第九章 帰還
駅の中は来た時同様、今さっきまで人がいたと思われる品が多くある。啓太と桜子の二人は二人以外誰もいない駅の中で二人は向かい合って立っていた。
「あれは、どういうことだったんだ」
「あれはこの世界が時を刻み始めたから、世界そのもの自体が存在価値を無くして崩壊したの」
「そうなのか……ところで桜子……迷い込んだっていうのは嘘なのか?」
啓太の問いに桜子は首を縦に振った。
「どうして……じゃあ、なんで俺と……」
「時空のイレギュラーであった啓太くん、君を元の世界に返すために君の目の前に現れたの」
「じゃあ、君は一体……」
「私は、貴方の遠縁にあたる人物の一人で浮遊霊に近い存在、成仏できなかったから色々な世界を飛び回っていたんだ」
桜子の発言に啓太は黙ってしまった。戦争で死亡してからおよそ七十二年間も桜子は色々な世界を孤独にさまよっていたのだと知ると心が痛くなった。
黙って立ち尽くしているとやがて駅舎全体が唸るような轟音を出して揺れ始め、砂埃が天井から落ちてきた。
「急いで! 啓太くん!」
桜子はそう言って啓太の腕を引っ張りホームへと走り出す。ホームには啓太がこの世界に来る前、駅で乗った電車が止まっていた。
桜子は啓太を電車の中に放り込むと電車の扉を閉めようとした。
「ちょっと待って、桜子、君も乗らないと」
「私は、乗ることができないの」
「なんで、ほら!」
啓太が桜子を引っ張って電車に居れようとするものの、見えない何かに引っ張られているようで桜子を電車に乗せることはできない。
「畜生、なんで……」
「無駄だよ、あの世界は生きている人間と帰る場所のない幽霊や恨みの強い幽霊しか行くことのできない世界なんだから」
「じゃあ、君は……」
啓太がそういうと桜子は万弁の笑みを浮かべた。
「幸せなら、啓太くん。君にもらったよ、短い間だったけど啓太くんと旅が出来て私、本当に楽しかった。自分を殺した相手を許せるぐらいに、たくさんの幸せと友情、そして……」
そこまで言いかけると桜子は夕焼けが当たった時の様に顔を真っ赤にした。
「恋心も貰ったんだよ」
桜子はそういうと薄桃色の唇絵を啓太の唇へとよせた。啓太は一瞬何が起こっているのかわからなかったが、自分がされていることに気が付き慌てはじめる。
「結構、純粋なんだね」
「純粋も何もされたことなかったからびっくりしちゃったよ」
啓太がそういうと桜子はくすくすと笑い、啓太をぎゅっと抱きしめた。
「好きです。啓太くん。でも、この恋は叶わないのでしょうね」
「いや――」
啓太はそういうと桜子を放し両手で桜子の肩を掴む、桜子はびっくりしていた。
「待ってるよ、こっちの世界に転生するまで」
「え―――」
「こっちの世界に生まれ変わるまで、俺は待ち続けるよ」
啓太がそういうと桜子は目から涙をぽろぽろと流れ始めた。泣かせてしまったかと思い啓太はなだめようとするが、桜子はそうじゃないよと言いなだめる手を振りほどく。
「ありがとう、嬉しいよ。でも、いつか転生して啓太くんの近くにいたとしても私の存在に啓太君は気が付かないと思うよ」
「……」
「啓太くん、貴方にとっての私は彼方の思い出の中だけいる青春の幻影、そしてこの世界も思い出の中の幻想――」
桜子がそういうと駅の中にあるベルがジリリとなり始める。それと同時に電車の汽笛が鳴ると扉は閉まりゆっくりと動き始めた。
桜子は扉の外で涙をこらえ笑みを浮かべながら手を振る。
「桜子……」
啓太は電車の中でがっくりとうなだれた。電車は二人の万感の思いなど知る由もなく、タン、タタン、カタン、タタン。規則的な音を発しながら走り続ける。
ハッと気が付くと啓太は家の最寄り駅の改札の前に立っていた。ぼうっと立っている啓太に駅員が近寄ってきて体を揺する。
「もしもし!? 大丈夫ですか!? あんた、一時間もそこに立ちっぱなしでしたけど」
「あ、すみません」
啓太はそう言って改札を抜けて帰路へと立った。
それからはいつも通りの日常が続いた。何か楽しいことがあるわけでもなく、かといって、とんでもないほど大きな不幸があるというわけでもない、日々が機械的ないつも通りの日常が続いていった。
たまに、あの出来事は夢だったのではなかったのかと思う時もあるが、帰ってきたあの日右手に持っていた真新しい旧軍の戦闘帽が、あの旅が、あの世界が、夢や幻ではなかったことを証明している。
やがて一年が過ぎ、季節が春になると進級し新しいクラスになる。相変わらず話す人はあまりいなかったが去年のクラスよりは、なんとなく馴染めそうだと直感した。
「早速だが、転校生を紹介する」
教卓に立った新しい担任はそういうと、廊下に向かって手招きをする。入ってきたのは、黒髪の長髪が特徴的で透き通るような肌を持つスタイルのいい清楚で頭のよさそうな美少女であった。
「さ、自己紹介をしてくれ」
「初めまして、深山桜子です。よろしくお願いします」
転校生である桜子がそう言いかけた時、啓太と目が合う。容姿は少し変わっているものの紛れもなく桜子だ。啓太は驚きを隠せずにいた。
「じゃあ、高宮君の隣が開いているから、深山さん。そこに座ってください」
「はい」
啓太の隣に桜子が座った。桜子は微笑みながら啓太の方を向いた。
「久しぶり、そしてよろしくね」
一つの旅が終わり新しい旅立ちが始める。
何とか書き終わりました。見てくれている人は本当に感謝の限りです。




