第2話 オレ、ゲンジツキライ
意外と早く投稿できました!
楽しんでいただけると嬉しいです!
スマホ画面の灯りだけの部屋で、俺は黙々と焼いたパンを食べていた。
せっかく母さんが焼いてくれたのに、手をつけたのが遅くなり、すっかり冷めてしまっている。かなり硬い。自室の電気より明るい光を放つスマホの画面には、デカイ剣を持った鉄装備のキャラクターと、金色に輝く"1位"という字が映っている。そんな画面を先ほどから何十分も見続けている。
「ユウマー?あんたの学生証道に落ちてたんだってよー?男の人が持ってきてくれたから、ここに置いとくわよ?」
ドアの向こうから母さんの声が聞こえた。おいおいマジかよ。いったいどうやったらカバンの内ポケットから学生証が落ちるんだ。
「はーい」
そう返事をして、スマホを置いて立ち上がる。あ、パンの皿持って行ってもらえば良かったな……
ドアを開け、廊下に置かれた学生証を手に取り確認する。
川野中学校2年A組 真田 悠真
ああ、俺の学生証だ。
なんか足跡らしきものがうっすら見えるが、気にしないでおこう。
再びスマホを持ち、床に座ると、いつの間にか2位になっていた。
ピロリンと可愛らしい音がなると、小さな文字列がモニターの下の方に表示された。
《【cien】さんが、2位になりました。》
そして、スマホからも全く同じ通知がきた。
【cien】とは、俺のユーザーネームである。この文字列は、今このゲーム、Combine swordsのイベントをプレイしているユーザーに届くお知らせだ。
このお知らせは、3位以上のユーザーが変わるごとに来る。3位以上の奴らにだけで良いのではないかと思うのだが、何やら他のユーザーは3位以上の奴らの戦いが非常に気になるらしく、このお知らせが来るたびにネットの掲示板で「oh!!!!!!OMG!!!!!!OMG!!!!!」と叫ぶ連中もいるのだとか。
《【god】さんが、1位になりました。》
そして新たにお知らせが来た。
god……?誰だこいつは。
だいたい3位以上にもなると、ほぼ同じ奴らで1位を争うのだが、今まで3位、2位だった奴らにはこんなやついなかったはずだ。おい。3位だったデブkillerってやつはどこ行った。あいつのユーザーネーム意外と好きだったのに。さっき2位だったアナザーさんは3位になってる…
……まだポイント差は少ないはずだ。今からでも全然巻き返せる。
真夜中からぶっ続けでイベントに参加していたが、眠いなどと言ってられない。きっと、このイベントに参加している奴らはほとんどが俺のように寝てないはずだ。下位は下位で争っているし、俺だってさっきまで1位だったアナザーさんと4時間ほど戦っていたのに、次はgodだ。寝てなどいられない。
俺はコントローラーを握りしめ、対戦モードを選択した。
あっという間に対戦相手は見つかり、レベル51のまぁまぁな奴とあたった。因みに俺は、一番上のレベル100である。でもやり込めば100ぐらいあっという間だと俺は思う。
このゲームは至って簡単であり、自らが操作するキャラクターに剣を持たせ、あとはただひたすら戦い続けるというシンプルなルールだ。魔法や回復などは無く、ただただ相手にダメージを与え続け、先にHPがなくなった方が勝ちだ。制限時間は5分であり、時間を過ぎるとダメージが少ない方が勝者となる。大して頭を使う事はなく、慣れるだけのゲームである。
『you win!!』
スマホから音声が流れる。
対戦が始まって2分ほどで俺は勝った。勝てば勝つほどポイントが溜まり、上の順位のユーザーのポイント数を超えると順位が上がるのだ。
ちなみに、他のユーザーのポイント数は見ることができない。なので、順位が変わったらすぐにポイントを稼がないと差が広がってしまうのだ。
「500かぁ…」
レベル51のユーザーに勝って500ポイント。たぶんgodとやらが今も順調に勝ち進めているとしたら、すでにポイント差は5000ぐらいだろう。
「今夜も、徹夜かなぁ…」
実は、昨日から2学期が始まっている。昨日は夏風邪で休んでいたのだが、今日から登校しなければいけない。そして明日も学校だ。2日連続で徹夜は辛いが、やはり今までの連勝記録があるとやめられない。課題も机の上に置いたまま手をつけていないが、また職員室で説教だろう。でもそんな事はどうでもいいんだ。やっと、俺の"居場所"ができたんだから。
「げぇ!?」
ふと、時計に目をやると、7時半だった。
やべぇよ…制服すら着てねぇよ…
…でも、何故だろう。言うほど焦っていない自分がいる。
「…まぁいっか」
そう呟いてスマホをベッドの上に投げる。のんびりと制服を来て、結局机の上の課題を入れ忘れたまま家を出た。
雲1つない蒼い空!天高く昇っている、キラッキラなお日様!
