僕の前世はマッコウクジラ
そこのアンタァ...、何か探してるんじゃないか?
よかったらどうだい?わたしがみてあげようかぃ?
昼下がりのion、占い師がよく場所を借りて占いをしている占い場から、まるで西洋の魔女を型どったのかと思えるようなお婆さんがイヒヒと笑いながら僕を呼んでいる。
正直言ってめちゃくちゃ怪しい。
怪しい魔術でもかけられて豚にされたり、1回の占いでとてつもなく高い壺を買う事を強制されそうだ...。
別に豚にしたりバカ高い壺を買わさせたりなんかぁしないさっ。ケケケ
驚いたりしないでいいからこっちに来なさいな、あたしゃちょいとばかり腕のある占い師でねぇ...
前世に強い思念を持っていた人間を見るのが面白いからタダで見てあげてるんだよ、アンタもどうやら昔に相当な思いをしたみたいだからわたしが特別に見てあげるさ...
有無を言わせぬ口調に全てを見透かしたかのような黒緑色した魔力でも持ってそうな目でニタァと笑われ鳥肌が立つ。
ただ、正直凄く興味があった。休日に1人でionの中をぷらぷらと歩くくらい暇だし、社会人1年目だがもう既に仕事には飽きてきて毎日が退屈に思えてきたからだ。
まだ19なのに人生に面白味が無くなってきてしまった。
「じゃあ...お願いします、変な魔術とかかけないでくださいね?」
かけやしないさ。ケケケ
とりあえずそこの椅子にかけな
言われた通り椅子にかけるとお婆さんは紫色の小さな座布団の様な物の上にドンと人の頭程の大きな水晶を出した。傷一つ無くそれを眺めてるだけで時間を忘れてしまいそうな程、透き通っていて吸い込まれてしまいそうな綺麗な水晶だ。
じゃ、始めるからこの水晶に意識を委ねて楽にしな。
言われた通りその水晶に吸い込まれそうになるのを堪えずに吸い込まれてみた。
~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~
太陽が見える...。
水面の揺らめきでキラキラと揺れ動く太陽だ。
ただそれがとてつもなく小さい、凄く深い所にいるみたいだ。
この景色は好きな景色で今でもプールや海に行ったらよく水底に潜り、水中から揺れ動く陽の光を眺めるのが好きだった。
というかさっき今でもって...。
「そうだよ、ここは前世の世界さ。世界と言ってもアンタの記憶に残る光景しか見れないけどねぇ。」
「うっそ...、本当に前世が見られるとは...。」
頭に直接話しかけられるような気味悪さに不快感を感じながら周りの状況を確認してみる。
暖かい海の底、水がとてつもなく透き通っていて地平線?の限り砂地が続いており僕?はその砂地の上でまったり眠っている。
とても安心する...、まるで実家の縁側に干してある布団の上で柔らかな日差しに当たりながら寝ているような懐かしく心地良い気分だ...。
そして何故か左半分の景色しか見えない、そういえばついこの間読んだ小説で鯨類は半球睡眠という睡眠法をしており、脳の半分だけ眠り半分だけ起きると書いており鯨類は肺呼吸なので窒息死しないように脳の半分だけ交互に寝かせるらしい。
なのでもしかしたら鯨類なのかもしれない、しかもこの大きな頭に紺色に似た皮膚はマッコウクジラなのかもしれない...。
体は動かせないが意識と感覚はある。
まるで体と意識が全く別のものであるかのようだが体が眠っている今は対して違和感が無く今は寝ていて心地良いからずっとこのままでもいい...。
気づくとどこかからコチコチと音が鳴り初めて、体が目覚めると重い体をゆったりと動かしながら浮上していき大きな頭が空気に触れるのを感じる。
思いきり体内の酸素を吐き出し新しく新鮮な空気を吸い込むと体を畝らせてその音の鳴る方へと泳いで行く。
体は動かせないが感覚は共有されているようなので心躍るような気持ちが僕にも伝わって来た。
何があるんだろ?
音の方に数分間進むと小さなボートが浮かんでいてコチコチという音はそのボートから聞こえてたようだ、そして胸の高まりは今ピークを迎えた。
体はその高揚を表現せんと水底へと大きく体を畝らせて潜り、空へ向かって一気に加速した。
まるで遠距離恋愛をしていた相手にいざ飛びつかんとばかりに加速に加速を加えボートの真横を思いきり突き抜け歓迎のジャンプを見せつけた。
ボートには大きな麦わら帽子を被った肌が白く綺麗な女性が乗っていた。
僕にむかって白く美しい腕を伸ばし愛らしい顔は微笑みに満ち溢れていてとても愛おしく思えた。
体は彼女の乗っていたボートを飛び越えボートを倒さぬように上手く着水して彼女との挨拶を交わした。