フェランが叫ぶ。しかし、ガエンヴィは呆れていた。

「へぇ、本気で信じていたんだ? あ、信じ込ませたのは僕の方だったね。ほら、昨日の友今日の敵って言うだろ。所詮は虚ろなんだよね。虚ろっていたのは君だけだったけど。そもそも君は罪竜と繋がっていない。皇帝としての資質も無い。それにダーク・キングダムは九帝国、全てを滅ぼすつもりだからね。紫闇帝国だけ残すなんて選択肢は端から無かったんだ。」

 その時、部屋の中に唐突にゼロが現れた。

「なんだ、本命が来ちゃった。これなら暇潰しなんかしてないで、さっさと始末しとけば良かったかな。ところで、こいつの妹は一緒じゃないのかい? てっきり来ると思ったんだけとな。」

「メロなら国民の避難を先導している。」

 ゼロの言葉にガエンヴィはニヤリと笑った。

「聞いたかいフェラン? 君が個人の感情で僕に斬りかかっている間に妹君は危険を省みず国民を救いに行ったそうだよ。やっぱり“ロ”を名前に持つ人は違うねぇ。」

「くっ! 」

 思わずフェランはガエンヴィを睨み付けた。

「違う違う。君にして欲しいのは僕を憎む事じゃない。妹君に嫉妬する事だよ。でないとインヴィディアの餌にならないじゃないか。」

「随分と勝手を抜かすな。」

 見かねてゼロが口を挟んだ。

「当たり前だろ。僕たち怨託の騎士は罪竜と結ばれているんだ。罪竜とは人間の欲望の塊みたいなもんさ。勝手を言う方が人間らしいと思わないか? 」

「思わないな。」

 即答したゼロにガエンヴィはムッとした。

「まぁいいさ。君も、アルターも、ダーカーも… 皆、僕の嫉妬の炎を燃えたぎらせる存在だよ。フェランは餌にもなれない役立たずだったからね。代わりに… 僕を喰らえ、インヴィディアっ! 」

 叫んだ直後、城の屋根を突き破って現れたインヴィディアは一瞬にしてガエンヴィを呑み込んだ。

(何!? 紫闇帝国そっちで極端な魔力感知したんだけど? )

 唐突にレイの声がゼロの頭に飛び込んできた。

(魔力感知? 器用になったな。そんな事より、そっちは大丈夫なのか? )

 幸いにして、この世界に精神感応テレパシーを妨げるような者は居ない。さすがに罪竜を前に遠知能力を使っている余裕は無かったので聞いた方が早い。

(こっちは予知スケジュールどおりよ。)

(ならオッケーだ。)

「何をぼーっとしているっ! 」

 フェランが叫んだ。傍目には、そう見えたかもしれない。

「ここから先は足手まといだ。退けっ!」

 ゼロにそう言われてもフェランに退く気配は無かった。

「退けぬっ! 罪竜ルッスーリア復活の際は国外に逃げ、父上を手に掛け、妹を追放し、国を売ろうとした。民の安全よりも己の感情を優先するような者に紫闇帝国を治める資格など無いのだ。」

 それを聞いてゼロは嘲笑した。

「フン、笑わせる。だからといってインヴィディアを倒して国を守る力も無いだろ? 無駄死にするくらいなら、この場は俺に任せて罪滅ぼしに復興に尽力するんだな。メロは待ってるぜ。」

 本当にメロが自分を待ってくれている自信はフェランには無かった。しかし、ゼロの言うとおり罪竜を相手に出来る事など何もなかった。

「すまないっ! いずれ処罰は甘んじて受ける。」

 そう言い残してフェランはメロの元へと走っていった。

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