(俺だけ)今日から2学期! こんなに天気が良いと、すっごく気分が良い!!あぁ、今日からみんなに会うのが楽しみだなぁ!
ーーーーーーーーーーーーっていうのは大嘘で。
「くっ…」
くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
終わっちまった!!!俺の!!!楽園が!!!
毎日遅寝遅起きWiFi環境万歳だった俺のハッピーライフが!!!!
とうとう終わっちまった!!!!!!そして始まっちまった2学期!!!!
大体なんなんだよ!!!9月からで良いだろ!!!何で8月26とか中途半端な日に始まるんだよ!!!俺は8月27からだけどぉ!!アホか!!!バカ!!!う●こ!!!
っていうか暑い!!死ぬほど暑い!!!そして蝉がうるせぇ!!ミンミンミンミンうるっせぇんだよ!!儚い命に死ねとは言わねぇ!!俺の居ないところで存分に鳴け!!
「お、おはよーござます…」
いきなり曲がり角から出てきた小学生の男の子は、俺を見た瞬間に顔が強張った。
「えっ?あっえっおはようございます…?」
完全に不意打ちだった俺は驚きつつ、きちんと挨拶を返した。
すると小学生はダッシュで俺の横を走っていった。
「えっ、何今の…」
不思議に思いつつ、角を曲がる。
すると、かなり古いカーブミラーが見えてきた。
あー、あったなぁカーブミラー。あれめっちゃ古いじゃん。
近づけば近づくほど古く見える。
「あっぶねぇなぁ…え?」
カーブミラーを覗きこむと、そこにはめちゃくちゃ不機嫌顔の俺がいた。え、俺こんな顔できたんだ……じゃなくって。
そうか。さっきの小学生はこの顔を見たのか。そりゃ逃げるわ。俺だって逃げる。
……イライラする事はよくないな!よし!今日は何事も明るく行こう!
そう決めてからは、俺は登校中何があってもニコニコしていた。
地面に落ちてたガムを踏んでも、スズメの雛の死骸を見ちゃった時も、ポイ捨てされてた缶につまずいて盛大に転んでも、笑顔でいた。
やっと学校の校庭に着いたが、誰もいない。
あ、そっか。俺遅刻してたんだった。
すっかり忘れていた。こんなところでのんびり歩いていたら、即体育教師に見つかって職員室行きだ。急ごう。
全力ダッシュ(50M走は12秒)で教室の前まで行くと、何やらざわついていた。
なんだなんだ。今入っちゃいけない雰囲気か。…いや、入らないとさらに怒られそうだ。
覚悟を決めて戸を開ける。
「お、遅れてすみませ…」
「あっ、先生来ましたー」
俺が教室に入ると、学級委員(だったと思う)の女子が大きな声で言った。
「おお、遅刻だぞ」
先生は地味に笑いながら言った。
あれ、もっと怒られると思ってたのに…今日は運がいいぞ!やったね!
…なんて思ってた時期が俺にもありましたよ。数秒前ね。
自分の机の上には、夏休み前に提出した創作小説の原稿が。
周りの奴らは俺を見ては、笑いを堪えるように口元を押さえる。
なんで笑ってるんだ……?……!!そういうことか!!!!
やっと、やっとわかってしまった。
俺は慌てて原稿を見る。すると、赤ペンで訂正されてる部分が…ぱっと見20箇所はある。
あ、『姉』って漢字『柿』になってんじゃん。なんだよ柿の彼氏って。
周りの奴らは笑いを堪えられなくなったのか、ギャハハハハハハハと笑い出し、先生までも笑い出す。
あー…うん。何事も明るくなんて、俺みたいな奴には無理なんだよ…
今までの感情が爆発して、俺は教室を出てトイレに駆け込んだ。
……オレ、ゲンジツキライ
なんと続いてしまいましたよ。
次回は!次回こそはもっと長く!!
頑張りますので!!
あ、感想とかいただけると嬉しいです!アドバイスとかでもいいです!
次回もよろしくお願いします!ではっ!