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episode24:雪辱のアルター

 アルターは焦らすように溜めてから口を開いた。

「元々、ロザミアはマァリンの創ったホムンクルスに淫蕩竜ルッスーリアの残留思念を閉じ込めたものだったからね。彼女は器を壊して中の残留思念だけをこのくらいの球体に封じ込めていたよ。」

 そう言ってラストに手でテニスボール程の大きさを作って見せた。

「ならロザミアは… 」

「あの球体を奪ってマァリンに器を創って貰って貰えば元に戻るよ。でも、僕なら本物のロゼにルッスーリアの思念を入れちゃうけどね。あ、罪竜の加護の無い今の君には不可能だよ。おとなしくダーカーの沙汰を待っているしかないよねぇ。」

 かつてアルターは虚飾竜ヴァニティを失ったグローウェインを自決に追い込んだ。だがそれは罪竜を失なったからではない。グローウェインは怨託の騎士たる規範である怨みを忘れ、ゼロという圧倒的な力の前に怨みを晴らす事を諦め怨託の騎士としての自己同一性アイデンティティを失なったからに他ならない。だが、ラストは違っていた。自分のものにならないロゼを怨み、ルッスーリアを倒したゼロを怨み、今またロザミアの器を壊したレイに怨みを抱いていた。これは罪竜を失ってなお、怨託の騎士に相応しいといえた。とその時、紫闇帝国の城内に困惑と緊張の入り交じった怒声が響き渡った。曰く、ゼロが追放処分にされたメロと現れたと。

「何っ! ゼロだと!? 」

「お待ちなさい。」

 飛び出そうとしたラストをアルターは止めた。

「何故止める? 」

「むしろ好機ではないのかな? 今、緋焔帝国の城にゼロは不在だよ。どうせ罪竜の加護があったとしてもゼロ同様、あのレイという女にも効果は無さそうだしね。自分の腕だけで自らの欲望を満たせばいいんじゃないかな? ここにはフェランはともかくガエンヴィも居る事だしね。」

 ラストは無言で城外へ飛び出していった。

「思ったより単純な男で助かるよ。あのレイが本当にゼロと同等なら敵わないかもしれないけど、ミロを倒してロゼを手に入れてくればよし。最悪でも罪竜を失った騎士が始末されるだけだしね。僕の手間が省けるというものさ。レイ… 僕の誘いを断った事、後悔させてあげるからね。」

 アルターもまた、レイへの雪辱を誓っていた。しかし、緋焔城ではアルターも想定外の事がラストを待ち受けていた。

「待っていたよ、ダーク・キングダム怨託の騎士ラスト・レッド。」

 乗り込んだラストをミロが待ち構えていた。

「緋翼の焔帝ミロ・レーテ・スティング… 待っていたとはどういう意味だっ! 」

  意表を突いた… とまでは言わないがアルターと会話をした直後に飛び出してきたのだから緋焔帝国に迎撃の準備をする時間など無いと思っていた。

「わからぬのか? 」

「… レイ… とかいう女の仕業だな? 」

 ゼロの姉だというのであれば、このくらいの事はやってのけるかもしれない。ラストはそう思った。

「どうやらアルターから話しは聞いているようだな。」

「ロゼとレイを渡せ。そうすれば大人しく引き下がってやる。」

 ラストの態度にミロは高笑いだ。

「何が可笑しい!? 」

「何か勘違いをしていないか、ラスト。今まで我々の力が貴様らに届かなかったのは罪竜の加護があってこそだ。その加護が無ければ貴様らの実力など恐るるに足りぬ。」

 ミロは高圧的にラストを見下した。確かにラストにとって、ルッスーリアも側にロザミアも居ないとなれば実力勝負という事になる。だがラストも退くつもりは無い。負けるつもりもない。狙った獲物は目の前だ。

「罪竜の加護無しで解放すると、この身が持たないと聞かされているけどな… 貴様がお飾りの皇帝ではない事ぐらい、視ればわかる。欲望リビドー解放っ! 」

 禍々しく強大なオーラがラストを包み込む。だからといってミロが動じる事はなかった。

「人が人の欲望の為に人を捨てるか。哀れにして滑稽。まぁ、全力を出さねば、この焔帝ミロに敵わぬと悟った事は褒めてやろう。だが、足りぬ。まるで足りぬ。所詮、罪竜の庇護無き怨託の騎士の実力とは、この程度とはな。… もはや人の言葉は届きそうにもないな。せめてもの情けだ。このミロ自ら屠ってやろう。」

 ミロが掌をラストに向けると無数の火の鳥が放たれ、ラストに襲い掛かっていった。だが冷静な判断力を失ったラストは闇雲に剣を振り回すだけだった。野生の獣ならば本能が目覚めることもあったかもしれない。人を失い、獣にもなれない。ラストはミロを前に文字通り手も足も出ずに破れ去った。

「ふむ。あの罪竜封印機とやらは量産出来ぬのか? 」

 離れて見ていたレイにミロが尋ねた。罪竜さえ封じる事が出来たならダーク・キングダムは恐れるに足りぬ。今の結果を見ればミロがそう判断するのも無理はない。

「ここでは材料が無いし、私しか扱えないし、人型ホムンクルスからだったから上手くいきましたが罪竜から思念を封じるというのは無理だと感じました。」

 レイからの否定的な回答にもミロは笑っていた。

「ハッハッハ。そうであろうな。そう簡単に事が運べば苦労は無いか。」

 一方で遠く離れた紫闇城でラストの敗北に1人、冷笑を浮かべるアルターだった。

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