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勇者様は寝取りたかったらしい

作者: 猫の人

「なんで……なんでこんな事に…………」


 僕は信じたくない事実を前に、膝から崩れ落ちた。


 目の前にいるのは僕の同居人であるアリスと、彼女の腰を抱くモブ顔だけど勇者様、そしてお付の騎士様や魔術師様。

 アリスはともかく、残りは本来お目にかかる事も無いはずの人達だった。


 モブ系勇者様は、僕に向けてこう言ったの。だ


「アリスは俺の聖女に認定した(・・)。魔王退治の旅に連れて行く」


と。





 僕、アルフレッドはどこにでもある小さな村の出身だ。

 僕とアリスは村に仕事が無かったので出稼ぎのために大きな街にやってきた。それが大体2年前の話。


 街は村と違って仕事がいくらでもあり、真面目に働こうと思えば食べていくのは難しくなかった。

 僕はそこそこ、アリスはかなり強かったから、冒険者として順調に実績を積んでいった。


 僕とアリスは男女2人だけでで組んでいるから、周囲からは恋人同士、もしくは若夫婦と言われていた。

 実際にはそんな事は無いんだけど、面倒くさかったし都合が良かったから、僕らは噂をそのままにしていたんだよ。





 モブ顔さんがやってきたのは、一仕事終えた翌日、休養日の事だった。


 冒険者ギルドとのやり取りは僕の担当だったから、仕事の完了報告と報酬の受け取りを終えて家に戻ると、夕飯を用意するはずだったアリスがいなかった。

 しばらく待っても戻ってこないから、ちょっと心配になったけど「アリスだし大丈夫か」と思って独りでご飯を食べてそのまま寝た。


 朝、起きて家のドアをノックする音で「アリスが帰ってきたのかな?」と思ってドアを開けると、勇者様(笑)がアリスを連れてそこに居たんだよ。



 魔王復活に備え、異世界の「にぽん」って国から勇者様を召喚したって話は知っていた。

 そして勇者様には異世界から来て頂いた迷惑料に、好みの女性一人を国の権力をバックに差し出す「聖女任命権」を与えられることも。


 そんな事、僕らには関係ないって思っていたんだよ……。



 お付の騎士様が僕の方に革袋を差し出した。


「嫁を差し出せと言う無茶は分かっているが、これも魔王討伐の為だ。諦めてくれ。

 これは詫び料になる。受け取るがいい」


 騎士様は申し訳なさそうな顔で僕に頭を下げる。

 だけど、僕はそんな事はどうでもいいとばかりに騎士様に縋りつく。


「何とか、何とかならないんですか? ほら、まだ選び直せるとか!?」


 騎士様は沈痛な表情で首を横に振る


「既に決まった事だ。それに、昨晩は……」


 その言葉に絶望がさらに深まり、信じられない顔で馬鹿顔勇者とアリスを見る。

 馬鹿はドヤ顔で、得意げに胸を張る。


「信じたくない気持ちは分かるがな。アリスはもう俺の女なのさ」

「違う!! 僕が言いたいのはそう言う事じゃないんだ!!」


 僕はとうとう何も分かっていない大馬鹿に怒鳴りつける。


「僕らは恋人同士でも夫婦でもない! 別にアリスが誰を選ぼうが自由なんだよ!!

 でも……でも……勇者の聖女は駄目なんだよ! 聖女は勇者の、将来の嫁なんだろう!? なんでそう簡単に選ぶのさ!!」


 思わず涙が出てきた。

 涙目のまま、アリスを睨む。


「ちゃんと説明しろよアリス!!」


 アリスは僕の言いたい事を分かっている。

 分かっているから、目を逸らし誤魔化そうとする。


 僕はいい加減にしろとばかりに、彼女の隠していることを勇者たちに教える。



「アリスはなぁ、僕のばあちゃんの妹で! 64歳なんだよ!!」





 アリスの見た目は17歳ぐらい。長い髪はつややかで肌の張りもいい。

 パッと見だけなら僕より若く見える。


 でも、僕の3倍は生きている。

 普段から「名前で呼べ」って言われているからアリスって呼んでいるけど、村でも最年長の老婆なんだよ。子供どころか曾孫までいるんだ。



 勇者様(馬)に現実を見てもらうため、アリスにかけてある魔法を解除。

 見た目の若さはメイクを駆使しているとかではなく、幻惑魔法で見た目を誤魔化しているだけ。

 魔法を解いたら年齢相応の見た目になる。


 それを見た勇者様(鹿)の表情が凍りつく。ついでに騎士様と魔術師様が顔を逸らす。

 ……もしかして、気が付いていた?

 まぁ、いいや。



「勇者様。悪い事は言いません。アリスの聖女任命を解除してください。

 もっと若い、近い年齢の女性を見繕う事をお勧めします」


 僕は真顔で勇者(お馬鹿)様に詰め寄るが、勇者(脳足りん)様は立ったまま気絶していた。


「残念だが、すでに王宮にも連絡が行っている。このアリスが聖女であるというのは既に決まった事だ」


 騎士様は再び「既に決まった事だ」と繰り返した。


 もう……取り返しがつかない?


「嘘だっ!!!!」


 街に、僕の絶叫が響いた。





 勇者様は、にぽんでは非モテという、女性に縁が無い人だったらしい。

 だからアリスに騙され、そのまま初めての関係を持ち、その勢いに酔って聖女に認定してしまった。


 それが、取り返しのつかない事だと知らぬままに。



 アリスは、そのまま勇者様たちと4人で魔王を退治しに行った。

 数年後、魔王討伐に成功したっていう話と、勇者様とアリスが結婚したって話が流れてきたけど、僕にはもうどうにもならない話だった。


 勇者よ……君とアリスの間に何があったか、もう聞きたくないよ…………。

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― 新着の感想 ―
おじいちゃん若いねぇ☻ にしてもスゴイなぁこのおばちゃん学生相手に一夜も…
[良い点] この勢い!! [一言] 最初は男の娘かな?と思ったらまさかの... そして、ヒロイン(?)つえ~
[一言] 面白かったです
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