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3/4

さん







・夜の姿見からコンバンワ





 その日の夜。。



 国際会議の日程に入り、まず一日目の消化が終わった今日……


 夜勤の差し入れ分、としてさっき発注がはいったのが、およそ50膳



 膳の内容は問わない、ということなので、思いっきりサボることとする。


……要するに、今日で使い切ったらよいものを、使うのだ。




 デミグラスハンバーグ弁当、焼肉弁当、

 塩サバ焼き弁当……カツレツ弁当……




 雨霧家の父親と母親は、見事な手つきで弁当裁きをこなしていった。


 

 バイトは大まかに帰ったが、ユズルが残っていた。

 それに、桐哉とで、二人。


 合計で、四人。




「ふぅっ、今日も疲れたわー……」


「あっ、桐哉、それからユズルくん、いったん任せるよ、」



 それが、今、父と母の二人が、休憩でいったん家の中へと引き返していったので、桐哉とユズルの二人っきりになった。




 母親は小さいときから体が弱いとかで、それはしっかりと娘にも遺伝されていた。 

 そんな母は、妙なところで天然が入るのだ……その原因かもしれない。

 雨霧家の父親は、いつも後手後手でそのフォローと対処に忙殺される、そんな今までであった。




「……なあ、桐哉、俺たち二人になっちまったな、」



「………えっ?!、あっ、えっ、う、うん……」




 いけない、ボクも呆っとしてしまっていた……

 母親から受け継いだものの一つに、こんな感じに、集中していると、『虚無』へと意識が引っ張られる……ような、そんな状態になってしまうのだ。



 まあ、気にしてもしょうがないので、早いところ、『カラアゲ弁当』の仕込みへと、移る。





 契約したセントラルキッチン業者の卸してくれる自家製風味の業務用冷凍カラアゲ…

 それと、

 我が店の秘伝である、不純物の少ない高級ショートニング。

 まずショートニングのそれを固形状態から戻して、

 温度の高くなった油槽で冷凍から揚げをカラカラと揚げていく…だけである。


 

 キャベツの千切りも昔みたいに店舗で切るのではなく、セントラルキッチンで仕上がった袋のそれを、弁当容器によそう、ただそれだけでいい。


 あとはご飯を給米機で投下して、仕上げにスパイスパックの添付と、揚がり終えたカラアゲの、その配置のみ……




「……なんか、寂しいぜ、俺」


「…えっ?!、き、急にどうしたの、ユズルちゃん」



 横で手際よく、ご飯投下機を操って弁当容器に白飯を投下しているユズルは、そんな様子で桐哉へ話しかけた。

 


「昔みたいにユズルちゃん、って言ってくれて、あんがとな!

