2話
・瞑楽の朝のスジャータ
翌日である。
「いつもお世話になってまぁす、!」
「店長さん、お変わりないようでなによりです~」
「娘さんもこんにちわ!なのだ」
「今回もきましたよっ!」
あらあらうふふいえいえそんなそんな、
いえいえ結構結構あはははあらあら
「……」
…はぁぁ、
桐哉の顔は、暗かった。
この目の前の美少女ウグイス目白押しの、様子にである。
今日は休日であった……決戦の本番は週明けだ。
本日はあくまでもトレーニングをかねたものだ…。
果たして目の前のキラキラしたものたちから、休日だし起きがけで、目垢もつきっぱなしの己と比べたものやら!
内心に毒を吐き溜めつつも、うわべの様相は、平静をとりなしておく……──いつもの
果たして、全員が、桐哉と謙がともに通う高校の、そのクラスメイトであった。
いい娘さんたちだ、……と、桐哉は父親と母親がよく口に出すフレーズを真似て、そう言ってみる。
そう、目の前のものどもは、飾りだ。
そう云わんその根拠が……
「オッス、おはよっ。桐哉!」
「! お、おはよぅっ! ユズル!」
そう、そうなのだ、この谷岡 謙の存在ッ!!!
このものとの逢い引きの前には、果たして目の前の脇の裾の女子力女子などものどもは、コテンのパン、キュー、コロリ。…とはならずであろうがぁ、とにかくそのようなものである。
「よく寝れたか? 桐哉っ」
「え、えっ!!、 そ、そそそれは、そんな…いいっこなしじゃないかぁ!/////////」
「あはは、そう受け止めっとくよ!」
がしっ、と握手。
そして次の瞬間にはおはようのハグ! いやあ幼なじみ同士ってのはたまんないものだね、
あれ、? よく考えたら朝のシャワーもしてないよ、どうするの、ボク。
でもまぁいっかあ、だってボクとユズルは男の子同士の仲よりも仲良しな自信あるし! アハハ、あはは…互いにいいにおい……
──……!…──
はっ!?
「…──!」
殺気!
どこから!? いや、目の前の裾の脇から。
えっ、そうすると……
「………」
はっ!
バイトどもの笑顔は消え失せて、虚数じみた、冷血の顔、……とも形容せんか、という、面妖な顔。
それがよっつ、
「!」
……今、わかったことがある。
このうちへのバイトの娘たちは、もしや、謙のハートを狙って?
「 」
がぁーん! と愕然の段響が鳴り落ちた。
──奈落の底へと、桐哉を連れて。
そういえばこのバイトの子たち、がっこでいっつもユズルのそばにいるよなーくるよなーおいはらってもおいはらっても
そういうユズルも、対してまんざらってやつじゃないようだしー…
「あは、ははは………」
叶うわけがない。
「は、は、ははは……」
学校戦線での我彼の戦闘能力値の差は、絶大だ。
こんなハイスペック人種たちには、桐哉には最初から勝ち目などない……かないっこないのだ。
この女子力女子たちが、本気になって、ユズルを取りに来たら……
ようようと、絶望が体の中で広がる……広がってほしいのは愛のプラズマくらいなものだ。それなのに、
それなのに!
──その日の夜は、桐哉は特に夜の鎮めが激しかった。
・古典的難聴主人公の俺は素養が良すぎて困ってしまうようです
いよっ!
俺の名前は谷岡 ユズル。
どこにでもいる、ただの高校一年生…
…と言っておこうか。
うん、嘘はついていない。
昨日は初めて桐哉んちの家のバイトに参加したけど、いつもの俺の友達たちが張り切っちゃって……
その上桐哉は元気がなかった。どういうことだ??
「よっ、おはよう。桐哉!」
「…うん、おはよう、ユズル」
なんか声かけても返事はふさぎ込んでるみたいだし、果たしてどうしたものやら……?
「「「「ゆずるー!」」」」
「!」
…おおっと?いつものグルービーのお出ましだ。
しかもこの瞬間、桐哉はびくっ、ドキッとなった様子で、一気に顔の血色の悪さが三割り増しになってしまった。
「はぁっ」
またかぁ……と俺は一人で悪念を呟く。
あのグルービー連中、なーんか俺に執心しているけど、タネは割れてる。
俺の血筋……か俺の特異能力か、その両方か、
…を欲している、のか?
冗談は止めていてほしい。
どうせ俺は、呪われている者だ。中二病とか高二病とかそういうの抜きで、客観的な事実としてだ。
なので、どうにも桐哉へは……思いを果たせそうには、今生にはなさそうなんだよなあ……
「あぁ、あっ…っと!」
「ひゃぁ!?//////」
まあ、今のうちには、言いっこなしだ。
「いくぜ、桐哉!」
「ちょっ、ちょっ…まってぇ、ユズルっ?!」
……今のうちなら、まだいいんだ。
今日の夜、また『怪異』があらわれる。