第8話 変わってしまった従兄(前)
今回と次回は、和也視点の話です。
それは夏休み、初日の事である。
「(ブル〜ン)」
「しかし、信じられないな〜」
僕はバスに乗りながら、そう呟いていた。
僕の名前は古山 和也、高校一年生である。
これから僕は、ある人を向かえに行くところだ。
その人とは、従兄のお兄ちゃんであるが。
しかし、その従兄が、何と女の子になっていたのである。
別に性転換手術をしたとか、そう言う事ではなく。
何でも、ここ数年の間出現した病気の所為で、そうなったそうだ。
・・・
初め、両親からその話を聞いたとき。
余りにも現実離れした内容に、何度も冗談ではないかと聞き返した。
でも、何度もしつこく聞き返した為。
とうとう両親が怒ってしまったので、どうやら冗談では無い様だ。
それで突然、女の子になった事により、向こうに居られなくなってしまったから。
僕の両親が受け入れる事になった。
まあ、僕は昔から仲が良かったミズキちゃんが。
ここに来ることに問題は無かったから、一応、賛成はしたけど。
何かあるとしたら、”女の子”であるから、その点では色々あるだろうけど。
別に他人では無いので、起きた時点で話し合えば何とかなるだろう。
そんな呑気な事を考えながら、僕は駅まで迎えに行ったのである。
************
バスが駅前に付いた所で降り、辺りを見廻したら。
駅の入り口に人影があることに気付く。
「(えっ、ひょっとして・・・)」
その人影は、つば広帽子を被っていて。
全体的には、ほっそりとした体格だが、出ている所は結構出ており。
その体を、ノースリーブの花柄ワンピースが包み。
スラッと長く白い足に、オシャレなサンダルを履いた、とっても可愛い女の子である。
「(まさか、あの娘がそうなのか?)」
そう思うと、女の子の可愛さに魅了されると同時に。
それが、従兄ではないかと言う事に困惑していた。
僕は、とりあえず確認しようと、女の子に近付く。
「あ、あの・・・、ひょっとして古山 瑞樹さんですか・・・」
「うん、そうだよカズちゃん」
「えっ! 本当に、ミズキちゃんなの・・・?。
本当に、女の子になってしまったんだね・・・」
「・・・うん、カズちゃん。
なぜか、そうなっちゃったんだよねえ・・・」
女の子が、まるで声優の様な甘い声で答えた。
その娘が、目的の相手であることに僕が絶句すると。
ミズキちゃんが、困ったように笑いながら髪を掻き上げた。
その仕草も、彼女に似合っていて、とても可愛い。
でも近くで、よく顔を見ると、タレ目でホンワカしている所など。
昔の面影を感じる部分も見える。
「最初見たとき、信じられんかったよ。
だって、とっても可愛い女の子だから・・・」
ミズキちゃんを見ている内に。
つい僕は、思ったことを口走ってしまった。
「えっ、そ、そう言うカズちゃんも、結構格好良くなったよ」
「じょ、冗談だよね・・・」
「違うよ、冗談なんかじゃないよ」
いくら血縁関係があるとは言え。
こんな可愛い娘から”格好良い”と言われた僕は、思わず緊張してしまった。
僕は緊張しながら、ボ〜っとしていたら。
ミズキちゃんに言われて、慌てて気を取り直す。
それから、僕は照れ隠しにトランクを持ってあげると。
彼女は、嬉しそうにニコニコしながら、僕を見ていた。
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二人でバス停へ向かい、待合所で座り。
そこで、ミズキちゃんと色々と話をする。
僕は普段、女の子と話すときは何となく緊張するけど。
彼女は構えることなく、気さくに話し掛けてくるので、次第に僕はリラックスしてきた。
ミズキちゃんは、甘い声で語りながら笑ったり。
あるいは、ガックリと肩を落としたりと、コロコロと表情を変えるのだが。
その様子は、全く女の子として違和感が無かった。
そうしている内に、向こうからバスが見てたので。
僕が再びトランクを持って、バス停に立った。
バスが止まり、先にミズキちゃんが乗り込もうとする。
しかし乗る際に、ステップを踏み外し、彼女が後ろに倒れようとした。
それを見た僕が、急いで彼女を受け止める。
「(ぽすっ)」
「(えっ?)」
ミズキちゃんは僕の胸に倒れこんだが。
その衝撃の、余りの軽さに僕は驚いた。
確かに、よく女の子は軽いとは言うし。
ミズキちゃんは見かけが細いから、軽いとは予想出来るけど。
しかし、その予想以上の軽さに、僕は驚いてしまった。
また、それと同時に柔らかい体、甘い匂いにも心を奪われた。
これもまた、よく女の子の体は、マシュマロとかに例えられるが。
確かに、甘くて柔らかい、お菓子みたいだ。
「・・・あの、カズちゃん、早く下ろして」
不意に、ミズキちゃんが顔を赤くしながら、僕にお願いしていた。
僕はそこで、彼女を抱きかかえた状態のままで、居たことに気付く。
それに気付くと、僕は慌ててミズキちゃんを地面に下ろした。
・・・
バスに乗った後、二人はシートに並んで座った。
しかし、ミズキちゃんは帽子を膝に置き、座っているけど。
所在なさげにしながら、前を向いている。
先ほどの事が、尾を引いている様だ。
かと言って、僕の方も何といって良いのか、分からなかった。
こうして、無言のまま座っていたら。
「(チラッ、チラッ)」
ミズキちゃんが、僕の方をチラチラ見ていたのを発見する。
それも、僕の胸元や腕の辺りを見ている。
最初は、チラチラ見ていたのが、次第にジッと見詰めるようになった。
それも、何だかウットリするような瞳をしながらである。
「どうしたの、ミズキちゃん?」
「えっ?」
「こっちをジッと見詰めているから」
「ご、ごめんなさい! べ、別に、何でもないの!」
その瞳に我慢が出来なく僕は、彼女にそう尋ねたら。
ミズキちゃんは、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
彼女の反応に、しまったと思ったが。
僕もそれ以上、何も言えなくなってしまう。
それから、先ほど以上に雰囲気が気まずくなったので。
僕はただ、黙っているしかなかったのであった。
************
あの後、気まずい雰囲気で、僕たちはバス停を降りる。
でも、僕の家に向かって歩いている内に、次第に打ち解け。
ある程度、会話をする程度にまでには、戻った。
「(ガラガラガラ〜)」
「ただいま〜」
「おじゃましま〜す〜」
その状態で、家に入ると。
中から、テンションが高い母さんが出てきて。
「瑞樹ちゃん、こんなに可愛くなっちゃって〜」
と、喜んでいると思ったら。
「よかった〜、女の子が欲しかったから。
瑞樹ちゃんが来てくれて、嬉しいわ〜」
そう言いながら、ミズキちゃんの体をペタペタ触る。
一方の父さんは、余りの変わり様に絶句していた。
「そんな所に居ないで、さあさあ上がって」
「うん、瑞樹く・・・、女の子になったから、瑞樹ちゃんか。
さあ上がりなさい」
母さんは、テンションが高いまま。
父さんは呆然としたままで、ミズキちゃんにそう言う。
こうして僕たちは、母さんの余りのテンションの高さに引きながらも、一緒に上がっていたのである。