春風 エリーゼの整気術クリニック
「はぁっはぁっはぁっ…」
薄暗い部屋に、メリンダの荒い息が響いた。
「くぅっ…わ、私は屈しないぞ…!」
「ふふふふっ!やるじゃないですか!じゃあ…コレでも大丈夫ですよね?」
そういって、エリーゼがおもむろに取り出したソレを見て、メリンダの顔色が変わった。
「ま、待って…くれ…!そ、そんな大きいの…!?は、入る訳がない…!!」
「くっくっくっくっく…大丈夫ですよ、ボクのコレはすぐ馴染みますから…」
「や、やめ…やめろ!やめてくれ…!」
「イキますよぉ…!!えいっ!!」
「ぎ、きひぃぃっ!?や、やめろぉぉっ!む、無理だ、大きすぎるっ!ダ、ダメェェェェェェェっ!!!」
「き、キツいですね…く、うううう!えいっ!!!」
「あ、あひぃぃぃぃっ!!で、出るぅぅぅっ!!!」
その日、グレッグの離れが爆発した。
*****
ここはグレッグの屋敷。
大きく重厚な木のテーブルに、3人の男女が腰掛けている。
1人はこの上ない不機嫌面の男。
この家の家主である、グレッグが鼻息荒く問いただした。
「でぇっ!?説明して貰おうかお前たちぃっ!?」
ことの発端はその日の朝。
突如としてグレッグの離れが大爆発を起こしたことだ。
その日は、共同生活を始めたグレッグとエリーゼの様子を見にメリンダがやって来ていた。
暫く情報交換をしたあと、メリンダがちらちらとエリーゼを見ながら言った。
「ところでエリーゼ。最近ご無沙汰だから、私にもアレをして欲しいんだが…」
「はいです!じゃあ…グレッグさん、離れをお借りしますね!」
「ああ、わかった。ちゃんと後片付けしとけよ」
こう言って素直に離れを貸してしまったのがグレッグの運の尽きだった。
アレとはエリーゼの特技、整気術のことだ。
エリーゼは神技ともいえる腕を持っており、メリンダも定期的に施術して貰っていたらしい。
グレッグもエリーゼには何度か整気術を施して貰ったことがあるので、特に疑問にも思わずOKしてしまったのだった。
ところが…
「なんで整気術で離れが吹っ飛ぶのかなぁっ!!?何をしたのかなぁぁっ!!んん!??」
残る2人、青髪と金髪の女性はビクッと肩を震わせた。
「そ…それは…」
「すまないグレッグ…本当にすまない…エリーゼの技が気持ち良すぎて…ついっ!えへっ!!」
「ついっ!えへっ!!じゃねぇぇぇええっ!!!気持ち良くてなんでああなるんだボケぇぇっ!!」
「そ、それは…メリンダは大魔術師だから…」
「は?それと何の関係がある」
「いやだから…身体を巡る気の量も物凄いんです!その詰まりを解消すると…」
「気持ち良すぎて一気に魔力が解き放たれてしまってな。その魔力が具現化して大爆発っ!という事だ。」
「気が放出されるだけでこんなことになるのは、メリンダくらいのものなのです。」
何故か得意げに頷いているメリンダを、グレッグは更に問い詰めた。
「お前、前にも施術受けたことあるって言ってたな。その時は…」
「ん?勿論、大爆発だ。」
「お陰で前住んでた家を追い出されたのですよ!あっはっはっはっは!」
「ふはははははははっ」
ビシッバスッ!!
グレッグは2人の頭にチョップを見舞った。
涙目の2人に更に詰め寄る。
「お前…だから自分とこで預からなかったな…!!」
「すまないグレッグ…本当にすまない…うちを爆破すると執事にすんごい怒られて怖いんだ…!だがグレッグのボロ家なら良いかと思って…!」
「ボ、ボクは悪くないのです!メリンダがグレッグの家なら大丈夫って…!!」
ビシッバスッビシッバスッ!!!
グレッグは連続チョップを2人に繰り出した。
頭を押さえて蹲る彼女達を冷たく見下ろす。
「まず何か言うことが、あるんじゃあないのかなぁぁあ!??」
「ほ、本当に…ごめんなさいでした…」
「すまないグレッグ…本当にすまない…でも気持ち良かっ…」
ビシッ!
グレッグは止めのチョップをメリンダに見舞った後、エリーゼに向き直った。
「さて…お前は居候の身だよなぁ!ということは…」
「ひぃぃぃっ!!お、追い出さないでぇっ!!何でも、何でもしますからぁぁっ!!」
「ほうっ!だったら…身体で支払って貰おうかなぁぁっ!!」
「あひぃぃぃっ!!そ、それは…ボ、ボクなんかに需要があるとは思えないんですけどぉっ!?」
顔を真っ赤にしてクネクネと身をよじっているエリーゼを見下ろし、グレッグは言った。
「何を勘違いしてやがる。俺が言ってるのは、その整気術で修理代を稼げってことだ!」
「えっ!?えぇぇぇぇっ!?そんなのどうやって…」
「簡単な話だ。俺の離れを修理して貸してやる。お前はそこで整気術クリニックを開け。」
今この世界は荒れている。
モンスター共が凶暴化しており、その対処のため冒険者や兵士達が日夜戦っている。
それはつまり、怪我人も多いということだ。
グレッグの考えではかなりの需要があると見込んでいた。
「で、でもボクは冒険者に…」
「ほほぉぉう?さっき何でもするって言ったよなぁ?言ったことを反故にするなんざ、エルフとして最低なんじゃあないかなぁ?」
「く、くぅぅぅっ!!メ、メリンダ、何とか言ってやってください!」
「すまないエリーゼ、本当にすまない…私のために是非クリニックをやってくれ…!」
「お前は二度と受けるな」
「ああっ!なんて非道なっ!?」
「まあとにかく。ぶっ壊れた離れの修理代、ざっと100万スフィア。お前Eランクの冒険者だろ?Eランクの稼ぎじゃ、食費とか差っ引いたら100万なんて何十年も掛かるぞ」
「そ、それはっ!はぅぅぅぅ…」
「と、言うわけで、お前はここでクリニックを開く!メリンダは俺が許可するまで離れに入らない!以上!」
「うー、わかりましたよぅ...」
ぶーぶーと文句を言うエリーゼを言いくるめて、グレッグは満足気に頷いている。
「よし!そうと決まれば早速修理の手配だ!んで、エリーゼは店の名前考えとけ!」
「は、はいぃ!」
*****
翌日。
早速修理業者がやって来て離れを修理し始めた。
と言っても完全に破壊されているので、建て直しているに近い。
今度はエリーゼのクリニックと、グレッグの鍛錬場に完全に分割することになった。
「で、名前は決まったのか?」
「はいっ!これです!」
ジャーンっとエリーゼが開いたノートには...
"エリーゼとグレッグ 愛の..."
「却下だ」
「早いっ!最後まで見てないですよね!?」
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"メリンダ&エリーゼ 百合の園"
グレッグは無言でエリーゼの首をキュッと締めた。
「クケッ!?ど、どめすてぃっく...」
グレッグは乱暴に次のページを開ける。
"春風 エリーゼの整気術クリニック"
「ほう...これいいじゃないか。」
「ほうほう!やはりわかってますねぇグレッグさんは!やっぱりこれだと思ってたんですよ!」
「なら最初からこれを出せ」
「むぅー、遊び心がわからない人ですねぇ」
こうして、何故かエリーゼはグレッグの家で整気術クリニックを開業することになった。
"春風"はやがて王都にその名を知られていく事になるのだが、今の彼らがそれを知るはずもなかった。