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ドリームキャッスル

後半、抑えてはありますが残酷な描写があります。

苦手な方はご遠慮下さい。

 その城は退屈していた。かつては栄華を極めたであろう王国の調度はヘルメットと作業着を身につけた心無い盗賊によって持ち去られ、がらんどうの部屋にはドレスを纏った貴婦人や葉巻を片手に世界情勢を語る紳士などいるはずも無く、民衆がひとときの夢を見に来ることもなくなった。朽ち果てるだけの年数も経ってはおらず、吟遊詩人のつむぎ出す(ことわり )にならって風化するにはその城は堅固(けんご )過ぎた。


 ドリームキャッスルの外階段を昇ると広いバルコニーがあり、花火見物にするにはうってつけの場所で、そこを目当てにくる人間も多かった。


 執行もそのバルコニーへ紗々を誘い出した事を上々と、今日こそは勢いに任せ告白するつもりでいた。


「アイツらどこいっちゃったのかなぁ。連絡しても全然返事が来ないしな。今ごろはどっかで見てんのか?」


 携帯をいじりながらボヤくが、合流する事は一切考えておらず、出来ることならずっと二人でいたいくらいだった。


「あれ? 田川?」


 携帯から目を離して見ると、そばに居たはずの紗々が見当たらない。あたりを見回すとバルコニーから城の中へと続く大きなドアが開いている。執行は紗々を探して暗い中を覗いてみた。


「おーい、田川ー」


 呼びかけるが静まり返った部屋からは返事はなかった。


「おっかしいなぁ。どこ行ったんだ?」


 夜空を見上げる見物客の背中を眺めて紗々を探してもあの美しい黒髪を見つけることは出来ない。


 不意に。


 ドアの中から手を引かれ、城の中へと入った執行は驚いて手を引いた相手を見た。


 そこには全裸の紗々が立っている。


「うわっ! 田川! どうした!? と、とにかくこんな所じゃ誰かに見られたら大変だ!」


 幸い見物人達は花火に夢中で暗い部屋を伺う者はいない。執行は紗々の手を引いて城の奥の廊下に出て左に折れ、少し行ったところにあるドアのない小部屋を見つけてそこに二人で入った。


 小部屋は殺風景だったが、石造りのポッカリと空いた窓から点滅した灯りが入ってきて、紗々の白い身体を光と影の斑模様(まだらもよう )にしている。


「一体……どうしたんだ? 服、なんで着てねーの? 誰かになんか……されたのか? 」


 廃園には若いカップルや親子連れも来ていたが、何組かの若者のグループも来ている。紗々のような美人を狙う奴だっていても不思議じゃない。執行は最悪の場合を想定して聞いてみた。


 だが、紗々は黙って無表情な顔を横に振りそれを否定した。執行は(やから )に乱暴されたのではないと分かるとほっと胸をなでおろしたが、そうなると何故紗々は裸なんだろう? と疑問に思う。それにしても……いくら紗々のことが好きでも直視する事が出来ないし、突然の事で執行の内心はパニックだった。


「服はどこに置いてきたんだ? 探してきてやるから……」


 そう言って部屋を出ようとしたが、紗々に腕を掴まれて振り返った。


「執行……くん……。執行……くん……。好きよ……」


 抑揚のない告白だった。


「執行くん……さわって……」


 紗々は掴んだ執行の腕をまだ熟れていないその膨らみに導いた。初めて間近で見る女体は兄がお古でくれた雑誌のグラビアよりもはるかに美しく思えた。なめらかな肌、双丘の頂には薄桃の円が描かれ小さなつぶをのせている。華奢な腰の中央にあるへその窪みは深く、その遥か下に柔らかそうな若草が根を下ろしている。


「た……がわ……」


 執行は心臓が飛び出るほどドギマギしていたが掌でちいさな丘を包んだ。溶けそうなほど柔らかくて暖かい膨らみに目眩を感じながらも、紗々も自分を好いてくれていた事に狂喜した。紗々の不思議な甘い香りが鼻につく。部屋のぬるい空気がそれを膨張させる。


「俺も……俺も好きだ」


 ここで行かなかったら男が廃る。土建屋の父親は女好きで、酒に酔いながら武勇伝をよく話していた。親の教示ではないが、女に対して行動しなけりゃならない時があるならまさに今だろうと執行は思った。


 グイッと腰を引き寄せ、紗々の唇を目指して顔を近づけた時、開いた窓からドサッと何かが飛び込んできた。


「なんだ!?」


 点滅する光がそれを捉え、執行は目を見張った。


 人の頭? 人形?


 よく見ると目は飛び出て口からは舌がダラリと下がっている。髪は濡れて顔に張り付き、首から滴るドロりと濃い液体の香りが紗々の不思議な香りと重なってむせかえる。


 紗々の肩越しに窓から外が見えた。無数の鳥でもないものが飛んでいる。


 そしてそこに転がっているものの元いた場所。人の形をしたものが2匹の飛んでいるものに引き裂かれ、ボトボトと落ちていく。


 夜空に響く花への賞賛の声はいつしか絶叫と怒号になり変わっていた。



このお話はフィクションです。

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