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第6話 どうしたら良いの・・・(前)

 それから、翌日。




 「ねえ、カズちゃん」


 「うん、なに〜?」


 「私と一緒に、近所を散歩しない?」




 まだ、昼前の時間。


 既に、片付けを済ませていた僕は。

散歩のついでに、近所を見て、道を覚えようかと思い付く。


 昔、何回か来た事はあるが。

昔と変わった所も、有るかもしれない。


 ならば、暑くなりきる前に廻ろうと考え。

どうせなら、カズちゃんに付いてきてもらおうと思った。


 それで、居間のソファーに座り。

ノンビリとテレビを見ていた、カズちゃんに聞いてみる。




 「ん〜、特に予定は無いから。

 一緒に、行っても良いよ」


 「うふふっ、ありがとう〜」




 最初、来てくれるか分からなかったけど。

彼が、一緒に来てくれる事になったので、思わず笑みがこぼれた。


 そう言う訳で。

僕たちは、一緒に散歩に行く事となった。




 ************




 「思ったよりも、変ってないね〜」


 「うん、基本的にほとんど変わらないよ」




 昔見た記憶と、変わらない風景を見て、僕がそう言うと。

カズちゃんが、それにそう(こた)えた。



 今二人は、叔父さんの家の周りを歩いている。


 この周辺は、昔はもう少し有ったけど、現在では十数軒ほどの集落で。

更に、その周りには、田んぼや林があった。


 また、この近辺の家は、本来なら農家が多いのだが。

人口流出で耕作放棄地が増えた事や、高齢化で農作業が出来なくなった家が有ることから。

集落の何人かが、他の複数の集落と共同で、農業を行う会社組織を作り。

そこに、土地を貸し出している所が多い。


 それに小規模でやるより、集約化で大規模にして。

機械化した方が、効率が良いと言うのもあった。


 ちなみに叔父さんも、そこに土地を貸していて。

普段は、少しは離れた工場に勤めている。




 「でも、この集落も、大分(だいぶん)過疎化して来ているんだよね」


 「やっぱり」


 「だから、子供が居る世帯が居なくなって。

 僕より年が下の子は、もう一件しか居ないし。

 僕より上の子達は、外に出て行ってしまったよ」


 「そうなんだ〜」




 昔、来た時は、カズちゃんと一緒にいる事が多かったけど。

時々、他の子と遊んだ事もあった。


 だから、少ないけど、居ることは知っていたんだが。

もう、その子達は、ここにはいないのかあ・・・。


 そう思い、もう一度周囲を見ると、空き家になっている家も見えた。



 ・・・



 そうやって歩いていたら。

昔、良く遊んでいたお宮に着いた。


 このお宮は、林の中にあり。

敷地に入ると、涼しい風が吹き渡っている。




 「はあ〜、気持ち良い〜」



 僕は、両手を広げて、吹き渡る風に身を任せてみる。


 空気の流れに体が冷やされ、歩いている内に熱を持った体には、とても心地良い。




 「あははっ、ミズキちゃん。

 そうやっていると、本当に女の子なんだな〜」




 そんな僕を見て、カズちゃんが笑っている。


 しかし、そのカズちゃんの言葉を聞いて。

僕は、何とも複雑な表情をする。




 「・・・ねえ、ミズキちゃん」


 「なに?」


 「突然、女の子になってしまって大変だったね」


 「・・・うん」




 僕のそんな表情を見て、カズちゃんが急にそんな事を言う。




 「一年前の今頃。

 ある日、熱が出て寝込んだの。


 最初は、ただの風邪だと思って、普通に寝ていたんだけど」




 僕は、カズちゃんの方を向いて語り始めた。




 「でも、熱が下がるどころか高熱が続いて。

 とうとう、病院に入院する事になったけど、それでも熱が下がらなくて。


 その内、体中に激痛が走る様になった」




 カズちゃんは、黙って話を聞いている。




 「それから三カ月の間、熱と激痛に苦しんで。

 それが、やっと収まったと思って安心したら、いつの間にか、僕は女の子になってしまったんだよ・・・」



 いつの間にか。

話している一人称が、私から僕に戻っていた。




 「それから、僕はパニックになって。

 数日の間、暴れたり泣きじゃくったりして、そんな状態がしばらく続いたけど。


  だけど、そんな事をいくらしても、元に戻れる訳がないから。

 少しづつ、現実を受け入れるしかなかった」




 僕は、なおも話を続けている。




 「何とか、現実を受け入れるようになって。

 それからリハビリとして、女の子としての色々なレクチャーを受けた。


  でも僕自身は、一応、踏ん切りが付いたけど。

 元の学校に戻れなくなってしまった上、周りが騒がしくなって居られなくなったから、ここに来たんだよ」




 僕の目に涙が溜まった所為(せい)で、視界がボヤけ出した。



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・思い出の海と山と彼女
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