新しい知識に巡り合える一日。
話は変わるが、私は父がパーティーに出席したことなど今まで一度も見たことがなかった。
私の父は商売人だ。
各国の生活必需品や食料から始まり、掘り出し物・骨董品やダンジョンでのドロップ品まで扱う大規模商団の社長である。
実質、多忙な身ではあるが権力も財力も申し分なかった。
それを知って父を頼る者は多い。ある国では食糧危機に陥ったことがあるが、父が食料提供を無償でしたことで貿易時の関税が父の商団だけ少なくなることがあった。
そのある国こそが、一部の人間が毛嫌いしている人外の国だ。
差別をせず人助けをする父を信頼する人は多く、各国の帝や王が集まるパーティーでも喜んで招待されたほどだ。
だが、「子育てで忙しい」「仕事が忙しい」などを理由に通常断れる筈のないものを断り続けていた。
そんな父がパーティーに出向いたのは珍しいが、まだ二歳である息子と一緒に出向くなど普通に考えてありえない。私なら礼儀が正しかろうが自分が出席するパーティーに絶対連れて行かない。
さすがに父と言えどその意識は多少はあるのだろう。
父はカイルドと呼んだ旧友と再会した後、なにやらボソボソと話し合い「後で迎えに行くから一旦別の部屋にて待機していろ」と私に言った。
その言葉に従い、子供一人が待つには広すぎる部屋へメイドに案内された私は待機することになっていた。
私以外誰もいないが子供が遊ぶような部屋では決してなかった、来賓対応の待合室で私は待機していたのだ。
付き人が誰かいるわけではない、私は待合室の下座に座り、父に呼ばれるまでじっと蝉の幼虫の如く待つことにした。
数分後にノックがかかった。
「失礼致します。及びがかかっております、どうぞこちらへ。」
眼鏡をかけた執事が会釈しながら説明した。
「わかりました。ありがとうございます。」
言われて椅子から立ち上がり、歩く執事の後ろに着いて行きながら無言で展示品が並ぶ廊下を歩く。
そんななか気になった展示品が一つあった。
一際大きな鱗が一枚展示されておりそれが綺麗な青色をしていた。色で言えばブルーサファイアと同じ色でその大きさは直径五十センチほどだ。
「さすがに気になりますよね。」
言われて気づいたが、展示品に目が奪われていた所為で歩くのをやめていた。
「すいません。本当に綺麗なので目を奪われてしまいました。」
パーティーに送れるのは基本的にマナーとしては最低である。呼ばれている以上別のものに執着するのは基本的にNGなのだ。
「仕方ありませんよ。世界一美しいとされている竜の鱗ですからね。」
確かに言われた通り綺麗な枠組みに囲まれているその鱗の下に「ヴィーブルの鱗」と書かれており、「大戦時の英雄が撃退した際に竜が落としていったものとされている。」と説明文があった。
「竜の生死は不明ですが倒した暁には名誉とは別に竜単体の売却だけで一生遊んで暮らせるでしょうね。」
さて行きましょうかと言い、再び歩き出した執事の後を再び追った。
数十秒後には扉の前に着いた。
「ご足労ありがとうございました。どうぞごゆるりと。」
「ありがとうございました。」
感謝の言葉を言った後、両隣にいるメイドによって開かれたその部屋に私は入った。
入った途端に視線が私に向いているのを理解した、そのうえで二十メートルほど先で父が友人とは違う別の人と会話をしていた。
私は、父を見つけるならゆっくりと父の方へ歩き始めた。
周りにおどおどしながら会釈をし、これで大丈夫だろうかと不安で頭がいっぱいだった。
「遅かったな。展示品に見とれていたか?」
「はい、ごめんなさい。」
言い訳をせずにそのまま謝罪をする、それと同時に父と話していた恰幅の良い人が大丈夫だよ、こっちも話が楽しくて長続きしていたし、と笑っていた。
「おぉ来たか。では始めるとするか。」
唐突にカイルドが私のもとへ来てそう言った。
周りがざわつき始めたが何が始まるのか私には分からない。
周囲がざわついたのとほぼ同時に父に手を取られ円形の祭壇のような場所に連れられた。
「いいか、今からお前の能力を開花させる。少しの間何があってもじっとしているんだぞ。」
「はい。お父様。」
うんと頷いた私の父親は祭壇からすぐに降り、腕を組んで私のことをじっと見始めた。
「では始めよう。」
会場が静まったのを見てカイルドがそう告げた瞬間、祭壇が瞬間移動のときと同じように光りだし一段と更に強く光った後、その光はゆっくりと消えた。
周囲はいまだに静まり返っている。何が起きたか分からない私は咄嗟に父を見たが父もまだ腕を組んだままこちらを見続けているだけだった。
その後、カイルドが祭壇に近づき左腕を見せるよう私に言い私はその通りに従った。
カイルドに力強く手を握られた途端、私は違和感を覚えそして周囲が騒がしくなった。父も目を見開いてこちらを凝視している。
瞬間、体の力が抜けていくのを感じ私は倒れた。
最後に見たのは自身の前髪が黒から銀色に変化する瞬間だった。
言い忘れたのだが実は父は以前からちょっとした癖がある。
単純な話なのだが父はほとんど腕組みをしない。
それは偉そうに相手から見えてしまうためだと父本人から言われたことがあった、だがそれでも唯一してしまう時がある。
それは、人の心配をしているときだ。