表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

予告編

ツァイガルニク効果

作者: 若松ユウ

A「第一高校アカペラ部藤原班」

――文系学部に進み、会社員になったタカシ。バス担当。

タカシ「智は良いな。資格を持ってると、やっぱりサラリーが違う。俺も何か取ろうかな」

――理系学部に進み、薬剤師になったサトル。テナー担当。

サトル「僕が、まだ独身だからだよ。崇くんと違って、妻さんと娘さんに支払う分が無いから」

――専門学校を出て、美容師になったハルナ。アルト担当。

ハルナ「恵子ちゃんは良いな、誠実そうな夫さんと結ばれて。息子さん、もう、小学生でしょう?」

――女子短大を出て、専業主婦になったケイコ。ソプラノ担当。

ケイコ「ううん。春奈ちゃんのほうが、よっぽどシッカリしてるわよ。わたし、何も考えないでお婿さんを貰っちゃったから」

――四人には、ある共通点がある。それは。

店員「四名でお待ちの、藤原様」

四人「「「「ハァイ」」」」

――何と全員、苗字が「藤原」。さらに。

顧問「私がアカペラ部の顧問、藤原符人(ふひと)だ。よろしく」

――十七歳と三十三歳の二重構造でお送りする、珠玉の青春ストーリー。『第一高校アカペラ部藤原班』。お見逃し無く。

  ☆

B「タナトスが一緒」

――平均寿命が飛躍的に延びたことで、暇をもて余した死神。

タナトス「あぁ、もう。暇だ、暇だ、暇だ」

――寿命を事前に知らせたら、きっと面白いリアクションを見せるだろうと思い付く。

タナトス「あの少女に決めた。――もしもし、そこのお嬢さん」

――ところが、この少女。とんでもなく肝が太かった。

色男タナトス「ねぇ、君。そこのコンビニでアルバイトしてるよね?」

――色仕掛けをしようとも。

少女「ナンパなら他を当たって下さい。わたし、急ぎますので」

――脅しを掛けようとも。

強盗タナトス「金を出せ。下手な真似はするな」

少女「レジを開けますので、少々お待ち願います」

――情に訴えようとも。

タナトス「明日は来ないんだよ? そんな淡々と過ごして良いの?」

少女「どの道、逃れられない宿命なら、受け入れるまででは?」

――表情ひとつ変えない。ところが。

少女「キャア」

――たった一つだけ、あり得ないくらい動揺する弱点があった。

タナトス「ハッハッハ。これが怖いのかい?」

少女「やめて。近寄らないで」

――果たして、少女の弱点とは? そして。

冥界主「大変なことをしでかしてくれたな、死神」

タナトス「それだけは、お許しください」

――死神に科せられた罰とは?

少女「さよなら、タナトス」

――笑いあり、涙ありの、ノンストップコメディー。『タナトスが一緒』。近日、公開。

  ☆

C「いつか、どこかで、だれかが」

――穏やかな青い海と、緑豊かな山に囲まれた地方都市、(きわみ)市。そこに暮らす住民たちの日常生活を描写した、ノスタルジック群像劇。『いつか、どこかで、だれかが』。今夜、八時放送。この感動のドキュメンタリーに、きっと最後は、涙する。

  ☆

D「雇用主を笑わせるだけの簡単なお仕事です」

――若くして巨万の富を築き、生きる気力を喪失した女性社長が、月収百万円で路上生活者の青年を買収。

社長「パンだけでは味気ないのよ」

青年「つまり、見世物小屋の奴隷ってことか」

――住み込みで道化師をやらせ、腹の底から笑わせてみろと命令。

社長「せめて愛玩動物と捉えて欲しいわね。ライオンと戦いたいなら、話は別だけど」

青年「要求を呑むと思ってるのか?」

社長「元の生活に戻りたければ、それでも構わないわよ。でも、今年の冬は、寒さが例年になく厳しいらしいわ」

――腹の皮が捩れるほどのギャグを、と張り切る青年だったが。

社長「それで、その何が面白いわけ?」

――何をやろうがクスリともしないので、社長について調べてみると。

家政婦「ご主人さまには、お嬢さまがいらっしゃいます」

青年「その娘は、どこに居るんだ? いま、いくつなんだ?」

家政婦「三年前に家を出られて、それっきり音信不通になっております。歳の頃は、ちょうど貴方と同じくらいですよ」

――家族をテーマにしたコントを披露する青年に、社長はストップを掛ける。

青年「あぁ、そうさ。俺には、生まれてこのかた肉親が居ないんだ。それに、誰かに望まれたり、誰かに必要とされたりした経験も無い」

社長「いずれ理解できるわ。家族の温かみと、それを失う悲しみが」

――嫌気が差して逃げ出そうとする青年だったが、あることに気付く。

青年「それじゃあ、誰も覚えてないのか?」

執事「さようでございます。名前を忘れると、付随する過去も忘れてしまうので、くれぐれも、お気を付けなさい。本名を忘れたとき、貴方は二度と、この屋敷を出ることは叶いません」

――笑わせようとするほど、反比例して怒りが込み上げてしまう。

青年「あいにく、俺には家族という存在に実感が無く、家族の有難味が分からない。だがな。生活の拠点になるホームがあったんだ。無いのは、雨風をしのぐハウスだ。立派なハウスが有りながら心の拠り所となるホームが無い、そっちのほうこそホームレスだ」

社長「黙れ。社会にとって虫けら同然の存在だったくせに、偉そうなことをぬかすな」

青年「たとえ社会にとってボウフラやシロアリみたいな存在だとしても、それなりに必死で知恵を絞って生きてんだ。身体の中には、同じように真っ赤な血潮が流れてんだ。それを忘れるな」

――『タナトスが一緒』の監督が贈る、辛口ヒューマンドラマ。『雇用主を笑わせるだけの簡単なお仕事です』。今夜、いよいよ地上波初放送。

  ☆

E「レージ教授の優雅な日々」

教授「起きたまえ、ケーンくん。もう、三時だ」

助手「真夜中の、ですけどね」

――毎日零時に起きて昼過ぎには寝てしまう変わり者、レージ教授と、おっちょこちょいだけど比較的常識人の助手、ケーンが巻き起こす、ドタバタカレッジライフ。『レージ教授の優雅な日々』。お楽しみに。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