アレ?結構イケメン!?
出入り禁止の屋上扉前。階段を上がりきったそこにカケスは座り込んで声を殺して泣いていた。
「あー、いたいた! カケ……山懸、教室に戻ろうよ。ーーじゃなくて保健室にでも行かない?」
音羽は二郎丸に言われた通りに保健室へお誘いしてみた。声を掛けられたカケスはビクッと体を揺すったが、顔をあげようとはしなかった。
うーん……困ったぞ。こんな時二郎丸なら天性の二枚舌でキレッキレの慰めの言葉が出てくるに違いない。
音羽はハンカチを出してカケスの腕をチョンとつついてみた。ピクッとして泣くのはどうやら止んだみたいだけど……ちょっと震えてるみたいだ。
もう一回チョンチョンとつついてみた。カケスは恐る恐る顔を上げる。
今だ!
持っているハンカチで涙でぐしょぐしょの顔をグイグイと拭い、綺麗さっぱりにしてやった。
「うっうっちょっ……あのっ……いたっ……」
「もうっ、泣くなよ! オトコだろ? 落ち着いたらさ、保健室にでも行ってベットでゴロゴロしてろよ…………ん?」
音羽はカケスがいつも下ろしている前髪をワシっと掴んで顔を拭いていたのだが、こんなに間近で顔全体を見たことは無かった。
「あれ? あれれー? カケ……山懸、結構イケメンじゃん? なんで隠すの? 勿体ない」
「だって……僕……アザがあるし……変だろ? 気持ち悪いだろ?」
「アザねぇ……。確かに初めて見たらちょっと驚くかもしれないけど、もう皆んなカケ……山懸にアザがあるのなんて知ってるし、今更なんじゃない? ヘンに隠して鬱々してるより開き直った方がいいと思うけどなぁ。イケメンだし!」
"イケメン" ここ、強調。
「……カケスでいいよ。さっきから何回間違うの……べつにいいけど。それに、そんな、イ、イケメンなんて……言われたことないし……こんな汚いアザ見えない方がいいでしょ……」
「何いってんの!? カケスも何回言わせんの!キミはイケメンだ! あのガキ大将どもより数倍見てくれがいい! 背は高いしほっそりスリム。世の女は共感能力が高いから"イケメンなのにアザがあって可愛そう! 私がなんとかしてあげなきゃ!" なんて思うヤツがゴロゴロいる! オレだってカケスみたいに身長高けりゃなって思うし、"カワイイ" とは言われても"イケメン"なんて言われないしどっかの三流アイドルどまりなんだぞ! お前ぐらいのイケメンならアザなんかどっかに吹っ飛ぶぞ! イケメンは justice! そんでっ堂々とできないなんてカケスは贅沢だ!」
早口でまくし立てた音羽のドヤ顔を見てポカンとしていたカケスはクスリとと笑った。
やった! イイ感じ。音羽はそう思った。
「贅沢って……それも初めて言われた。森多くんは面白いね」
「音羽でいいよ」
「音羽……くん。……あっ! ハンカチごめんね洗って返すよ」
「あー、いいのいいの。どうせ洗うの俺じゃないし。洗濯カゴに入れときゃ明日か明後日頃にはきれいに洗われて俺のタンスに入ってる。カケスが洗って持ってきても母さんが洗ってもオレにとっては同じことのような気がするから、余計な気は使わなくてもいいよ」
「やっぱり音羽くんは面白いね」
そう言ってカケスは笑う。
なんだ、いい顔して笑えんじゃん。
保健室には行かなかった。
6時間目の途中で教室に戻ると女子の委員長にチクられたガキ大将達は熱血担任の岩永に叱られてる最中だった。岩永は数学担当だが、生活指導もしているのでイジメ関係には敏感だ。6時間目が岩永の授業だったのが、ガキ大将達にとって不運だったのは間違いない。
説教に消えた時間の損失は山のような宿題になって補填された。これによってガキ大将達はクラスの全員から白い目で見られ、少し大人しくナリを潜めたのだった。
わぁー、裏野ドリームランド出ねぇー。
次こそはっ! 次こそはでますよー。