暗闇の階段
夏休みに入り音羽、二郎丸、執行、愛理、紗々、カケスの六人は裏野ドリームランドに来ていた。約七時間程前にそれぞれの部活で学校に来ていたところを執行に捕まって半ば強引に花火大会に誘われたのだ。
カケスは音羽と同じ文ボラ部に入った。髪を切ってからのカケスは少し明るくなり、元々の優しい性格と、イケメンが発覚したとなれば、歩み寄る人間も多くなり、机の中にラブレターを仕込む女子まで現れた。
女子め! 発掘したのは我であるぞよ! 感謝したまえー……と声を大にして言いたい音羽だった。
執行はカケスの妙にオドオドした態度が気に入らなかったらしく何やかやと弄っていたが、それが取り除かれれば構うこともなくなり、むしろ率先して仲良くなってしまった。ボスが弄らなくなれば後は烏合の衆で、右へならえでカケスはいじめられなくなった。
「あ。いたいた。おーい、カケスーー。イブちゃんいた? 」
カケスはミラーハウスから出てきた所だった。
教会にいたあの白い猫を抱いている。
「うん、ここに居たよ。ごめんね。連れてきちゃって……最近調子が悪そうだったから心配で」
「そっかぁ、調子悪いのかぁ。大丈夫かな?……ん?」
ミラーハウスから一組のカップルが手を繋いで出てきた。
「あーあ。まーたカップルだよ。今日はやたらイチャコラしてんの多いよな」
「ここは花火見物の穴場なんだって。恋人同士の……。二郎丸くんはさっき別のカップルを見て"爆ぜろ"って言ってたけど」
音羽は「ぷっ」と吹き出した。
「ジロちゃんヘンに病んでるとこあんだよなぁ。カップルとか見たら途端に悪人ヅラすんだよ。何でかなぁ?」
「思ったんだけどね……多分、一番身近な人が一番鈍感だったってやつじゃない?」
「へっ? 何それ、どういう事?」
「んー、彼は彼なりの苦労があるって事かな」
「よく分かんないけどまぁいいや。早く二郎丸達のところに戻ろう。待たせちゃってるし」
「そうだね。ああ、そうだ。戻る前に音羽くんに見せたいものがあるんだけど……いいかな?」
「見せたいもの? 何?」
「少しでいいんだ……ダメ?」
もの悲しそうな、甘えるような、そんな目でカケスは音羽を見ている。あー、コレ。オレが二郎丸にするやつだ……と思った。
「わかった。次郎丸達には花火見物の場所探しといてって伝えとくよ」
「ほんと!? ありがとう。こっちだよ!」
カケスはスタスタ歩き出す。
音羽は携帯を取り出してポチポチと画面を打ちながら、遅れないように着いて行った。
「ねえっ、なんでそんなに迷わず歩けるの? もしかして、来た事ある?」
「そうだよ。来た事ある。というか、よく来てるよ」
「えっ!? 何で? こんな荒れた廃園に?」
「母さんがね……居なくなる以前に子供の頃よくココで遊んだって言っててね、ココに来るとその話をよく思い出せるんだ」
「カケスのお母さん?」
「うん。今は行方不明でどこに行ったか分からないんだけど……」
「ええっ!?それは……」
音羽は地雷でも踏んでしまったかのような気になり、どう声をかけていいのか分からなかった。
「音羽くん、気にしなくていいよ。僕も父さんも、母さんのいない生活にもう慣れてしまってるから」
「そうなの……じゃあさ、これからはさ、カケスが寂しい時は言えよ。一緒に遊ぼうぜ」
「ありがとう。音羽くんは優しいね」
カケスは小さな建物の前で止まった。そこは裏野ドリームランドの管理事務所だった。今では管理する人間は常駐していないし、事務所のドアの窓は割れていた。中に入るとおびただしい数のパンフレットが散乱している。
「見せたいものはここの地下にあるんだ」
「地下? そんなのがあるんだ」
カケスは事務所の奥の階段へ音羽を案内した。音羽が階段を覗くと、それは暗い闇の中へ降りている。
「なんか……恐いね」
「恐くなんかないよ。僕も一緒だから。さあ、行こう」
白猫を抱いたまま闇へと続く階段をカケスは降りていった。音羽もその後に続く。コンクリートと埃が混じったような匂いが強くなる。
降りて細い通路を少し歩いた所に一つのドアがあった。カケスはまだ新しい、鈍く光る南京錠に鍵を差し込みゆっくりと回した。
暑いです。まさに炎夏。chisaiの頭も緩みっぱなしです。
そして、緩いお話ですが、もう少しお付き合い下さいませ。