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episode18:崩れた虚構

「解らぬな。何の為に虚飾竜ヴァニティを用い出した? 」

 ダーク・キングダムの地下深くの召喚台から戻ったグローウェインに、そもそも罪竜の使用を快く思わぬダーク・フリードが厳しい声を浴びせた。

「言った筈だ。全てを持って生まれ、その全てを竜に奪われた貴殿と、何も持たずに生まれ、全てを得たいと願った私とでは怨み事の根元が違うと。理解してくれとは言わぬ、語ろうとも思わぬ、とも。私には私なりの目論見が在った。それに賭けた。そして目論見が外れ賭けに敗れた。それだけの事だ。言い訳はせぬよ。」

 そう言ってフリードの横を通り抜けるとグローウェインはダーカー・デスドラゴンの前に片足を着いてこうべを垂れた。

「ヴァニティを失なったか… 。暫し休むがよい。」

「はっ。」

 グローウェインは、その一言で下がっていった。その様子を見てダーカーは俯いて首を横に振り、親指を下に向けた。それを物陰から見ていたアルターが動き出す。表向きは似たような失敗をしたラストと差をつけるような真似はしない。だが、いまだにロゼへの執着を見せるラストに対して、虚勢を張ることもしないグローウェインでは、同じ対応という訳にはいかなかった。

「何者だ? 」

 グローウェインの部屋ではアルターが待っていた。

「僕はアルター・デスドラゴン。ダーカーの魔術的同位体さ。」

「その同位体が何の用かな? 」

 グローウェインはアルターの胸に描かれたダーカーと同じ紋章を見て言った。

「アルターと呼んで貰えるかな? 貴方も知っての通り、怨託の騎士は九帝国の地下に封印されている九匹の罪竜と契約する事で九帝国の魔法を無効化している。」

 グローウェインはアルターを睨み付けた。

「つまり… 罪竜を失った我輩には、此処に居る資格が無いと言う訳か。」

「半分は当たりだけど半分はハズレだね。」

「半… 分? 」

 グローウェインは眉を顰めてアルターの次の言葉を待った。

「そう、半分。確かに貴方は此処に居る資格を失なった。けれど、それは罪竜を失なったからじゃない。」

「では何故? 」

 資格が無いと言われても仕方ないと思っていたが、罪竜を失なったからではないとなれば理由が知りたかった。

「貴方は怨託の騎士たる規範である怨みを忘れた。いや、正確にはゼロという圧倒的な力の前に怨みを晴らす事を諦めてしまった。元々、根拠の無い自信に彩られた貴方の虚構はゼロの前で瓦解してしまった。怨託の騎士としての自己同一性アイデンティティを失なった貴方には居場所が無い。」

「では、追放ではなく始末しに来た理由は? 」

「それはダーカーの判断だ。僕の知った事じゃない。」

「なるほどな。」

 そう言ってグローウェインは剣を抜いた。

「へぇ。やるのかな? 」

 アルターも剣の柄に手を掛けた。

「いや。この虚栄のグローウェイン、無様な死に様を晒す気は毛頭無い。そして、他人の手に掛かるつもりもなっ! 」

 そう言うと自らの頸動脈を斬って自決した。

「なぁんだ、まだ虚栄心持ってたんだ。それを見せておけばダーカーの判断も違ったかもしれないのに。ま、もう遅いか。誰か、死体片付けて。それと絨毯の交換と部屋の清掃ね。終わったらフェランに、この部屋使わせるから。」

 片づけを兵士に任せてアルターは元グローウェインの部屋を後にした。そしてフェランを預かるガエンヴィの部屋を訪れた。

「アルターか。ゼロも余計な事をしてくれるよね。フェロについての記憶を刷り込み直しだよ。それも、もう終わるけどさ。」

「予定通りならラストが仕留めている筈だったからな。」

「さすがのアルター・デスドラゴンも淫蕩竜ルッスーリアの敗北は読めなかった? 」

 冷笑を浮かべたガエンヴィの質問にアルターは首を横に振った。

「読めないのはゼロだ。我々の計画の外から現れ、想定外の行動をし予定外の事をする。デタラメな存在だよ。」

「デタラメねぇ。罪竜と契約交わして魔力を無効化するなんて方が九帝国からすればデタラメだったんじゃない? もしかして、十八番おはこを取られてゼロに嫉妬してる? 」

「あそこまで化け物じみていると嫉妬心も湧かないさ。早々お前の罪竜の餌にはならないよ。」

「ちぇっ。アルターの嫉妬心なら僕のインヴィディアも喜んで食べたと思うんだけどな。」

「ガエンヴィ。お前は罪竜をペットか何かと勘違いしていないか? 」

「そんな事はないよ。インヴィディアは僕の… 僕の怨みを晴らす為に必要な友達さ。」

 ガエンヴィも今度は先ほどのような冷笑ではなく狂気に満ちた笑みを浮かべていた。その身に纏う罪と怨みを忘れていなければ、それでいい。アルターは軽く頷いた。

「ガエンヴィ、フェランが眼を覚ましたらグローウェインの使っていた部屋に案内してやってくれ。崩れ去った虚構に部屋は要らないからな。」

 そう言ってアルターはガエンヴィの部屋も後にした。

「安心しなよ、デスドラゴン。僕の怨みは、罪は奥深いんだ。嫉妬の心は簡単に崩れないよ。」

 ガエンヴィの独り言がアルターに向けられたものか、それともダーカーに向けられたものなのか。それはガエンヴィ自身にも分からなかった。

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