第28話 こんな僕でも良いの?(後)
「・・・ミズキちゃん」
「ごめんね、ごめんね・・・」
・・・僕は勢いで、彼に告白してしまった。
その言葉を聞いた、カズちゃんが驚いてしまい。
そんな彼を見た僕が、謝罪の言葉を繰り返した。
”言ってしまった”
僕はそう思いながら、心の中で最悪の事を想像していた。
”カズちゃんとの、関係が壊れてしまう・・・”
そうやって、知らない内に涙も溢れ出していて。
僕は、泣きながら彼に謝り続ける。
「うっ、うっ、うっ・・・」
「(ふわっ)」
「(えっ!)」
それから、謝罪の言葉は止んだが。
代わって嗚咽を上げていた僕を、何かが包み込んだ。
「ミズキちゃん、いいよ、いいよ。
泣かなくて、いいよ」
「・・・カズちゃん」
「ミズキちゃん、僕も、ミズキちゃんの事が好きだよ」
「えっ!」
カズちゃんが、泣いている僕を優しく抱き。
そして、僕の告白に、同じ様な内容で返してくれた。
思っても見ない内容に、僕は驚きの声を上げてしまった。
「僕はミズキちゃんに、久しぶりに会った時から心を奪われていたし。
一緒に居る内に、いつの間にか従姉弟以上の感情が湧いていたんだよ」
「うそっ・・・」
「嘘なんかじゃないよ」
続けて言った内容に、つい疑う言葉が出たが。
カズちゃんは、強い口調で否定した。
「・・・でも、僕は男だったんだよ」
「でも、今は女の子でしょ。
こんなに優しくて、お淑やかで、可愛い女の子が女じゃないなら。
他の娘なんて、女の子じゃないよ」
「(ギュッ)」
「あぁ・・・」
また一人称が、”僕”になっていた僕は。
次に、遠慮がちに彼に尋ねてみたが。
カズちゃんは、そう言って抱いた腕に力が入れる。
急に力が入ったので、自然に溜め息が漏れるけど。
痛いほどに感じる、その感覚が逆に気持ち良かった。
その感覚を受けて僕は、思わず彼の背中に腕を廻していた。
「カズちゃんは、男だった時も知っているし。
違和感とか無いの?」
「ん〜、そうだね。
何というか、マンガとかである話だけど。
幼い頃、良く遊んでいた男だと思っていた子が。
成長したら、実は、女の子だったって話があるでしょ。
あれと同じだと、思っているから」
「なに〜、それ。
叔母さんも似たような事を言っていたよ〜。
さすがは母子だね」
返ってきた、カズちゃんの台詞を聞いて。
僕は、涙で濡れていた顔のまま、くすくすと笑った。
痛いくらいの抱擁を受けたおかげで。
笑いが出るほどまで、冷静さが戻ったようだ。
「・・・ねえ、カズちゃん」
「なに?」
「カズちゃんに聞くけど、”こんな僕でも良いの?”」
落ち着いた所で、僕はカズちゃんに尋ねてみた。
それも、男だった過去を強調する為。
敢えて、一人称を”僕”のままで。
「うん良いよ。
だって、目を奪われるくらい可愛い上に。
一緒に居て心が安らぐ”女の子”は、他には居ないから」
「・・・カズちゃん、ありがとう」
僕の問いかけに、カズちゃんはそう答えてくれた。
特に、”女の子”の所を強調して。
それを聞いた僕は、感謝の言葉を言いつつ、彼の胸に顔を埋める。
そんな僕の頭をカズちゃんは、大きな手で撫でていた。
・・・
しばらくの間、僕はカズちゃんに抱き締められながら、頭を撫でられいたが。
「ねえ、ミズキちゃん」
「うん?」
カズちゃんがそう言ってきたので、顔を上げてみたら。
上げた顔の先には、微笑んだカズちゃんの顔があった。
優しい瞳で、僕を見詰めるカズちゃんだが。
その瞳には、何かを僕に求める色が見えている。
それを見て、何となく彼が求めている物が分かったので。
僕は目を閉じ、唇を軽く開く。
「(チュッ)」
少しして、唇に何かが触れた。
それは柔らかいが、とても熱い物である。
「(ギュッ)」
再び、強く抱き締めてくるが。
今度は、唇が塞がれているので、溜め息は漏れなかった。
長いような短いような時間が過ぎ、カズちゃんの唇が離れると。
僕は、閉じていた目を開いた。
開いた目の前には、顔が赤くなったカズちゃんが見える。
でも、頭がボ〜として焦点が合わないせいか、視界も何だかボヤけていた。
同時に、体もフワフワしていて、何だか浮いているみたいだ。
「カズちゃん、大好きだよ・・・」
「僕も、ミズキちゃんの事が、大好きだよ」
僕は、余りの気持ち良さに、そう囁くと。
カズちゃんも同じ言葉を返した。
「ねえ、もう一回言って。
僕は、ミズキちゃんの甘い声が好きだから。
その甘い声で、もう一回言って・・・」
「カズちゃん、大好きだよ・・・」
そしてカズちゃんが、同じ言葉を更に求めて来たので。
僕は、もう一度囁いた。
また、それと共に、すごくフワフワしていたので。
どこかへ、飛んで行ってしまうのではないかと言う、錯覚に陥り。
思わずカズちゃんに抱き付いてしまった。
カズちゃんも、そんな僕を抱き返してくれる。
こうして僕達は、もうしばらく、お互いに抱き合っていた。
*************
それから、少し時間が経った頃。
「ねえ、カズちゃん」
「どうしたの、ミズキちゃん?」
「あのね、カズちゃん。
カズちゃんは、航くんの妹さんの事、本当に妹としてしか見てないの?」
「うん、そうだよ。
可愛いのは可愛いけど、それは実の妹みたいな可愛さだから」
僕は、カズちゃんの胸に顔を埋めたまま。
もう一度、妹さんの事について聞いてみたけど。
やはり、同じ事しか返ってこなかった。
「じゃあ、カズちゃんの事を、好きな娘が居るのも知っているの?」
「えっ! そんな娘なんて居ないから」
「私は、航くんから聞いたから・・・」
「ああ、アイツの言う事は冗談だから、気にしなくて良いよ」
ついでに、気になっていた。
カズちゃんの事を、好きな娘が何人も居る事も言うが。
カズちゃんは、そう言って本気にしなかった。
はあ〜、航くんが、”ギャルゲーの主人公か”って、言うのが分かるよ。
逆に、カズちゃんの事を思っていた娘達が、可愛そうになってきた。
「それにね」
「うん?」
「ミズキちゃんみたいに優しくて、お淑やかで、可愛い上に。
一緒に居て心が安らぐ女の子なんて、他には居ないよ」
「カズちゃん!」
僕は彼の言葉を聞いて、再び、廻した腕に力を込め。
それを受けて、カズちゃんも力強く抱き返した。
そうやって、僕達は、更に抱き合っていたのであった。




