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エリーゼのわがまま

「ふっ…ふふふふ…これはすごいです…」

「「「に、にゃぁぁ…」」」


「三姉妹の気龍穴が一つに…も、もし…もしここにコレを挿し込めば…感度は3倍、いや…9倍!?」

「「「そ、そんなっ!?9倍なんてっ!??無理…!!し、死んじゃうにゃっ!??」」」


「ボクも3穴同時攻めは初めてです…!!ぐふっ!ぐふふふふふっ!!!」

「「「エリーゼさん、ま、待っ...!!」」」


「えいっ!!!!」

「「「はにゃぁぁぁあああっ!??と、飛ぶっ!?!飛んじゃうにゃあああああん!!」」」


*****

「エリーゼさん、今日もありがとにゃ!」

「俺たち、エリーゼさんのおかげで最初調子いいんだにゃ!」

「こんなにお安くっていいのにゃですか…?」

とつやつやした笑顔の三姉妹。


エリーゼは少し考えこんでから言った。

「いいのです!…ただ、できれば一つお願いを聞いて欲しいのです。」

「「「おねがい?」」」

「……ボクを、モンスター討伐のクエストに連れてって欲しいのです」


*****

「クエストに連れて行く?」

グレッグは意外な申し出に眉を上げた。


「はいです。ボクも冒険者なのですから、クエストに出たいのですよ!」

「でもなあ…」

グレッグは逡巡した。


エリーゼの整気術は神業と言っていいレベルだ。

しかしそれ以外はというと、かなり怪しいというのがグレッグの見立てであった。


日常生活においても、例えば何もないところでつまづいたりだとか、鍋が重くて持ち上げられなかったりといったことが多々あるのだ。


運動能力が低すぎてクエストに出るのは危険、グレッグはそう思っていた。


「ううーん、危なくないか?お前鈍臭いだろ?」

「がーんっ!??ストレートすぎるのですっ!!?もうちょっと乙女心を…」


「エリーゼ俺はお前が…えーと、傷付くのを…あー、何だ、見たくない…から、その……あー、めんどくせぇ!お前ノロマなんだから死ぬぞ」

「最後っ!?投げすぎですよぉっ!??」


うううっと涙目になるエリーゼ。

「ど、どうせそう言われると思ったから、今日は助っ人がいるんですよっ!」


「簡単なクエストなら大丈夫にゃよ!俺達もついてるにゃ!」

「「にゃんにゃん!」」

「それでお前らも居たのかよ…」


はぁっとグレッグは天井を仰ぎ見た。

いまいちエリーゼと冒険者というのが結びつかないものの、ここで無下に断るとヘソを曲げてしまいそうな気がした。

ーまあ、俺とルイ達がいればそうそう滅多なことはないか…遊びで言ってる訳でもなさそうだし…


「…わかった。じゃあこの5人で行くか」

俄かにエリーゼの顔が輝く。


「わーーいっ!!!みんなでクエストなのですっ!!!」

「お前な、ピクニックじゃないんだぞ...?」


「わかってますよぉ!!でも、嬉し懐かしだから仕方ないのですよ!」

「嬉し懐かしって...言葉の使い方おかしいだろ...」


「「「じゃあ、早速冒険者協会に行くにゃあっ!!!」」」

「おおーーっ!!!」

「はあ...大丈夫かこいつら...」


*****

「ごめんくださいにゃ〜」

ここは冒険者協会王都本部。


ルイが受付のルビーさんにクエストを紹介してもらっている。

ルビーさんは黒髪の美しい女性だ。


その優しい微笑みは通称"女神の微笑み"。

本人は知らないだろうが、その微笑みをまた見たいがために死地を生き延びられた、そういう冒険者が少なからずいるのだった。


「ルイさん、こんにちは。今回もグレッグさんがご一緒されるのですね?それならこのクエストなんかはいかがですか?」


そう言ってルビーさんはCランク向けの中からいくつかクエストをピックアップしてくれる。

冒険者の実力に合わせて、絶妙な難易度のものを提示してくれるのも、彼女の人気の理由だ。


「あー、すまん、今回はもっと簡単なやつで頼めるか?キャリーしなきゃいけない奴がいてな。」

グレッグはそう言ってエリーゼの背中を叩いた。


「あら、あなたは…」

「えへへへ…お久しぶりです。」


「そうですか、グレッグさん達なら安心ですね。では、この辺りはいかがでしょうか?」


「そうだな…これとかどうだ?薬草収集。」

「いいんじゃないかにゃ?危なくないにゃしね」

