今まで
19××年、12月某日。田舎の病院で僕は産まれた。母が音楽が好きだったから奏と名付けられた。小学校時代は女っぽい名前ということでいじられることが多かった。そしてこの名前は僕が生涯ひきずることになる。今思えば母が音楽が好きというのが元凶だったのかもしれない。
時は過ぎて20××年。世界が終わるとか予言されてた年だ。当時は小学3年生とかだったから本気で信じていた。だから大晦日にはまだ将来の夢を叶えられていないからやめてとか願いながら寝たっけ。この頃はまだ幸せだった。
20××年、8月某日。夏休みの休みの字はどこへいったのかというくらい忙しかったのを覚えている。毎日受験勉強ばかりして週に一回はストレスが爆発して暴れてた。ここで母が受験をやめさせてくれれば僕は辛さを引きずらなくてよかったのに...。
そして20××年、2月某日。その日は中学受験の合格発表日だった。模試の結果はよかったからきっと受かっただろうと思って帰宅後母からの発表を待った。結果は不合格だった。努力しても報われないということを知った時だった。その後、受験をしなかったみんなと同じように公立の中学に入った。
20××年、5月某日。中学1年の時。体に支障がでてきた。最初は、立ち上がるたびに頭痛がするようになった。その後も、朝起きれなくなったり立ってると眩暈がして倒れたりなど。学校には行けなくなっていった。不登校になっていた。
「ねぇ...なんで君そんな体なの?」
不登校になりはじめた頃から自分の中でそういう声がするようになっていた。奴はいつも煽るような目をして僕を見てくる。
「きっと中学受験したときの疲れがまだ残ってるんだ。僕のせいじゃない。この体になりたくてなったんじゃない。普通に学校に行きたいよ。」
「じゃあなんで治そうとしないの?不登校という言葉に流されてゲームばかりしてるの?本当はこれは君が望んだんじゃないの?休みたかった?ねぇ。」
頭の中に声が響き渡る。うるさいうるさいうるさいうるさい....
「うるさいんだよ!!僕は望んでないんかない!黙れよ」
「何言ってるの?奏。静かにして?」
「ごめんなさい....。」
いつの間にか声に出ていたらしく下の階にいる母に注意される。あいつはなんなんだろう。別人格?だとしたら僕は多重人格?体どころか精神までおかしくなりそうだ。
不登校になってから1年が経った。さすがに毎日ゲームばかりというのも気が引けて、体調もよくなってきたから週に一回のペースで学校に行くようになっていた。
「週に一回しか行かなくてしかも半日?だけど学校に行くようになったね君。」
「.......。」
1年経った今でもいまだに奴はいて話しかけてくる。そしてまだこいつの正体はわからない。個人的には自己否定の塊だと思っている。だから今では話しかけられても真面目に返事をすることはない。
しばらく経ったある日。今日は学校に行く日でいつも通り車に乗って母に送迎をしてもらっていた。正直今日は気が乗らない。
「ねぇ、気が乗らないなら休めば?前みたいにゲームばっかしなよ。休みたいんでしょ?」
いつも通り奴が嘲笑しながら僕に話しかける。
「....学校は行って当然だろ。みんなは行ってるんだから休めないよ。」
「そんなの今更じゃない?君1年も休んだじゃないか。それに君、先週行ったとき机に入ってたあのゴミが気になるんだろう?あれはいじめじゃないかって。自意識過剰だね~。」
そんな事を言っている間に学校にはついていた。行かなきゃ、そう思ってるのに足は動かない。
「ほら。休もう?行く気ないんでしょ?ねぇ。」
いつもより奴の声が鮮明に聞こえる。無性に苛立って自分の足を殴る。
「奏?落ち着いて。行けないならいけなくてもいいんだよ?少し前まではここまで来ることすらできなかったんだから成長したよ?」
僕の様子に気が付いた母が声をかけるがそんなの今はどうでもいい。
「自分の意志がないのね貴方。かわいそうに...。あんな奴の言葉に惑わされて学校にすら行けないだなんて。」
今までとは違う女性の声がした。
「ただ....彼の言う通り貴方は学校には行きたくないみたいね。運転席にいるお母様に行けないって言っちゃいなさいよ。そうした方が楽よ?」
「だめ....。行かないと学校には行かないと....。」
一時間目のチャイムの音がした。リミットだ。
「今日は....休もっか。学校には後で電話しとくね。」
車が学校の外へでた。僕の中にいるあいつらがいなければ行けたのに...。家へと向かう中僕はずっと泣いていた。
家についてすぐに2階の自室へと駆け上がった。学校の制服のまま布団にくるまり近くにあったイヤホンと音楽プレーヤーを使って死生観を謳っている曲をボリュームを大にして流す。この世から逃げたくてしょうがなかった。
「そうやって結局は現実逃避か。学校に行けなかった事実と俺らがいる事実がそんなに嫌か。」
「仕方ないよ、この子は空っぽだから。僕らが存在するのもそのせいであり、そのおかげでもある。」
「私達もこの子を責めたいわけではないのを覚えていてほしいわね。私達はこの子の空っぽを埋めるための自己否定と悲壮感なのだから。しょうがないのよ。」
僕の中にいる住人たちがお茶会をしている。そういえば気が付いたら一人青年が加わっていた。もう何人いようがかまわなくなっていた。