episode23:屈辱のアルター
「無駄よ。過去から見た未来は可能性の名の元に分岐を増やすかもしれない。けどね、未来から見た過去史実として帰結するの。未来は変えられても過去は変えられない。それは空間軸が異なっても時間軸が並走していれば同じ事なのよ。」
たとえ枝葉は分かれようとも幹は1つ。ゼロとダーカー、そしてレイは同じ時空間軸上から、この世界に来ているが魔術的同位体といえど、ダーカーがこの世界に来てから誕生したアルターからすれば更なる分岐を生み出せばいいと思っている。これはもう理論が平行線を辿るだけで、結局はダーカーとアルターのどちらかが先に歴史の舞台から降りるまで結論は出ないのかもしれない。
「ん~。少々、度が過ぎたかな。君に怨みは無いけれど怨託の騎士を次期束ねる者として不確定要素になりそうな禍根は絶つ事にするよ。」
アルターは剣をゆっくりと抜き放った。とその時、柱の陰から何者かがアルターに斬りかかった。間一髪で躱したつもりのアルターだったが頬に血が滲んでいた。
「不意討ちとは、らしくないですね、焔帝ミロ。」
「コソコソと城に忍び込むような賊に騎士としての礼儀など不要だと思うがな。」
ミロは剣を構えたまま、レイとアルターの間に割って入った。
「陛下、ここは私が… 」
レイの言葉を遮るようにミロは首を横に振った。
「ゼロの姉上を名乗られるからには、同じような能力をお持ちだとは思うが、ここは我らが城だ。それに、こやつは他のダーク・キングダムの連中と違って剣が通用するようだしな。」
アルターはダーカーの魔術的同位体であり、ダーカーが生きている限り罪竜の加護を得る事はない。魔法もマァリンの作った衣が軽減はしてくれるが罪竜の加護ほどの力は無い。ミロの剣の腕前は噂に聞いている。ゼロと似た能力を持つと思われるレイも居る。これ以上、この場に居る事はアルターにとっては不本意ながら勝機を掴める気がしなかった。
「何故だ? 何故、ダーカーの言うとおりにならない? 僕の思うとおりにならない? 歪みが生じているのか? ダーカーが後から先に来たと言っていたのに… 今日のところは退いてあげよう。僕はまだ、歴史の舞台から降りない。降りる訳にはいかない。誰も僕を降ろせない。誰にも僕を降ろさせない。そういえば、君の名前を聞いていなかったね? 」
「嫌よ。教えてあげない。ダーカーにバレるかもしれないでしょ。」
ゼロとレイ、そしてダーカーは同じ世界線から来ているとすれば、ダーカーは二人を知っていても不思議ではない。むしろ意図的にゼロよりも後からゼロよりも前に転移してきたとすればゼロの正体は知っている可能性が高い。連邦軍第一級超能力戦士 涼輝 零。それは、元々、この世界の住人には何の意味も持たない筈だがダーカー・デスドラゴンを名乗る男にとっては大きな意味を持つ。
「いい判断だね。仲間になる気になったら声を掛けてくれれば、いつでも迎えに来るよ。」
そう言い残してアルターは姿を消した。
「まぁだ言うか? しつこい男は好みじゃないのよね。」
「なるほど。覚えておくとしよう。」
腕組みをして呆れていたレイを見てミロはそう言った。
「え!? 」
思いがけないミロの反応にレイは少し慌てた。
「? いや、貴女に奴らの仲間になられては、こちらが一段と不利になるからな。」
「あ、あぁ… そういう… 。大丈夫です。そんな事になったら、こちらの未来も… 」
「未来? 」
「あ、いえ、こちらの都合ですので、お気になさらずに。失礼します。」
レイは少し鼓動の早くなった胸を悟られぬように、そそくさとその場を後にした。一方で、先にその場から引き揚げたアルターは不満気だ。だが、それ以上に動揺している者が居た。ラスト・レッド卿である。ラストは罪竜の加護を失った事を感じ取っていた。だが、具体的に何が起きたのかまではわからない。ラストは戻ったばかりのアルターの部屋に飛び込んでいた。
「アルターっ! ロザミアに何があった!? 」
今にも掴み掛かりそうな剣幕のラストにアルターは呆れていた。
「おやおや、随分と御執心だねぇ。情でも移ったのかい? あの出来損ないの人形なら壊されちゃったよ。」
「何っ!? 」
この時、ラスト自身にもロザミアを出来損ないの人形と言われた事に腹が立ったのか、壊されたという事に怒りを覚えたのか、わからなかった。
「でも仇を討とうなんて考えないでくださいよ。計画に支障が出ても困るしね。それに前に言ったよね。あの娘を失うと今度こそ九帝国の魔法は無効化されなくなるから忘れないでと。乗り込んだところでゼロはおろか、ミロやレイにも敵わないだろうからね。」
「レイ? 」
聞き慣れない名前にラストが反応した。一瞬、アルターは薄笑いを浮かべたがすぐに消した。
「ミロがゼロの姉だと言っていたよ。本当かどうか知らないけど。ロザミアの器を壊したのは彼女だ。けど、ロザミアの中身は彼女が持っている。」
「どういう意味だ? 」
食いついた、とアルターは思った。




