第7話 どうしたら良いの・・・(後)
「自分では、気持ちを切り替えて、この体を受け入れようと思ったけど。
そうやって周囲から拒絶されて、また落ち込んでしまったんだよね」
「ミズキちゃん・・・」
僕の言葉を聞いて、カズちゃんが何か言おうとするけど。
何と言って良いのか、分からないようである。
「そんな状況で、カズちゃんの所に来たんだけど。
ここに来るまで、不安で不安で仕方がなかったの。
カズちゃん達にまで、拒絶されるのじゃないかと・・・」
「僕たちはそんな事はしないよ!」
「うん、こんな私でも受け入れてくれた・・・」
僕が口にした、不安に対して。
カズちゃんが、言葉を荒げて否定する。
そのカズちゃんの言葉に、少しは冷静になったのか。
いつの間にか、話している一人称も"私"に戻っていた。
「でも、私の体の事が知られたらと思うと、どうしても不安は続くし。
それに・・・」
「それに?」
「さっきみたいに、”女の子らしい”と言われると。
その言葉を否定したくなる自分と、嬉しくなる自分が居て、混乱するの。
だから、みんな含めて、自分がどうしたら良いのか分からなくなるのよ・・・」
そう言った途端、僕は手のひらで顔を覆って、泣き出してしまった。
「うっ・・・、うっ・・・」
「(ふわっ)」
「(えっ?)」
「(すーっ、すーっ)」
僕が泣いていると、不意に頭に何かが乗って、頭を撫で出し始めた。
顔を上げると、カズちゃんが僕の頭を撫でていた。
「ミズキちゃん。
昔、僕が泣いた時は良く、こうしていたよね」
そう言って、カズちゃんは優しい瞳で、僕の頭を撫でている。
「ねえ、ミズキちゃん。
確か、誰もミズキちゃんの事を知らない所で一から始める為に、ここに来たんだよね」
僕は、返事の代わりに頷いた。
「だから大丈夫だよ、ここなら誰もミズキちゃんの事は知らないし。
僕や、父さん母さんも、ミズキちゃんの事は絶対黙っているから。」
カズちゃんは、優しい瞳のままで僕に語りかけている。
「それに、”女の子らしい”事に、葛藤しているのには、僕は何とも言えないけど。
でもねミズキちゃん、決して、自分を否定する事だけはしないで。
ミズキちゃんはどんな姿でも、僕と仲の良い、僕のイトコなんだから」
それからカズちゃんが、視線を少し外し、テレるようにしながら。
「でも、"ミズキちゃんが可愛い"って言ったのは、ホントだよ」と言った。
「カズちゃん!」
カズちゃんの言葉を聞いて。
僕はどう言う訳か、泣きながらカズちゃんの胸に飛び込んだ。
それに対し、カズちゃんは僕を受け止めながら背中に腕を廻し、優しく頭を撫でてくれた。
「カズちゃん・・・」
「(すーっ、すーっ)」
そうやって、僕はカズちゃんから頭を撫でられながら、彼の胸で泣いていた。
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しばらく泣いた後、ようやく落ち着いた頃。
そこでやっと、今の自分の状態に気付く。
僕は、カズちゃんに抱き締められながら、頭を撫でられていた。
しかも、自分もカズちゃんにしがみ付き、顔を胸に埋めている。
自分の状況に、気が付いた途端。
顔から火が出るほど恥ずかしくなったが。
それと同時に、頭を滑る手、体に感じる暖かい体温。
それらを感じると、自然と冷静になり。
これらの感触を、手放すのが惜しくなった。
「(・・・気持ち良い)」
カズちゃんに包まれていると。
まどろみの中に居るような、安心感を感じる。
「(すーっ、すーっ)」
僕の頭を撫でる感触が、心に染み込んで行き。
「(ぽかぽか)」
暖かいカズちゃんの体温が。
風に当たり過ぎて、少し冷えた体には、とても気持ち良い。
「くすくすくす」
「どうしたの?」
「ん? いやね。
昔は、僕がミズキちゃんに良く慰められていたから、昔とは逆だね」
「そう言えば、そうだね」
僕が、落ち着いたのに気付いたのか。
カズちゃんが急に笑い出したので。尋ねてみると、そう答えてくれた。
確かに、昔は僕が、カズちゃんを慰めていたっけ。
「・・・ねえ、カズちゃん」
「なに?」
「・・・もうちょっとだけ、このままで良い?」
「うん、良いよ」
彼の腕の中が余りにも気持ち良いので、遠慮がちにおねだりをしてみる。
すると、カズちゃんは笑いながら了承してくれた。
こんな、男の子に甘えるとか。
普段なら、とてもじゃないが考えられないが。
カズちゃんの前だと、こんな女の子みたいな行為を自然に行える。
こうして僕は、カズちゃんに甘えながら、慰めてもらったのであった。