そう言ってエリーゼを見やると、何故か微妙な顔をしている。


「ううーん…ボクはモンスター退治のクエストがいいのです…」

「モンスター?何でにゃ?」

「それは…とにかくモンスター退治がいいのです!!」


一瞬、その場に沈黙が降りる。

必要以上に頑なな態度だ。

ルビーさんは困ったように微笑んでいる。


「でも危ないにゃよ。まずは安全なのから...」

「嫌なのです!どうしてもモンスター退治がいいのですっ!!」


6つの目が同時にグレッグを見た。

エリーゼは下を向いて歯を食いしばっている。

ー何か理由があるのか…?


グレッグはしばし逡巡した後、ルビーさんに向き直った。

「…わかった。ルビーさん、頼む。」


エリーゼの顔がぱっと輝いた。

「ありがとうなのです!!」


*****

「あいつらか…」

グレッグ達の視界に、のっしのっしと荒地を進む三体の巨人が映っている。


ここは王都郊外。

王都は城壁で守られているものの、一歩外に出ればそこはもう人間だけの領域ではない。

特にここ5年ほどは、モンスターが年々増加・凶暴化しており、モンスター退治のクエストが絶えることはないのだった。


「よし、じゃあ打ち合わせ通りに行くぞ」

グレッグはそう言って振り返った。

一番後ろで強張った表情のエリーゼに、声を掛ける。


「エリーゼ、あんまり緊張すんなよ。昨日見せてくれたのを、ここでもやってくれれば良いんだ。」

「は、はいです。」

「大丈夫にゃよ。俺も近くにいるにゃ」


前日の打ち合わせで、同じく弓を主な武器とするルイが、エリーゼをサポートすることに決まっていたのだった。


*****

この日の前日。

トロール退治のクエストを受注してグレッグ邸に戻った一同は、その足で離れに向かった。


「さて…エリーゼ。」

「は、はい!?」

「お前、戦えるのか?実力が伴ってないなら今回のクエストは無しだぞ。」

グレッグは単刀直入に言った。


普段と様子が違ったためエリーゼの言うことを受け入れたものの、彼女を戦場に連れて行くことにまだ抵抗があったのだ。


「そもそも、武器を扱えるか?」

「は、はいです。ボクは…これを使うのです。」

そう言って取り出したのは…


「弓…か。しかもそれは…」

エリーゼの手には小振りの弓が握られていた。


全体に、若葉を思わせる柔らかな緑色のコーティングが施されている。

リムの部分には翼のような美しい意匠。

弦は不思議な光を帯びて輝いている。


「まさかマジックアイテム?そんなものを持っていたのか...」

「昔...いただいた物なのです。ボクのように非力でも矢を放てるようにと...」


そう言ってエリーゼは木の的を取り出し、壁際にセットする。

かなり使い込まれたもので、矢が刺さったと思しき無数の跡がある。


エリーゼは無言のまま、右手を弦にかけた。

しかし矢を持っていない。

「矢は...」


問いかけたその時、ふっと緑が香った気がした。

目をエリーゼに戻すと、いつのまにかその手に矢がつがえられている。


「魔法の矢にゃ...?」

エリーゼは静かに両拳を持ち上げ、流れるような動作で弦を引いた。

意外なほどに、美しい立ち姿で静止する。


わずかな間のあと、静寂のままに矢は放たれた。

糸を引くように矢は伸び、的に突き刺さる。


思わず見ている者も背筋を伸ばしてしまうような、エリーゼの立ち姿をグレッグは見つめていた。

ー堂に入ってやがる。これは付け焼き刃じゃないな...毎日鍛錬しないとこうはならんはずだ。


「「「す、すごいにゃ!!!!」」」

静寂を破り、3姉妹がエリーゼに擦り寄って行く。

「そ、そうですか?すごいですか?」

エリーゼは嬉しそうだ。


グレッグは的から矢を引き抜く。

力を失った矢は、だんだんとその輪郭を失っていき、グレッグの手の中で消えていった。


「なるほどな。使用者の気でできた矢か...威力はそれほどないようだが、牽制には十分だな。」

「じゃあ...」

「ああ。お前をクエストに連れて行くよ。」

「やったーーーっ!!!」


「そうと決まれば、作戦会議だな。」

そう言ってグレッグたちは母屋に戻り、トロール退治の作戦を練ったのだった。

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