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episode16:第二の罪竜

「なんだ、ロザミア? 」

 言葉を持たないロザミアは、何とか身振りで伝えようとする。端から見れば滑稽なゼスチャーゲームのようだがロザミアは至って本気だ。

「竜? 罪竜の事か? 」

 ロザミアは通した事に嬉しそうに激しく頷くとゼスチャーを続けた。

「なるほど… また誰かが罪竜を呼び起こそうというのか。よく知らせてくれた。下がっていいぞ。」

 ラストに誉められたと思いロザミアは嬉しそうに下がっていった。本音を言えば“誰が”罪竜を呼び起こそうとしているのか、どの罪竜を呼び起こそうとしているのか、聞きたかったところだが、ゼスチャーでは難問になる予感しかしない。可能性として一番、ありえそうなのはガエンヴィと、その契約竜である嫉妬竜インヴィディアである。だが、このところ失態続きのガエンヴィに罪竜を使う許しが出るだろうか? この点がラストには疑問だった。

(筆談が出来るようロザミアに文字でも教えるか… 竜に文字を? 僕は何を考えている? )

 ラストはロゼの見た目で自分に懐いているが正体は罪竜の欠片であるロザミアに、どう接するか迷っていた。その頃、ロザミアがラストに知らせた通り、ダーク・キングダムの地下深くに赴こうとする人影があった。

「何処へ行かれるのかな? グローウェイン卿。」

「誰かと思えばダーク・フリード卿。ここの地下といえば用件は一つしかあるまい? 」

 ダーク・キングダムの地下深くには罪竜の召喚台しかない。罪竜が九帝国の地下深くに封印されている為、召喚台もまた、地下深くに設置された。マアリン曰く、深さは欲望の深さに繋がる為、同程度の深さにて召喚するのが望ましいのだそうだ。

「ラストはゼロの唯一の弱点とも云える緋焔の皇妹ロゼを籠絡せんとしていた。グローウェイン卿は何故に罪竜を呼び出さんとする? 」

 フリードに問われてグローウェインは自嘲気味に溜め息を吐いた。

「フッ… 全てを持って生まれ、その全てを竜に奪われた貴殿と、何も持たずに生まれ、全てを得たいと願った私とでは怨み事の根元が違う。理解してくれとは言わぬ。語ろうとも思わぬ。手伝いも望まぬ。ただ、邪魔だけはしてくれるな。」

 グローウェインはそれだけ言うとフリードの次の言葉を待たずに地下へと降りて行った。そして、ダーク・キングダムの地下深くに赴くと召喚台の上に立った。

「虚栄《我が名》に応えよ。虚飾竜ヴァニティっ! 目覚めて我が欲望のままに復讐を果たさんっ! 」

 やはり、召喚台では何も起きなかった。今度の異変は白陽帝国の地下で起きていた。

「なっ!? 次はヴァニティが甦るというのか!? 緋焔に伝令を飛ばせっ! 一刻も早くゼロ殿に伝えるのだっ! 」

 九帝会議から戻ったばかりだというのに。白陽の皇帝ソロ・オナード・アインは動揺していた。と同時に会議中、藍嵐帝国の皇帝ヒロ・ジェラス・リッパーが余所者を信用していないと言った際に、いち早く、それを否定し信を表明したした自分を内心、自賛していた。橙雷帝国のマロに罪竜が現れてもと言われたからだという事は忘れている。自らは孤高の陽帝などと名乗ってはいるが、この性格が仇を為して孤立しているというのが実の処である。白陽からの伝令は零たちが橙雷帝国を出る前に追い付いてきた。白陽帝国は蒼海帝国の東方に位置し隣接しているが緋焔帝国は橙雷帝国の更に南方になる。零の能力ちからであれば一瞬で緋焔に戻る事も出来たがミロが遠慮した為に普通に陸路を進んでいた。

「早速、罪竜のお出ましか。その方も忙しくなるな。」

 九帝会議の決定の一因はマロにもあるのだが、まるで他人事のようだった。

「では俺は先に城に戻り吉報を待つとしよう。」

 ミロは零とロゼを残してマロに見送られて帰国の途に就いた。

「フッ、あの妹想い(シスコン)が、こうも簡単にロゼ殿を託すとは、その方、余程の信頼を得ているのだな。」

 マロにしてみれば、皇族が身内を1人で他人に預けるなど人質に差し出すも同然に思えていた。そしてマロはミロがロゼを目の中にいれても痛くない程に可愛がっていたのを知っている。それだけに零が、これだけの短期間でミロの信用を得たというのは意外でもあった。

「すまないが時間が無さそうなので失礼する。」

 そう言う零の傍らには当然のようにロゼが寄り添っていた。

「うむ。油断するなよ。」

 零は頷くとロゼを抱き抱えて姿を消した。

「ゼロ殿たちは白陽に着く。その方たちも急いで戻るがいい。」

「え? あ、はっ。」

 白陽からの伝令は状況が直ぐには飲み込めなかったがマロの言葉に従って白陽へと馬を駆った。

「… ゼロ… か。不思議と、あの男からは邪念も雑念も、不安も心配も感じぬな。罪竜に対抗しうる力を持つ者が彼の彼奴で良かった気さえ、してくる。創世の破壊王と同じ名というのも偶然ではないのかもしれぬな。」

 マロもまた、城へと戻っていった。そう、この世界では零の本当の名前を誰も知らないのである。零とロゼが白陽に着くと城はまだ建っていた。零が透視すると、どうやら紫闇の宮殿とは構造が違うようだった。

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