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episode20:紫闇墜つ

 九帝国の最北端、紫闇帝国。淫蕩竜ルッスーリアの一件以来、警備は厳重にされていた。だが、一部の兵には封印されていた罪竜が居なくなった事で気の緩みが出ている者もあった。フェランはロザミアと並び、白昼堂々とガエンヴィとラストを引き連れて城に来た。

「おぉ、フェラン。無事であったか。ロゼ殿と一緒とはゼロ殿に助けていただいたか? なんにせよ、無事で何よりだ。」

 フェランの帰還に喜びを見せる皇帝フェロをメロが止めた。

「どうした、メロ? 」

「ロゼ、父上に御挨拶も無いとは、貴女らしくもありませんね? 」

 学友でもあったメロには目の前に居るロゼが本物とは思えなかった。だが言葉を持たぬロザミアに、自分で言い訳をする事も叶わない。たとえ言い訳が出来たとしても、それがメロには通用しない事は兄であるフェランも、よく承知していた。

「さすがメロ。よく気づいたな? 」

 フェランも開き直った。下手な猿芝居は陳腐にしかならない。

「どんなに見た目をそっくりにしても、その本質までそっくりには出来ません。私はロゼの友人であり紫闇帝国の巫女。その方からは不思議な事に罪竜ルッスーリアの封印石から感じていたものと同じ気配を感じます。」

 メロは毅然と答えた。その視線に圧倒されて後退りしそうになったのをロザミアが止めた。

「やはり、俺の即位を阻むのはお前だな、メロっ! 」

「!? 何を仰っているんですか? 私が兄上の即位を阻むはずが… 」

「えぇい、黙れ黙れっ! 嫡子たる俺ではなく、お前の名に“ロ”の音を含ませたのが何よりの証。父上は俺に国を継がせる気など最初から無かったのだっ! 」

 そう言われてはメロに返す言葉が無かった。九帝国の皇族の名前に“ロ”の音が入れられる理由は知っていたが、フェランの名前に“ロ”の音が入らない理由は聞いた事が無かった。知らないものは答えようが無い。

「やはり答えられまいっ! 」

 無言のメロの態度をフェランは自分の言ったとおりだと認めたと判断した。そして実の妹であるメロ目掛けて剣を振り下ろした。

「キャーッ! 」

 メロの悲鳴と共にメロを庇った皇帝フェロの体が崩れ落ちた。

「父上っ!? 」

「逃げよメロ。今、此奴等こやつらに対抗し得るは緋焔のゼロ殿を置いて他には居らぬ。急げ…ゲフッ 」

 フェロの言葉は、そこで途切れた。ガエンヴィの手によって。しかしトドメは刺していない。それはフェランにやらせねはならなかった。メロには逃げるしかなかった。自分1人ならば父と共に果てるもやむ無しと思ったかもしれない。だが、今は生きて兄の目を覚まさねばならない。今の兄に民を任せる訳にはいかない。その想いだけでメロは逃げた。それを追おうとしたガエンヴィをフェランが止めた。

「捨て置け。国が無ければ、ただの小娘だ。」

 そう言ってフェランは虫の息のフェロを蹴り飛ばして玉座についた。

「こいつはどうする? 」

 ガエンヴィがフェランを指差した。親殺しという罪をさせる為に。

「牢にでも入れておけば、勝手にくたばるだろう。」

 この答えはガエンヴィの… ダーク・キングダムの望むものではない。

「さっきの悲鳴で城の者が来るよ。始末した方がよくないか? 」

「ガエンヴィ、フェロの剣で俺を切りつけろ。急げ。」

 ガエンヴィの言葉にフェランは覚悟を決めた。ガエンヴィもフェランの意図を察するとフェロの剣を抜いて、致命傷にならないようフェランに切りつけ、その剣をフェロに握らせた。そしてフェランは仰向けに転がされたフェロの心の臓目掛けて剣を突き立てた。

「何事で… 陛下っ!? 」

 都合のよいタイミングでやってきた兵士たちは目の前の光景に動揺した。

「慌てるでないっ! 父上は乱心された故、断腸の思いで俺が討った。だが乱心となれば国の不名誉。表向きは急な病という事にする。他言は無用だ。紫闇帝国は長子たる、このフェランが引き継ぐ。他の者に知れぬよう棺を用意せよ。盛大な葬儀を執り行い父上の死を国をあげて悼むのだ。」

「はっ。」

 兵士たちはフェランの言葉を疑う事なく棺を取りに走った。

「随分と念入りだね? 乱心したから討ったでよかったんじゃ? 」

「いや。この大事に国を空けたメロを追放する。その布石だ。」

 この言葉を聞いてガエンヴィは内心、ホッとしていた。フェランの怨みが紫闇皇帝フェロにだけ向けられたものであれば、これで晴れてしまったかもしれない。だが、フェランはフェロを討ち、紫闇帝国の皇位簒奪をしても実妹メロへの怨みは晴れていないようだった。

「だけど、それなら何故、止めた? 」

 ガエンヴィは逃げるメロを追うとした自分を止めた理由が気になった。

「ここで始末しても面白くないだろ? それにダーカー王が九帝国を潰したいのだろ。それなら、潰れた後の国をまとめて俺が貰ってやる。」

 父を手に掛けた事によるものなのか、フェランの瞳には狂気が走っていた。もう後戻りは出来まい。こうしてダーカーの狙い通りに壊れていくフェランによって紫闇帝国はダーク・キングダムの手に墜ちた。

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