よん
・ノーボディ、ノーライフ
階段を上ってく間、僅かにユズルのつぶやきが聞こえた。
「やはり、間諜はどこまでいっても……か、」
「え゛っ」
ユズルちゃんのくちから浣腸なんという単語が出てきたのはびっくりしたが、
さて現在はボク…桐哉のおとうさんおかあさんの共同寝室の前、
扉一枚へだてて、中の様子は……
──~~~……!~~~……──
「…まずい、」「えっ?」
「中でなにが起きているのか……」「う、うん……」
…!…
「!」「えっ、えっ、えっ……」
「こちら、01、01、応答願う。……あんのくそオヤジ!チクショウめッ、」
手元から取り出した、トランシーバーで応答が…できなかったようだ。
ユズルは、なにかを焦ってる様子だ。
「桐哉、」「う、うん」
「…強行突入するぞ、」「!」
ユズルの体が跳ねるようにドアを開けて、その部屋の中に飛び込んだのは、ボクが止める言葉をかける間隙さえない、一瞬のうちのことだった。
──
開け放たれた部屋の中。その中へと割って入ったユズル、半開きの口で入り口の縁から覗くしかない桐哉、
部屋の中の様相は……
「こぉのメス魔王め! 手前の支配がうまくいかなかったから!お前は反乱を起こされてその立場を奪われたのに……何で反乱側を一人一人救う必要があるんだ! しかも俺の家庭業をヤロウどもへの餌代わりにしてッ」
「あぁあっ、あん!……ホザくな現代人、私の世界はなぁ、科学力も魔法力学もすべて、この現在からは超越してたのに……指導者である私が育てたのに……っ!!!
飯の事情で!反乱起こされて!!!1
えうっ、
おいしいご飯が食べられて感動したのは私もそうなのだよぅっ~~!えうえぅぇう……あ、あっんあ」
「だから六億年も使って、この現実世界まで俺を追いかけてきたってのか、このクソメス魔王!」
「昔みたいにちんちくりんの姿じゃないからもういいだろうが!こんのアホいけず勇者!!!!!!」
「 」
ユズルちゃんは、口をぱかっ、と開いて、なにか放心した様子で、フローリングにへたりこむしかない状態だった。
対して桐哉は、
「あっ、なーんだ、なんだ、いつものお父さんとお母さんじゃん。ふたりでいつものプロレスごっこしてるだけじゃぁん! いやはやいやはや、早々に娘は退散します…って」
「 」
「どうしたの?」
座っているのに立ち眩みをこらえそうな仕草を取った謙は、無言の話を続けて、
「桐哉への教育に悪い……のはおいといて、」
「うん、」
「………」
「いや、だって、ボクがおかーさんの中で、できたときのまぐあいも、こんな感じだったって話なんだよ?」
「ききとうなかったし?!」
謙の絶後に、ドスギャーン!とギターのブレイクする音が被さって聞こえたか否か、という間を挟みつつ、
「ありえない………」
「えっ?」
「…っけんな、」
──えっ、
「ふざけんあ!111111
俺の戦いは……勇者としての今までの俺の戦いは!
桐哉を守るって俺の戦いは!!!!1111111
最初から!!!11111
茶番だったのかよ!!!!!!11??????」
えっ、えっ……えっ、
「あんのクソおやじ~~~~!!」
ユズルちゃんはご両親との中があまりよくない……とは聞いているけども、
それより、謙ちゃんは何者……いや、
ボクたちって……何者なの?
「正体現したわね、このアルピノたぬき!のその親たち!!」
「「「そうだそうだ!!!」」」
「ほら、な」
「えっ……」
「「「「えっ?」」」」
唐突に割り入ってきた四人の女子の声……バイトさんたちの声だった。
しかし、しかし、
「ほぁあぁぁぁぁぁぁぁ……──」
アルピノたぬき、という呼称を聞いて、ボクは真っ青になっていた。
保育園時代に、付けられた最古の徒名だった。
ちがうもん、ボクたぬきじゃないもん!あるぴのではあるけど!!
「カラアゲにたぬき肉使ってるって、保健所に言いつけてやる!!」
そうだ、このフレーズもだ。
いじめられていた、あの時の恐怖が急速によみがえって……
「絶望したッ………!」
「えっ……」
「どっかで見たとおもったら、こいつら俺を付けてるグルービー、保育園の頃に桐哉をいじめてた奴らじゃねーか!!!!!
それがなんだって、雨霧家の護衛の増援の人員??
ウェイ?涙が出てくるね、いくらなんでも、俺の親父に母親ぁ、桐哉の父ちゃん母ちゃんも、全員カタギの人間じゃなかったのかよ?!!!?
ハァン!??!」
えっ、えっ、えっ………
「ちょっと待ちなさい、谷岡謙。あんたは我々、人類アライアンスに加入している、勇者じゃん。
そんな異世界からの密入者の娘なんか、放っておいて、私たち勇者アライアンスの会員に戻りなさい。
そんなアルピノタヌキなんか、さっさと見限って……」
「あぁ、今、決心が付いたとも。」
てめぇたち恥知らずどもの、そのきったねぇ声によってなぁ……ッ!
