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episode12:連なる竜

「陛下っ。紫闇の封印石に何事か起きたようですっ! 」

 異変はミロの元にも伝わった。

「紫闇の封印石? 」

 零にとっては初めて耳にする言葉だった。

「うむ。九帝国の各宮殿の地下には、それぞれに一匹ずつ竜が封印されていると言われている。その封印をしているのが封印石だ。」

 ミロに言われて零はフリードの言葉を思い出した。

「そう言やダーク・フリードって奴が、自分は竜に国を滅ぼされた亡国の王だって言ってたけど、この世界には本物の竜が居るのか? 」

「あぁ。九帝国の地下には各国、一匹ずつの竜が封印されている… と、言われている。」

「言われている? 」

 ミロの言葉尻に零は首を傾げた。

「何百年も昔の話しだからね。実際に竜を目にした者は誰もいやしない。だが伝承通りなら紫闇帝国に封印されているのは淫蕩竜ルッスーリアだ。」

「つまり、そのルッスーリアを封印していた石に何かあったと? 」

「兄上、紫闇帝国に行かせていただけませんかっ!? 」

「ロゼ? 」

 急に出てきたロゼの様子が零には動揺しているようにも見えた。

「うぅむ。紫闇帝国の皇帝フェロには二人の子があってな。我ら同様、仲のよい兄妹だ。その妹のメロはロゼの学友なのだ。確か、封印石を見守る巫女をしていたはず。もしルッスーリアが復活すれば、それに連なる他の竜にも影響があるかもしれん。ロゼ、俺の名代として紫闇帝国行きを命じる。但し護衛はゼロ1人だ。」

「いいのか? 」

 ロゼの護衛が零だけという事にも、緋焔帝国をゼロが離れる事にも不安はないのだろうか零は思った。

「相手が奴らなら百人や千人の護衛を付けたところで気休めにもなるまい。ならば、お前に行ってもらった方が安心だ。それにお前ならロゼ1人くらい連れても九帝国は南端の緋焔から北端の紫闇まで文字通り一っ飛びだろ? 一番懸命な策だとは思わないか? 」

 確か零が行くのが早そうではある。千人の兵を動かすよりは、はるかに効率的といえよう。それにロゼが一緒なら外交的にも問題あるまい。

「行くぞ、ロゼ。」

「はいっ! 」

 するとミロは二人に背を向けた。

「ロゼを頼む。」

「あぁ。」

 零は空間転移テレポート中にはぐれないよう、ロゼを抱き寄せると、その場から消えた。

「・・・行ったか? 」

「はい、陛下。」

 メイド長の返事に、ようやくミロも向き直った。

「・・・分かっていても、面白くないものだな。妹が余所の男に抱き締められている姿とは。」

「先の皇帝が亡くなられてからは、陛下は兄君であると同時に父君の代わりでしたから。うちの主人も娘に彼が出来た時は不機嫌でしたから。」

 先の皇帝が生前、ロゼを可愛がっていた姿を思い出し、そんなものかもしれないとミロも思った。

「メロっ!? 」

「ロゼ!? 」

 メロは崩壊した宮殿の前に居た。皇太子フェランが行方不明となっている今、国の指揮はメロがとるしかない。

「フェロ皇帝は? 」

「こちらの方は? 」

 不意に零に声を掛けられてメロはロゼに尋ねた。

「か、彼は緋焔帝国の現国境警備隊隊長のゼロ。」

「ゼロ? 」

「あ、ゼロは異国から来ていて、創世の破壊王とはえん所縁ゆかりも全く無くてね… 」

 この世界ではゼロの名前を言う度に、この説明は必要なようだ。

「また貴様か。何処にでも現れるな。」

 瓦礫の中から、ゆらりと一匹の竜が浮上してきた。声は竜から聞こえてきたが、零には聞き覚えがあった。

「その声はロゼを拐い損ねた男だな? 」

「・・・そう呼ばれたくないと言ったのを覚えていて、わざと言っただろ? 性格悪いな。」

 竜の姿では、その表情は分からないが、面白くなさそうなのは感じとれた。

「せっかく喚び出したところで悪いが、フェロ皇帝の仇。今、この場で討たせてもらうっ! 」

「なっ… 」

 何かを言おうとしたルッスーリアの巨体は一瞬で瓦礫の中に叩き落とされた。

「え!? 」

 メロは自分の目を疑った。何百年も封印するのが精一杯だった竜を一撃で叩き落としたのである。零も追うように瓦礫の中へ飛び込んでいった。

「よくも、簡単にあしらってくれる。」

「取り敢えず図体がデカくて羽の生えた奴とは狭い所で戦うってのが、俺の世界のセオリーでね。それに、こんな色欲の塊にロゼを襲わせる訳にもいかないからな。」

 零の言葉に呆れたラストの声がする。

「つくづく、何でもお見通しだな。貴様が仲間なら、我らが怨みなど、すぐに晴れそうだ。」

「悪いがフラれ男の私怨など晴らしてやる気は湧かないぜ? 」

「・・・やっぱり性格悪いな。」

 いきなりルッスーリアが襲い掛かるが、空振りに終わった。

「貴様の攻撃が、俺を捉える事はない。」

「貴様こそ、このルッスーリアを倒せるつもりか? 」

「そいつは人間の欲望の一つ、色欲の塊だ。完全に消滅させるのは無理だろうな。だが… 」

 急にルッスーリアが苦しみ出した。

「早いとこ、そこから抜けないと一緒に消えるぜ? 」

 返事が無いのは、既に抜け出したのだろう。徐々にルッスーリアの姿は薄れていった。

「これで、また数百年は復活しないだろうな。」

 その時、零は瓦礫の中から僅かながら意識を感じ取った。

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