魔法陣
取り急ぎ書きましたので誤字脱字ありましたらサクッとスルーするか、お知らせ頂ければと思います。
生き物の命を絶つシーンがありますので苦手な方はご遠慮ください。
「にゃあぁ」
カケスは足に擦り寄ってきたイブを抱き上げて、愛しそうにその背中を撫でてから抱いている方とは反対の手を音羽に差し伸べた。
「さあ、こっちに。円の中に」
音羽は考えるのも怖かったが無意識に呼ばれた方へ足が動く。近づいた音羽の背に手を置いてカケスは一緒に円の中に立った。
「決して円の外に出ないで」
音羽は逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。でも足が思うように動かない。泣きながら笑うカケスが悲しい生き物のように見えて放っておけなかった。
「東の王の配下にして魔界の七十二柱の一柱。二十六の軍団を支配する強大な君主よ。数多の宝物を運び、あらゆる言葉を口にするものよ。来たりて我が願いを叶えよ」
カケスが呼び出しの言葉を吐き出すように言う。ズボンのポケットから何かを取り出したかと思うと、パチンという音とともに刃を露出させ、イブの喉に突き立てザッとかき切った。イブは「ギャウッ」と悲鳴をあげて絶命してしまい、白い毛は流れ出る血で見る見るうちに紅く染まっていった。
「っ!!」
音羽は生き物が殺されて血が飛び出るのを初めて見てしまい、驚愕と畏怖で声も出なかった。
「贄は汝の元へ下った。来たりてその姿を現せ。セーレ!」
しばしの沈黙のあと広がるのは静寂ばかり。
「そんな……なんで現れないの?」
カケスは血だらけのイブを床に落とし、自らも崩れ落ちて血のついた手で顔を覆った。
「何を間違ったの……魔法陣は……完璧だったはずだ……贄? やはり鶏の方が? とても綺麗な猫だったから贄に相応しいと思ったのに…… 」
カケスはボソボソと呟いていたが、ハッと顔を上げ、斜めに掛けているバックから黒い皮表紙の本を取り出した。表紙には金の飾り文字が書かれてある。ペラペラとめくってはその本を見ていたが、不意にぽとりと落として呆然とした。
「母さん……物語にはこれ以上の事は書かれていないよ……僕はどうしたらいいんだ」
音羽はカケスの落とした本を拾って開いた。そこにはあらゆる魔物とあらゆる魔法陣と文章が書かれてある。人の手で書かれた走り書きも所々にあった。
「カケス、これ、この本……悪魔がいっぱい書かれてある。こんなの……初めて見た……」
「それは母さんの本。あらゆる物語が書いてある。母さんがいなくなってから毎晩読んだ僕の寝物語……そしてね。セーレを見つけたんだ。セーレはね、優しい性格で召喚者の願いを何でも聞いてくれるんだ」
「優しいって…… 魔物だろ!? 悪魔なんだ! 呼び出していいものじゃないよ! カケス、クリスチャンなんだろ? どう考えてもダメじゃん!」
「何にせよ出てこないんじゃ意味が無いよ……」
「カケス……もうやめようよ。やめて帰ろう。イブにもお墓を作ってやらなきゃ。……そうだ。花火でも見ながら話そうよ。ここにいるのは……君のためにも良くない。他の誰にもこのことは言わないから、二人で話そうよ……オレもここに居たくない」
部屋にこもる熱気と血の匂いで吐きそうになりながら音羽はカケスを抱えるように立たせた。
「おやおや、せっかく来たのにお帰りなのかい?」
「!?」
突然聞こえた声に二人はハッとして振り向いた。見ると、翼の生えた銀の馬に美丈夫な男が乗っている。甲冑をつけた肩にはトウモロコシ色の髪が落ち、目は冷たく光っていた。
「ああ……ああ! セーレ! 来てくれたんだね!」
カケスは喜びの声を上げる。
「そなたが我を呼び出したのか。……神の子よ。久方ぶりにこの世に来たぞ。前に来たのは……イスラエルの王の世であったな。それにしてもここは狭苦しいの。我の愛馬が窮屈そうにしておる。鷲の翼がこれ、この通り縮こまっておろう。召喚者であり神の子よ、少々移動しても構わぬか。断りを入れねばそれは叶わぬ」
「この遊園地の敷地を出ないのであれば」
「うむ」
瞬き一瞬でカケスと音羽は管理事務所の地下から外へと移動していた。足元を見ると魔法陣は床ごと運ばれていたのだった。
この作品はフィクションです。