えっ、ちょっと、待って……
「俺は!」
「桐哉の為に、……人類、裏切ります!」
えっ?
「ひどい!私との契約は…なかったの?!」
「お、オレとの冒険の思い出は!?」
「こんなのって、ないだろ!」
「ねぇ! わ、私との、私をえらんでくれたんじゃ…」
「シャァラップ!
オレは親父みたいにも母親みたいにもなりたくねぇ……
一人の人間と、最後まで一途に添い遂げたいんだ!
この幼なじみの…この子と、
桐哉と! 骨身が燃え消え着くまで!!
」
そ、そんな…ずっと、ずっと待ってたのに、だからあの学校に進学したのに、そんな!!
嗚呼、それも気にしなくていい。
──えっ、
「まず、テメェらの血で、俺の手を染めねぇとなあぁ………」
──~~っ!!!!!!
「「「「! まずい、ねらわれてたのは
ウチの子だった「「のか」」!」」」」
「「「「えっ、」」」」
ふと、窓際のベランダを見ると、そこにはご近所さんたちの姿が、なぜかベランダの上に。
あっ…もうアルピノタヌキなんて言われるの、いやだったのに………もう、わけがわからないよ………
ぐすんっ、
ぴきん、
──という、ピアノ線を切ったような音が、聞こえた刹那……
「「────しゃがらっしゃぁあ!!!!!!!」」
ちゅどぉん!
──という、閃光とエクスプロージョンが、この目前で、迸った──……
ウチの娘をいじめてたのは、あんたたちだったのか、えぇっ?!
──いや、いえ、そんなことは、そんなことでは……
元勇者エルボー、元勇者キック、元勇者パンチ!!
──ぎゃ、ぎゃっ、ぎゃぁああっ!?
ウチの娘をいじめてたのはあんたたちかぁぁぁぁ……元魔王ビーム! 元魔王ブレス! 元魔王フラッシュ!!! サウンドフラッシャー!!!!!
ぎゃおおぉぉおぉぉん!!!!!!
ぎゃあぁ!目が目が、体…あっ、あっあっあっ、嗚呼っ──がくっ、
「パーティースワッピング、うまくいきましたみたいですねぇ?」
あっ、と思って、声の主を見る。
そこにいたのは、ユズルちゃんのお姉ちゃんと妹さんたちだった。
その背後には、ボコボコにされてひれ伏す、谷岡家のお父さんお母さんが、
「くそ親父、くそ母親! あんたたちはなんでいつもこうなんだ……!!!!!」
今日も世界がほろんでしまう!
いやもう滅んだ後なのだよ、息子よ……
いまさら息子よばわりなどォ!
がぁはっ、南無三……! がくっ
しんだふりか、……てっていてきにやってやろう。
えっえっえっ、なになになになになんなのゆずちゃんゆずちゃn
そぉい!
ぎゃああああああああっ!
現勇者・サイキック、斬!
ああぁぁあああああぁああぁあっ!!!?!
「桐哉、大丈夫か?」
「えっ、えっ…──…、」
「悪は、滅んだよ。」
テッテーテキ、にな…………
* * * * *
・乙女の涙は何よりも高くつく
「うちの、キッチン清掃費用、……高くつくんですがねぇ?」
「ほぉ、見積もりを見せてくれ、」
「このように、」
ぱさり、と、
「世界を救うのに、たったこの程度の費用だったのか………」
あ゛?
「迷惑料は別ですよ、」
「それはそれは……いいでしょういいでしょう、」
「はぁ、」(おもいっきり高く請求してやろう……ッ!)
──カラアゲ!カラアゲが食べたいのだ!!
まだほざくか、この「低級怪異」「低級魔族」がァ!
ぎ、ギャ!
ま、まってくれ、せっかく、私、わた……我を慕って、あの六億年の距離を通ってきてくれた、その魔族の者なのだぞ。
家臣に迎えるべきが我が魔族王家のいにしえよりの伝統……
なこと言ってるから足下すくわれんだよ、バカ魔王!
こいつのせいで、今から届けにいく筈の弁当、全部ダメになったんだぞ!!
あっ……それなら、やっちゃおう
だろう?
ひ、ひ、姫殿下さまぁ……お助けをぉっ……
はいぱーきらーくろー!
あ、あっふん、ぎゃぁ! ぁ、ぁ、ぁ、ぁ……
ドロン、と煙に溶けて消える……
そうだ、取引先に聞いてみよう。
ぴっぽっぱっ、と
……もしもし、
──あのカラアゲ、キロ当たり、卸値で頂くと?
──正直な値はですねぇ、ゴニョゴニョゴニョ……
──はぁ、はぁ、はぁ………
ぴんぽーん、
あら、何かしら? 桐哉ちゃん……は今だめだから、謙くーん?
