episode13:九帝会議
(誰か居るのか? )
言葉ではない。零は相手の意識を読み取った。
「俺は緋焔帝国国境警備隊隊長のゼロだ。」
「ゼロ… 噂は聞いて… ゴホッ」
声の主が咳き込んだ。
「声に出す必要はない。考えればこっちで読み取る。自分の居場所は判るか? 」
(噂通り、奇異なる能力じゃな。ここは瓦礫だらけで場所は判らん。)
零は意識を辿り声の主を見つけた。埃まみれではあるが、その華美な装束は高位であることを物語っており、こんな場所にこの状態でいるとすればメロの話しからすれば皇帝フェロしかいない。
「この瓦礫では抜け出そうにも動かぬでな。」
「声に出す必要はないと… 」
「目の前に見えているのに声に出さずに話すというのは慣れぬと気持ちが悪くてな。せっかくの気遣い、申し訳ないが話させてくれぬか。」
零からすれば当たり前の精神感応も、慣れねば他人の声が頭の中でするのだから気持ちが悪いのも無理はない。零は念動力であっさりと瓦礫を退けるとフェロを助け出した。とはいっても、かなりの重症である。自分の怪我なら何とかなるが他人の怪我を治癒魔法のようには治せない。
「この国で治癒に長けているのは誰だ? 」
「親バカかもしれぬが、メロの右に出る者は居るまい。」
(ロゼ、そこにメロは居るか? )
「ひぇっ!? あ、はい。」
急に頭の中で零の声がしたものだから、ロゼも少し慌てた。
「ロゼ? 」
さすがにメロもロゼの様子に驚いた。
「あ、ゴメンね。今、ゼロがフェロ皇帝を連れて来るけど大怪我してるから治療してって。」
メロにはロゼが何を言っているのか分からなかった。メロの目の前で崩壊する宮殿の瓦礫に消えていった皇帝フェロを目の前に居ない零が連れて来ると言っている。そう言われても理解が追い付かない。だが、ロゼの言葉はすぐに現実のものとなった。重症のフェロを担いで零が急に現れたのだ。
「ち、父上!? 」
メロは大慌てでフェロの治療を始めた。
「フェランはどうした? 」
落ち着いたところでフェロが口を開いた。だがメロも行方不明と聞かされただけで細かい事までは分からなかった。分かっている事といえばフェロに付き添っていた臣下が斬り捨てられていた事ぐらいである。
「ゼロ殿、すまないが息子を… フェランを助けては貰えぬだろうか? 」
「フェラン皇子を? 」
「我が臣下とて腕が立たぬでもない。それが剣を抜く間もなく斬り捨てられたとなれば賊などではなく、そのダーク・キングダムなる者共であろう。そして臣下のみの遺体が見つかったと云うことは目的は分からぬがフェランは連れ去られたと考えるのが妥当だと思われる。となれば、他の者では無駄に命を落とすだけ。ゼロ殿にお願いするのが最善策と考える。」
「この状況で冷静な判断だとは思うが… 今の俺は緋焔帝国の人間だ。はい、そうですねと引き受ける訳にはいかない。」
「うむ。もっともな意見じゃな。ならば、メロよ。九帝会議を召集せよ。淫蕩竜ルッスーリアが再び永き眠りについたと云えど封印石が壊されたのは事実。連なる他の竜たちが目覚めぬとも限らぬ。」
「ですが父上。兄上も居らず父上もそのお身体。今、九帝会議を開いても紫闇帝国は代表を立てられませぬ。」
「お前が居る。」
フェロは真顔でメロを見つめた。
「ですが… 」
「封印石は砕かれた。新たなる封印石を採掘するにしても時間が掛かる。それまでの間は、お前は巫女ではなく皇女メロとして国を支えてくれ。会議にはゼロ殿も出席して貰えぬか? この現場に居合わせた者として。」
「俺は緋焔の一国境警備隊長だぞ? 皇帝たちの会議なんかに出てもいいのか? 」
「うぅむ。皇帝1/3、つまり皇帝三人の同意があればいいのだが。儂とミロ殿を入れても二人か… 」
「それならば私がこの場に居合わせた者として出席し、ゼロには警護として同道して貰うのはいかがでしょうか? 」
ロゼの意見は零を会議場に入れる手段にはなっても、零に発言権が無い。フェロとしてはメロを手助けして欲しいのだ。
「ふん。そのような事せずとも余が同意しよう。」
それは馬上にオレンジに輝く鎧を纏った橙閃の雷帝マロ・グール・ラスコーの姿だった。
「紫闇の封印が壊れ淫蕩竜ルッスーリアが目覚めたと聞き、戦支度をして馬を飛ばして駆けつけたのだが… 片付いたようだな。その方がゼロか? 緋焔の連中が見当たらぬ処を見ると、一人で片付けたか。さすがよのぉ。その方には二度、借りもある。九帝会議の件、しかと引き受けた。また会おうぞっ! 」
マロはそのまま来た道を引き返していった。
「な、なんだったのでしょう? 」
メロとロゼは顔を見合わせて首を捻っていた。おそらくは、ばつも悪かったのだろう。竜と戦うつもりの身仕度をしてやっては来たが、橙閃よりも遠方の緋焔から軽装のままの零が先に来て退治までしていたとなれば出番は無い。漏れ聞こえた会話の中に居場所を見つけ、言うだけ言って質問をされる前に去っていった。当初、南端の緋焔帝国の件と思われていたダーク・キングダムの件は橙閃、紫闇と飛び火し、封印石の破壊へとおよび九帝国全体の問題となっていた。




