第6話 どうしたら良いの・・・(前)
それから、翌日。
「ねえ、カズちゃん」
「うん、なに〜?」
「私と一緒に、近所を散歩しない?」
まだ、昼前の時間。
既に、片付けを済ませていた僕は。
散歩のついでに、近所を見て、道を覚えようかと思い付く。
昔、何回か来た事はあるが。
昔と変わった所も、有るかもしれない。
ならば、暑くなりきる前に廻ろうと考え。
どうせなら、カズちゃんに付いてきてもらおうと思った。
それで、居間のソファーに座り。
ノンビリとテレビを見ていた、カズちゃんに聞いてみる。
「ん〜、特に予定は無いから。
一緒に、行っても良いよ」
「うふふっ、ありがとう〜」
最初、来てくれるか分からなかったけど。
彼が、一緒に来てくれる事になったので、思わず笑みがこぼれた。
そう言う訳で。
僕たちは、一緒に散歩に行く事となった。
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「思ったよりも、変ってないね〜」
「うん、基本的にほとんど変わらないよ」
昔見た記憶と、変わらない風景を見て、僕がそう言うと。
カズちゃんが、それにそう応えた。
今二人は、叔父さんの家の周りを歩いている。
この周辺は、昔はもう少し有ったけど、現在では十数軒ほどの集落で。
更に、その周りには、田んぼや林があった。
また、この近辺の家は、本来なら農家が多いのだが。
人口流出で耕作放棄地が増えた事や、高齢化で農作業が出来なくなった家が有ることから。
集落の何人かが、他の複数の集落と共同で、農業を行う会社組織を作り。
そこに、土地を貸し出している所が多い。
それに小規模でやるより、集約化で大規模にして。
機械化した方が、効率が良いと言うのもあった。
ちなみに叔父さんも、そこに土地を貸していて。
普段は、少しは離れた工場に勤めている。
「でも、この集落も、大分過疎化して来ているんだよね」
「やっぱり」
「だから、子供が居る世帯が居なくなって。
僕より年が下の子は、もう一件しか居ないし。
僕より上の子達は、外に出て行ってしまったよ」
「そうなんだ〜」
昔、来た時は、カズちゃんと一緒にいる事が多かったけど。
時々、他の子と遊んだ事もあった。
だから、少ないけど、居ることは知っていたんだが。
もう、その子達は、ここにはいないのかあ・・・。
そう思い、もう一度周囲を見ると、空き家になっている家も見えた。
・・・
そうやって歩いていたら。
昔、良く遊んでいたお宮に着いた。
このお宮は、林の中にあり。
敷地に入ると、涼しい風が吹き渡っている。
「はあ〜、気持ち良い〜」
僕は、両手を広げて、吹き渡る風に身を任せてみる。
空気の流れに体が冷やされ、歩いている内に熱を持った体には、とても心地良い。
「あははっ、ミズキちゃん。
そうやっていると、本当に女の子なんだな〜」
そんな僕を見て、カズちゃんが笑っている。
しかし、そのカズちゃんの言葉を聞いて。
僕は、何とも複雑な表情をする。
「・・・ねえ、ミズキちゃん」
「なに?」
「突然、女の子になってしまって大変だったね」
「・・・うん」
僕のそんな表情を見て、カズちゃんが急にそんな事を言う。
「一年前の今頃。
ある日、熱が出て寝込んだの。
最初は、ただの風邪だと思って、普通に寝ていたんだけど」
僕は、カズちゃんの方を向いて語り始めた。
「でも、熱が下がるどころか高熱が続いて。
とうとう、病院に入院する事になったけど、それでも熱が下がらなくて。
その内、体中に激痛が走る様になった」
カズちゃんは、黙って話を聞いている。
「それから三カ月の間、熱と激痛に苦しんで。
それが、やっと収まったと思って安心したら、いつの間にか、僕は女の子になってしまったんだよ・・・」
いつの間にか。
話している一人称が、私から僕に戻っていた。
「それから、僕はパニックになって。
数日の間、暴れたり泣きじゃくったりして、そんな状態がしばらく続いたけど。
だけど、そんな事をいくらしても、元に戻れる訳がないから。
少しづつ、現実を受け入れるしかなかった」
僕は、なおも話を続けている。
「何とか、現実を受け入れるようになって。
それからリハビリとして、女の子としての色々なレクチャーを受けた。
でも僕自身は、一応、踏ん切りが付いたけど。
元の学校に戻れなくなってしまった上、周りが騒がしくなって居られなくなったから、ここに来たんだよ」
僕の目に涙が溜まった所為で、視界がボヤけ出した。