あっ、お母様、私が代わりに行って参ります。
あらあらまあ、お願いいたしますわっ
あのー、…
!
あのあのあの、ちょっと、桐哉さんのお母さんさん、こわもての方がいっぱい……
えっ?
あらあらまあまあ、機動隊の方じゃないですか、今晩は我が家の商売先に、ご迷惑とご足労をおかけしまして……
えっ、お詫び? それから、本局の方がこられてる…と、
おい、ばかゆうしゃー!…は恥ずかしいそうだから、おとうさーん!
「 あのーKC庁警備局のものなのですけどー、
これ以上の家庭内超常的対立は、もはや現実情勢に与える影響はこれ以上なくでして…… 」
あら、あらあら、はぁはぁはぁはぁ、
……………
えっ、サンプルを提供いただける?
おまえたちさんざんそういうの好きだろうから?
はあ、ご協力とあらば、喜んでいただきます~
へ、?一時間に一体、なかまをよんで増殖する?
しかも飯を食わせないと凶暴化して手が着けられなくなる??
………科捜研でも扱いが難しい試料だな。
どうするか……
えっ、もう科捜研のルームは手一杯???
え………それじゃあ………
ふははっはっははは!どのみち、わが魔族帝国の復活の日はもう間近なのだって、はははーっ! っておいバカ勇者、なにをするっ……って、ほかの弁当屋に渡しを付ける? それじゃあ私もおてつだいーっ
「………」「………」
「ねぇ、ユズルちゃん、」「…うん」
「今日は果てしない日だね……」「……うん」
「………」
桐哉は知っている……ユズルは潔癖性なのだ、
「別に寿司職人だってオナニーと座薬入れはするだろうし、いいんじゃね?」
「えっ………」
その唐突な謙の発言に、しばらく桐哉は呆けているしかなかった。
「あっ、………ユズルちゃん、ボクの家の弁当、好きだもんね」
「うん………」
まさか家の中で毎晩毎夜、あんなハードプレイが繰り広げられていたとは。、……
「…ねぇ、ユズルちゃん、」「ああ、なんだ? 雨霧」
「さっきのって……告、白、だよねっ!?//////」「!!?っ/////////」
せわしなくすぎていく、春の夜………
この日、首都圏及び日本列島及び地球上の世界各国及び複多数亜空世界には、甚大なダメージが、もたらされた。
そのサウンドフラッシャーを放った本人、元魔王こと旧魔族帝国の女帝王・現、弁当屋・雨霧の女将は、今からの声明でこう述べた。
曰く、
“下衆の下策にでるからこそ、このような結果になるのだぞ”…、と。
勇者アライアンスと人類アライアンスの良心にかけて、この損んじられてきた元・勇者こと、かつて二十年前に失踪した、某行方不明事件での被害者・現弁当屋・雨霧の亭主には、相応の賠償金と、人類圏世界全体での、総合的な名誉及び人権回復措置が払われることとなった。
………
・終わりに代えて:春の先へ
「………はぃ、はい、わかりました、今から弁当を、二十六個、……はい、ご注文承りました。それでは……、おーいゆうしゃー、注文!」
「へいやっ、と……了解だ!」
果たして、弁当屋あまぎりに、平凡な長期休暇シーズンが到来した。
我が弁当屋はやや、そこそこの収益を稼ぎ、いつもどおりの、平凡で変わりない日常を送るに至っている。
娘にも、それからあんな熱い告白の台詞を発した、例の少年くん……謙くん……にも、娘…桐哉…と一緒の、存分のない夏休みを過ごさせてやろうと、こちらは夫婦ともに、弁当屋の業務に励む日々だ。
さて、さんざんに、裏方でなじられたりどなられたり、の、二十年前のあの日から今日までの俺の日々だった。
味方より頼りになる魔王と出会って、複雑な成り行きがあり、大義的にも物理的にもの破局を共に打ち破り、さらに成り行きがあり……
…それで、…いざ共に愛の巣を作ってみれば、お互いのポンコツさに、頭を抱えたり、泣いて笑ったり……
別に、今ある世界は、偽物……なんかではなかった、筈だ。その証拠に、あんの魔王陛下さまは、俺の隣に……来てくれた。
変わってしまったものを数えるより、失ってしまったり、引き替えにしてしまったり、残してきてしまったものの方が多かった、そんな人生だった。
そんな俺は、俺の家族は、
これから、果たして、どうなるのだろうか………
ふと、不意に、思った。
さて、俺の本業とはなんだったのだっけ?
(どっとはらい)
弁当屋チーム
弁当屋の親父……かつて異世界勇者だった転成者
冒険が終わって、二週目の現代生活で弁当屋を開業
その奥方……反乱起こされて政権転覆した
異世界の魔王
娘…雨霧 桐哉
祖父祖母
勇者屋チーム
勇者業
現代伝奇RPG的物語の主人公とヒロインたちのその後
息子……今代勇者 谷岡 謙