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episode11:紫闇の竜

「ラスト・レッド。何か策でもあるのか? 」

 ダーカーの問いにラストは立ち上がった。

「ダーク・フリードは反対するだろうが… ルッスーリアを使う許可を頂きたい。」

 ラストの言葉に騎士たちがざわめいた。

「私の前で、その名を口にするか。」

 予想通り、フリードは反意を示した。

「ダーク・フリード卿。貴方の怨む竜はルッスーリアではないでしょう? 許可を求めただけでも僕は気を遣ったつもりなんだけどな? 」

「全ての竜は復讐の対象だ。」

 竜に国を滅ぼされた亡国の王にしてみれば、全ての竜を倒す。それが矜持であった。

「そうは言うけど、今の僕たちにとって最大の障害は九帝国の皇帝たちでも軍でもない。ゼロという、たった一人の男だと思うんだ。欠点らしい欠点の見つからない彼の唯一、弱点になるかもしれないのがロゼなら、そこを攻めるしかないんじゃないかな? 」

「… ダーカー王が許すなら好きにしろ。だが、手は貸さぬ。」

 どうしても大切な者を奪うようなやり方はフリードには看過出来なかった。

「許す。」

 ダーカーの鶴の一声でラストの策は承認された。だが、あまり怨託の騎士の中に、よい顔をする者は居なかった。それは、多くの騎士が持つ怨みが家族であれ国であれ、大切な何かを理不尽に奪われた事によるものだからだった。この場にガエンヴィでも居れば賛同したかもしれないが。ダーク・キングダムの地下深くに赴くとラストは召喚台の上に立った。

色欲(我が名)に応えよ。淫蕩竜ルッスーリアっ! 目覚めて我が欲望のままに復讐を果たさんっ! 」

 だが、召喚台では何も起きなかった。異変はダーク・キングダムから遠く、九帝国の北端。紫闇帝国の地下で起きていた。

「一体、何が起きている? 」

 紫闇帝国では城の中が騒然としていた。

「宮殿地下の封印石に亀裂がっ。今は巫女様が抑えてくださっていますが、それも時間の問題かと思われます。フェロ陛下は御避難を。」

 だが、皇帝フェロは首を横に振った。

「いや、淫蕩竜ルッスーリアの復活を許せば、他の帝国地下の竜たちにも影響が出よう。ここは何としても防がねばならん。それに巫女を… わがメロを捨て置く訳にもいかぬのでな。お前達はフェランを連れて待避せよ。」

 皇帝の命令は絶対であった。臣下たちは皇子フェランを連れて城を脱出した。それを見送ると皇帝フェロは地下の封印石の在る部屋へと急いだ。部屋の中では一人の少女が懸命に祈りを捧げていた。

「無事か、メロっ! 」

「父上!? 」

 メロも声に反応はしたが祈りを止める訳にはいかなかった。

「ここは、もうよい。儂がなんとかする。」

 それでもメロは祈りをやめない。

「父上こそ、お逃げください。父上さえ居れば国は建て直せます。」

「若い者こそ、命を無駄にするでない。国はフェランとメロに託す。」

 そう言うとフェロは強引にメロの祈りを止めさせた。その途端、封印石の亀裂が大きくなっていく。

「さらばじゃ。」

 それが紫闇帝国皇帝フェロの最期の言葉だった。封印石の部屋は紫闇帝国宮殿でも最下層にある。その部屋が崩れるという事は、その上の城の崩壊に繋がった。

「し、城が… 父上っ、メロっ! 」

 城から離れた所で、その末路をフェランは見届けた。

「おやおや、大変だねぇ? 」

「何者っ!? うわっ 」

 フェランを連れていた臣下たちは、あっさりと斬り捨てられた。

「まったく邪魔なんだよね。用があるのはフェラン皇子だけなんだ。」

 目の前で臣下を殺されたフェランはさすがに固まっていた。

「僕の名前はガエンヴィ。君の友達さ。」

 そこには謹慎している筈のガエンヴィの姿があった。そしてフェランの風上に立つと香炉の蓋を開けた。そこから流れ出た紫の煙がフェランを包み込んでいく。

「トモ… ダチ… 。」

 フェランの瞳が虚ろになってゆく。

「そう。僕は君の友達さ。君の父君、皇帝フェロは巫女のメロを助ける為に死んだ。」

「シン… ダ… 。」

「そう。死んだんだ。メロの為に。つまりメロに殺されたようなものさ。」

「めろニ… 殺サレタ… 。」

「そう。皇帝フェロの愛情を独り占めし、君を城から追い出してから殺したんだ。」

「めろ… めろ… めろメ… メロめ… メロめっ! 妹と云えど許す訳にはいかないっ! 」

「そうだ。許す訳にはいかない。手を貸すよ。僕は君の友達だからね。」

「すまない、ガエンヴィ。頼りにしている。」

 対魔草から抽出したという魔薬は緋焰帝国で使用した赤い霧のようなものから紫の煙になって格段の進化を遂げていた。ただ、神経作用は強力になったが、より至近距離で吸引させる必要があった。

「思っていた以上に妹に嫉妬していたようだね。」

「俺はメロを倒し、この国を取り返す。」

「そうだね。でも僕たち二人じゃ無理だ。ダーカー王の力を借りるんだ。」

「ダーカー王? 」

「ダーク・キングダムの盟主、ダーカー・デスドラゴン王にメロへの怨みを託すんだ。必ず君の力になってくれる。」

「怨みを… 託す… 。」

「そうさ。君も怨託の騎士になって国を取り戻すのさ。」

 ガエンヴィの言葉に大きく頷くとフェランは共に姿を消した。

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