episode14:もう1人のデスドラゴン
「ルッスーリアを持ち出して、その様か? 」
そもそも竜を使う事に反対だったフリードはラストに冷たく当たった。
「ふん。貴方は全ての竜が復讐の対象でしたね。少しは気が晴れましたか? 」
「少なくとも、竜とは人が手も足も出ない存在ではない事が分かった事だけは礼を言う。本命が現れるまでに腕を磨かせて貰う。」
「その前に、せいぜいゼロに倒されぬ事だな。」
ラストは吐き捨てるように言うと円卓のある広間を出た。
「御機嫌斜めのようだねぇ? 」
「何っ!? 」
そこには見慣れぬ騎士が居た。まだ若いが、その胸にはダーカーと同じ紋章が描かれていた。
「ダーカーの息子か? 」
「息子? 僕は、そんな不純物の混じった存在じゃない。僕は、もっと純粋な魔術的同位体。アルター・デスドラゴンさ。」
「そのダーカーの同位体が何の用だ? 」
ラストには、どうも“ダーカーの同位体”という言葉が引っ掛かったようだ。
「アルターと呼んで貰えるかな? ダーカーに何かあれば僕が新しいダーカーになるけど、それまではね。それより、貴方も知っての通り、怨託の騎士は九帝国の地下に封印されている九匹の罪竜と契約する事で九帝国の魔法を無効化しているよね。」
するとラストはアルターを睨み付けた。
「つまり契約した罪竜を失った僕には、此処に居る資格が無いと? 」
「おぉ、怖い怖い。焦らないでよ。そんな貴方にプレゼントを連れてきたんだ。」
そう言ってアルターが横に退くと1人の少女が立っていた。
「ロゼ!? 」
ラストが驚くのも無理はない。見た目はロゼそのものの少女がそこに居た。
「貴方が見間違えるくらいなら上出来だね。ルッスーリアの残留思念をかき集めてマアリンに造らせたホムンクルスさ。罪竜と違って、ある程度、貴方の側に居ないと九帝国の魔法を無効化出来ないから、どうせ側に置くなら外見は貴方の好みに寄せた方がいいと思ってね。ただ、完璧にはしてないよ。似て非なる者を側に置く事で貴方の欲望を高める。これで満足されたら本末転倒だからね。」
「ゼロと一緒で性格が悪いな。そんな事をしなくても僕が欲しいのは紛い物じゃない。この娘の名前は? 」
「一応、ローザ・ノストラって名前を用意してあるけど、変えるなら今のうちだよ。」
「・・・なら、ロザミアだな。」
ラストがそう言うと少女は嬉しそうな顔をした。
「本人がよさそうだから今からロザミアだね。この娘を失うと今度こそ九帝国の魔法は無効化されなくなるから忘れないでね。それと元が竜だから、こっちの言ってる事は伝わるけど言葉は知らないから。それじゃ。」
そう言うとアルターは足早に立ち去って行った。
「言葉を知らない? 割りと肝心な事を最後に言っていったな。」
文句をつけてやりたい所だが、ロザミアが居なければ零以外とも普通に戦う事になる。今は受け入れるしかないと割り切った。
「行くよ、ロザミア。」
ロザミアはニコニコとしてラストの後をついていった。
「調子はどうかな? 」
次にアルターはガエンヴィの部屋を訪れていた。
「アルターか。謹慎を解く条件だって言うから紫闇帝国の皇子、連れて来たけど、罪竜に空きもないのにどうするの? 」
「フェランには罪竜がなくても紫闇帝国の皇子ってだけで、まともに攻撃して来ないさ。厄介なのはゼロが皇帝フェロを救けてしまった事だよ。フェランの怨みの根元が薄らぐからね。だから念入りに魔薬漬けにしておいてよ。」
今もフェランはケースの中で紫の煙に包まれていた。
「本当なら、あのロゼって娘を魔薬漬けにしたかったんだけどな。」
「おいおい。ラストを君にに嫉妬させようっていうのかい? 」
「違うよ。ロゼをラストに本気にさせてゼロに嫉妬させたかったんだよ。そしたらダーカーはゼロが嫉妬するか憤怒するか憎悪するか悲嘆するかわからないって言うし、そもそもラストは、それじゃつまらないらしいから止めたんだ。僕も嫉妬させられないならつまらないからね。今は、この皇子様の妹への嫉妬心を煽る事にするよ。」
「あまり余計な事はしないでくれよ。また謹慎してもらう事になるからさ。」
「大丈夫だよ。僕も、あの謹慎部屋は好きじゃないからね。」
ガエンヴィの言うのは本音だろう。快適な謹慎というのは、あまり聞かない。引き続きフェランを任せてアルターは部屋を出るとダーカーの元へと向かった。
「ラストとガエンヴィの様子はどうであった? 」
「どっちも計画通りだよ。それよりフェロはどうするの? ゼロの奴が余計な事をするから、あれだけ予定外なんだけど。」
「あれだけ怪我だ。当面、表舞台には出てこれまい。しかし、まさか罪竜をああも簡単に退けるとは、本格的にゼロ対策を練らねばならぬな。」
「それを考えるのはダーカーの仕事だろ? 王手が掛かるまでは僕は兵卒。ただし、その時は王に昇格するけどね。」
ラストとガエンヴィの報告以外は用が無いとばかりにアルターはダーカーの部屋を出ていった。
「フッ。兵卒? お前は、あくまでも王の予備駒だ。表舞台に立つ必要はない。」
ダーカーはそう言うと一冊の本を手に取った。




