序章 異変
2020年。
初夏。
もうすぐなんとかオリンピックで騒ぐ頃だろう。
もちろん名前も知らないほど興味が無い。
「あぁ…………あっちぃ……」
俺は陽の光を右手で隠す。
俺の名前は皆川祈織みなかわいおり。
私立舞ヶ原高校に通う普通の2年生だ。
「今日は一時限目から加藤か………」
俺は学校一の鬼教師と呼ばれる先生が一時限目の授業だと言うことに肩を落とす。
俺はそのまますたすたと道路の端を歩く。
「ちょっと祈織!無視しないでよ!」
「んあ?」
俺はたった今通り過ぎた角に一人の少女が立っていた。
「なんだよ………紫音……」
「何だも何も無いでしょ!無視すんなっての!」
こいつは各務紫音かがみしおん。幼稚園からの幼なじみ。
今幼なじみキャラいいなーとか思ったそこの君。
残念だがこいつとはそんな関係ではない。
本当に友人とまでしか感情を抱いていない。
「もう、さっさと行くわよ!」
そう言って、俺らは学校へと着いた。
クラスへと入り、授業の準備をする。
「おーい、祈織ー?」
「お、隼人。どうした?」
「今日カラオケにでも行かねーか?どーせ暇だろ?」
「勝手に決めんなよ…」
こいつは俺の親友。
磯坂隼人。
唯一俺のことを分かってくれる大親友であり、兄弟のようなもの。
「じゃあ暇じゃねーのか?」
「いや暇だけどよ……」
「いちいち回りくどいな祈織は!駅前でいいよな?!」
「おう」
そう言って、隼人は席へ戻った。
「おらー、HR始めんぞー」
担任がガラッと戸を開けると、全員が席に座る。
「(あぁ……可愛い転校生とか来ないかな………)」
俺がそんな夢を想像していると
「早速だが転校生を紹介する。女子だぞ、喜べ男子諸君!」
「おおー!」と、一気に盛り上がりが増す。
しかし、次の一言で俺達の夢をぶち壊す。
「というのは嘘で」
がくんと肩を落とす男子。もちろん俺もその中の1人だ。
「…………そろそろ自分の戦闘形態を考えとけよー」
そう。この学校は次世代の傭兵を育てる所謂軍事学校のようなものだ。
戦闘形態とはそのままの意味。
自分の戦闘スタイルのことだ。
剣、刀、槍、ライフル、スナイパー、二丁拳銃、武闘。
と、七つの中から自分のやりたいものを2年生では決める。
1年生で戦いを知り、2年生で実践し、3年性で全てを完成させる。
それが舞ヶ原高校の普通の学校とは違うところなのだ。
HRも終わり、そして午前授業もなんとか乗り越えた俺は食堂へ隼人と向かう。
ガヤガヤと賑わう食堂の奥へと入り、食券を買いながら隼人と話す。
「隼人は決めたのか?」
「あぁ、まぁそうだな………剣…にする」
少し迷いのある顔で言う。
すると、いきなり吹っ切れたのか
「いいよなぁ!お前は適性があったんだから」
適性というのは入学後すぐに行われる検査でわかる。
しかし、ほとんどの人は適性が出ない。
俺みたいに適性が出るのはほんのひと握りだ。
そういう奴を”適性者”と呼ばれる。
「んな事言われてもな……自由に決められないんだぞ……」
「いいじゃねぇかよ二丁拳銃………かっこいいじゃんか…」
そこか。
俺は心の中で突っ込む。
俺の適性は二丁拳銃。元から銃の扱いには慣れていたので適性っちゃ適性なのかもしれない。
「まぁとりあえず飯食うか」
そう言って、いつもの端の席に座る。
隣にある学校新聞を手に取って読む。
すると、口にパスタを頬張っている隼人が口を開いた。
「なぁ、祈織」
「なんだ?」
「知ってるか?この学校の異変」
「…………あぁ、知ってる。次元が歪んでる所があるって話だろ」
「そう。それに確実に先生が1週間に一人消えている気がする。先週は………矢川先生がいなくなってた……」
「標的は…………先生だけなのか?」
俺は箸を止め、隼人に聞く。
「いや、今の3年生の河名先輩がいなくなってる。いなくなったやつは次元の歪みに飲み込まれた…………なんて考えたくないけどな………」
「……だな…先生達は多分事を大きくしたくないから普段通りを装ってるんだろ…」
俺は再び箸を進める。
「それに……この次元はどこから来たのか、何が原因なのかも全く分からないからタチ悪いよな……」
そう言って、隼人は考え込む。
「…………お前、結構こう言ったオカルト好きだろ?」
俺はにやっと笑う。
「あぁ、好きだぞ?」
「……だよな……………さ、食べようぜ」
俺はステーキ、隼人はパスタを食べた。
すると、隣からやつの声が聞こえた。
「ちょっと祈織!隼人!私を抜きにして食べないでよ!」
「げっ紫音……」
「「げっ」って何よ!」
この2人とは小学生から仲が良く、遊ぶことも多くあった。
「………まぁ食べるか……」
「無視すんな!」
こんな感じでギャーギャーと騒ぎになる。
もう一度言う。紫音の事を恋愛として見たことは無い。
それ以上に考えることが出来ない。
分かった?
って俺は一体誰に話してるんだ……
午後の授業も終わり俺は教科書とかをカバンに入れる。
まだセミがうるせぇな……
ミンミンと鳴いている。
よくこんなクソ暑い中騒げるもんだ…
「おい祈織ぃ!カラオケ行くぞ!」
こいつもだわ…
「分かってるよ……」
カバンを持ち上げ、俺は隼人に着いて行った。
隣町の駅なのですぐに着いた。
カラオケの部屋に入り俺らは曲を選ぶ。
「さぁーて!何から歌おっかなー?」
「お、この曲歌えよ!」
俺もカラオケに来たらテンションが上がってしまった。
「よし、二人で歌うぞ!」
「おー!」
俺らがマイクを手に持ったその時だった。
いきなり地面が揺れだした。
「な、なんだ?地震か?」
震度5強程の地震が約30秒続き、収まった。
「けっこー大きかったな……」
「だな…………まぁ切り替えて歌うか!」
隼人がいち早くマイクを手に持ち歌い出した。
「あ、おい!俺にもマイク貸せよ!」
この時、俺は気付く由も無かった。まぁ当然だろう………
異変が起きたのが…舞ヶ原高校だってこと……気づくわけないのだから……