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・僕っ子少女は報われたい!&或る弁当屋の悲劇




──…そんじゃ雨霧、またな!…──



「…、…、…、」



 じゃあね、の返事を取る自分。

 小さく手を振って……しかし、自分──ボク──のこの小指には、必ずまた明日会える、という確約の赤い糸が、彼の小指にも繋がっているハズ……という、根拠もない妄癖じみた変な幻想が、この冴えないボクにとっての僅かな希望の頼りなわけで、……




……はぁ、

 


 華奢で薄弱な自分よりも軽いだろうため息が、なぜか果てしない重量を得て、沈み降り……再沈降し、逆流して己の体の胃の底から離れ出ようとはしてくれない……そんな感覚を、今日もまた得てしまった。



 踵を返す、の言葉通りに、この三叉路の彼とは別方向にあるボクの家まで、ボク……桐哉は引き返していった。




 * * * * *





 ボクの名前は桐哉とうや

 母親の趣味と、女だてらに格好良く育ってほしい……という父方母方の両祖父母の思惑が一致した結果定まった、呪いみたいなネーミングだ。



 そんな諸々の期待を受けて……

 いや、だからこそ反作用的に、だろうか?

 小さい頃のボクは、泣き虫で自分の意志がはっきり持てなくて……厭、これは今でもそうだけど……その上、友達なんて、まったく居なくて……~~~これも今でもそうだけど!…………


 まあはっきり言えば、最悪、の学校生活を送った前半生だった。




 とはいえ、そんな自分の暗黒極まる幼少期にも、華と呼べる相手がいたのですよ。

 


 性格良し相性良し。その上、ヒーローじみた人格者。

 共々一般の範域とはずれているけど、互いの領域の重なる部分がぴったりで、

 共通の話題で盛り上がれる…そんな理想の親友。

 


 それがボクの唯一たる友達で親友の……その上、幼なじみだよ!?……もうこれは、運命だとしか、……

 

 ま、まあ、彼、というか、先ほどの、友人……親友、という、ことなんだ。



 とはいえ、浮いた話は、交友が始まって十五年が立つ今を持っても、まるでない……





『はふー…』




 

 風呂へ入った後に寝床に定まったボク。

 もうすこしくらい、思考を回転させる……

 



……まあ、今の学校生活は平穏なものだ。

 長くて、つらかった小学校とは違い、彼が不要に傷つかなくても、ボクの安穏は保たれるレベルには、落ち着いている。




 それだけに、もうすこし、、進展したら……




「うぅっ」







 そうしたら、もっとしたら、そしたら……もしかしなくても…





「っあっ」





やっぱり、なんてのはない。ないから、つぎは……




んあっ





「──…~~~~~…──」









…うっ……








「………」




 指に絡まった粘液の感触を確かめてから、桐哉は眠りに落ちた……いつものように、



 いつになれば、………




     * * * * *



「おい、」



「……ぁ、」




 なので翌日。

 自身の催しのほぐしに使ったこの腐れ変態バカボクっ娘のその利き手の指を、その意中の幼なじみ氏…谷岡、譲……に、ギュっ、と軽く掴まれてさわられたことに、桐哉ことぼくは頭が真っ白になってしまった。




「あっ」



「ぁっ……」



 するっ、とボクの手からユズルの指がはなされて、



「ゴメンな雨霧、なんか変に力入っちまったか!?」


「い、いや、だいじょう、……」



 顔の頬を赤らめさせてかしこまった様子になるしかないボクには、謙のそのひたむきさが、何よりの後ろめたさになって、しばらく自己嫌悪に浸るしかなかった……




 のは置いといて、





「お前の父ちゃんから電話あったんだけどさ、オレ、おまえんちの弁当屋にバイトで入るわ!」


「…は、」




 よろしく! と差し出された謙の手を、ふたたびボクはけがれた手指で握りつつ……



「うち、みたいな、三流弁当屋、に……、?」



「おう!」




「………」




 ま、まあ、ボクの家の日々の食卓がおいしい理由の第一であろう家業なのだから、えぇっと、その、




「む、おムコさんの修行なら、もっと視野を広くしてだねっ」


「? なにいってんの、桐哉??」




 なによりも嬉しいのが、そうなると謙と一緒に居られる時間がもっと増えて……




「 チャ、チャンス! 」

 

「???」



 一気に、この距離感を詰められれば……!



 

 ひとり、ボクは決意を深くしたのだ。





     * * * * *





・或る仕出し弁当屋の悲劇




──……


 まったく、今日も厄日だった…


 唐突に述べられるのは、なにも今日に始まったことではない。


 とはいえ、遡ることもそうは手間取らない。

 単純な話だ。


 俺の職業は弁当屋だ。

 そして我が弁当屋のこの近くで、突発的に、大規模な国際会議が実施される…とかなんとかで、

 急に警備の警察の仕出し弁当の大量発注が舞い込んできたのである。

 少なくとも、この厄目が数週間続くとあっては、わが弁当屋ものっぴきならない状況が続く…


…ということで、バイトの子らの短期増員と増援召集を呼びかけ、我が弁当屋も臨時の戦闘態勢となったのである。



 ああ、我が娘にも、無論参加してもらうとも……




……──

 












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