 …だって、こうして二人きりになるの……ずいぶんぶりじゃね? だから、さ」


「そう……それは、確かだね。うんっ」




………というか、

 そんな話しぶりで話されてしまったら、桐哉にも相応の言い分……というか、苦労話というのが、ひとつふたつばかりは、ある。




「~~~~、」




 大まかにいえば、進学先の高校の選定に、そうとう気と頭を使ったくらいか。



 なにせ、ユズルの学力は、…すこしばかり、低い。

対して桐哉の学力は、まあ高すぎるわけではないのだが、相対すると、微妙な高低差があった。



 そうして、なんとか条件の合う高校をえらんで、ともに進学して……となるまでが、相当な苦労だったのだ。



 その上、いざ入ってみたら、入学初日にユズルが言い放ったのが、学力の高い桐哉とは、もう高校でお別れかと~~という、涙ながらの白状だったのだから……




 一方桐哉の方としては、この幼なじみが進学しようとしている学校が、肝心の幼なじみ側からはいっさいの相談がなかったことである。

 そんなものなのだから、ほぼ勘と学期毎テストの相手側の結果から、先生があれこれ無責任に口に出す内容を推察して、……という、果てしない苦労と手間がかかったのだから。




 苦労して入ったのだ。苦労して入ったのだよ。



──それを、キミは……~~~~~ッ──








「…しまった、」



「え、?」




 …時間が、揺らいだかの体感が、、今、あった。





「どうした、の……ユズ、………──」





 あ。





 ユズルの目線を追った先に桐哉が見たのは、

 磨かれたキッチンの鏡から、出現せんとする………




 黄色の、《怪異》




 こわいものみちゃったこわいものみちゃったこわいものみちゃった






《ケケケ…見つけたぞ、ここが『特異点』! 》





 不気味な嬌声をあげて、怪異が何事かを発した。

 多重エコーがかかったようなその声がさししめすのは……よくわからない、と桐哉は思った、が、


 そんな思考の考外たる話ではない。




 鏡から、不気味な黄色の小人が、《出てきた》。





「 超亜空の彼方の深淵から、出ずるモノ……か 」




 一方の幼なじみ……ユズルは、そう何事かを、一人呟いた。




「な、なにあれ……」


「いまここには剣はない……が、」



 守るように、ユズルが桐哉の半歩先に、歩みでる。



 桐哉はおびえるしかない……




 おとうさん、おかあさん!!





 声にだしたい。けども、声がでない、?





 そんな愕然たる桐哉を、黄色の小人……《怪異》は、見て、






《これはこれは……魔王女殿下にあらせられる、と! やはり斥候からの伝達情報に間違いはなかったか……ならば!》




「え、えっ、え……」




《王女殿下をお守りしたく、はるばる六億年の距離を泳いでわたりましたぞ……ちぇすとぉーーーーーーーー!!!》




 えっ、あっ、きゃ?!





「………」




 桐哉に飛びかかった黄色の小人怪異を、その飛びかかり途上の空中で掴んだ、ユズル。




「…えっ、?」



《な、なにをする、はなさんか!このニンゲンの、勇者めが……ごときがー!》



「………、、、」



 すかさず、ユズルは目を動かす。



 無洗米に水を張った、今から炊飯予定の炊飯釜が、一つ。


 その中に怪異をつっこみ………



 ふたを閉じて、






 炊飯器のスイッチを、ポチッ。



《や、やめろ、なにをする……なにをぐwfじk、ギャァ!?》



 きーらーきーらーぼーしーがー



「えっ、ええっと……えっ、? 勇者…?」



「何だよ、俺の幼なじみやってんのに、この低級怪異すら冷静に倒せないのかよ……ま、いいか」





 え、え、え、………えっ?




 ユズルが無表情になって、それから…次の瞬間に、ユズルの携帯電話に着信が来た。



 そこから始まった……静かすぎる、怒気同士のつたわりあい。

 それらをボクは、ただ非現実の非日常に、おそれを為すしかなかった。





 やがて、三十分以上の時間がそうやって流れた時、







 ピーィッ、っとアラームが鳴って、先ほどの炊飯器が炊けた。



 携帯をいったん保留にした、謙。



 桐哉ボクとユズルの見る先には、さっきの炊飯器



 ユズルは、それのふたを、かぱっ、と。





「………」






 中の米は、半炊けになった所で、ふたによって封じられた怪異が、食らいつくしていた……




「……、」





 ゆっくりと、謙がしゃもじを手に取る。





 脳天から腹のワタにまで掛けて……





 しゃもじで、斬!





《ギャーァオッ!!?》





「さぁて、」





「汚れ物、どうしよっか、」


「あっ…うん」





 桐哉の目に、怪異の返りミソを浴びた謙の姿は……


 なにか恐ろしいもの…のようには多少、みえた。




     * * * * *




・英雄譚は遠く過ぎ去りし理想郷へ





「これでよしっ、と……」



《あぁぁあああぁ゛あ゛あぁぁああぁん!!!!!》




 さて、さらに数分がたった今、である。

 この数分のうちで、まずユズルが動いた。 


 この訳の分からん黄色タイツの未確認生命体を、煮豚用の凧糸で亀甲縛りにして、キッチンにつるしたのだ……



 ところでもしもし、ユズルちゃん。

 誰に習ったの、?




「桐哉、お前のお母さんにおしえてもらったんだ」



 は。? 、




「~~~っ…~~」



 母親、を越えて、もはや憎らしい毒婦のようにしか思えない……いやしかし、あの天然ぼけで万年天然のあの母親が、そんな、



「さぁて、見せしめの準備は終わった……

──、行くぞ、桐哉」



「え、えっ……──」




 不安と怨念とともに、桐哉は店兼自宅の住居スペースの、両親の寝室へと向かった……自身の手を引っ張る謙の先導で。










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