第26話 誤魔化しきれない本心
その翌日、僕は再びショッピングモールに来ている。
「はあ〜・・・」
トボトボと重い足取りで、モールの中を歩いていた。
今日は、昨日思いがけない事で中断したのと。
家に居ても気が滅入るので、気分転換の意味で来たのだ。
しかし、モールに来たのは良いが、それでも気が晴れない。
「(何だか気になって、買い物に集中出来ないよ〜)」
気になっていたのは、もちろんカズちゃんの事である。
カズちゃん自身は、妹以上の感情は無いのだろうけど。
あの娘の表情は、どう見ても彼に気が有るとしか思えない。
あのまま接触していれば、優しいカズちゃんの事だから。
その内、情が移ってしまう事だってありえる。
「あれっ? 瑞樹ちゃんじゃないの」
「えっ、 あれ、航くん?」
そんな事を、考えながら歩いていたら。
聞いた声がしたので、振り返ると、航くんが居た。
「瑞樹ちゃんは、ひょっとして今日は買い物?」
「うん、そうだよ。航くんこそ、今日は何?」
「ああっ、今日はデートだよ。
何回もアタックして、やっとここまで漕ぎ着けたよ〜」
そう言って、上げた腕に顔を押さえ付け。
まるで泣くような仕草で、今までの苦労を表現した。
「そう言えば、航くんには妹さんが居たんだね」
「そうだけど、良く知っているね」
「うん、昨日、ここで二人を見掛けたから。
ねえ航くん、二人は、あんなに仲が良いの?」
「う〜ん、和也のヤツは、完全に妹みたいな存在としてしか見てないけど。
アイツの方が、和也に気があるからなねえ。
・・・瑞樹ちゃん、そんな事まで知っていたの」
「カズちゃんから教えてもらったから・・・」
「なら、和也がアイツの事をどう思っているかは知っていると思うけど。
しかしアイツの方が、和也と付き合うチャンスを狙っているからねえ~。
それに狙っているのは、アイツだけじゃないよ」
「えっ?」
「和也のヤツ、本人は気付かないけど。
あれでも結構、アイツ、モテるんだよ」
「そ、そう・・・」
「ああ、アイツ顔も超イケメンとまでは行かないが、それでも結構イケてるし。
それに言葉遣いも丁寧で、物腰柔らかい上、女の子には優しいから。
大人し目の娘なんかに、割に人気があるんだ。
俺も、そう言う娘を三人ほど知っているよ」
「・・・」
「学校では、時々、物陰からアイツに向けて熱い視線が来ることがあるけど。
しかし当の本人は、全く気付いてないんだよ。
ホント、ドコのギャルゲー主人公かって!」
「・・・カズちゃんなら、ありそう」
航くんは、そう言いながら悔しそうにしていた。
「・・・航くん、時間は良いの?」
「ああっ、そうだ、こうしては居られない。
じゃあ、瑞樹ちゃん、またねぇ〜!」
「またね」
そんな、航くんに呆れながら。
彼が、これからデートだと言うことを思い出し。
そう言ってあげた途端、航くんは、慌てて映画館の方へと向かって行った。
「カズちゃんって、結構、モテるんだ・・・」
向こうへ向かって消えていく、航くんの姿を見ながら。
僕は、自然に溜め息が出ていたのである。
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「・・・」
叔父さん家に戻った僕は、部屋の中でボンヤリしていた。
結局、またカズちゃんの事が気になって、買い物に集中出来なかった。
「はあ・・・。
カズちゃんはモテるんだなぁ・・・」
部屋のベッドの上で、ペッタンコ座りをして状態で。
何もない壁を、ボーと見ながら独り言を言う。
考えたら、カズちゃんだったら有りうる事だけど。
そんな事を、ハッキリ聞かされたらなあ。
そんな事を考えつつ、僕はカズちゃんの事を考えていた。
・・・
どうして、こんなに心が乱れるのだろうか・・・。
落ち着いて考えて見ると、僕は、カズちゃんの従姉弟だけど。
別に彼が誰と付き合うと、何かを言える立場ではない。
だけど、彼の事が気になって仕方がない。
「(もし、カズくんが誰かと付き合ったら・・・)」
その事を考えてみた。
あの優しい笑顔を、誰かに向けている。
あの大きく暖かい手が、誰かの手を包んでいる。
あの広い胸に、誰かが顔を埋めて、頭を撫でられいる。
あの逞しい腕の中に、誰かが抱き締められている。
「そんなのはイヤだ!」
思わず僕は、叫んでいた。
彼が、誰かに取られるのがイヤだ。
そこで僕は気付いた、いや、突き付けられたのだ。
僕が、カズちゃんが異性として好きな事を。
ここに来て僕は、カズちゃんの優しさで。
女の子としての自分を、自然に受け入れられる様になった。
それにすぐ側に、いつだって。
カズちゃんの笑顔、大きな手、広い胸、逞しい腕があって。
それらを感じている内に。
いつの間にか、彼に惹かれる様になっていた。
だが、カズちゃんが誰かと付き合えば。
それらが、僕の物じゃなくなってしまう。
しかし僕は、その事を考えないようにしていた。
だって僕は、本物の女の子じゃない。
だから、彼は従姉弟としては受け入れてくれたが、恋人としてはどうなのか?
それを聞くのが怖いし。
それを聞いて、今までの関係が壊れるのも怖かった。
だから、無意識の内にその事から目を逸らせていたのだ。
「カズちゃん・・・」
僕は、知らず知らずの内に、彼の名前を呟いていた。
このまま、仲が良い従姉弟でありたい一方で。
女の子としてカズちゃんに愛されたい、自分が居るのも分かった。
ここに来る前は、女の子になった事に。
心の中では、まだ違和感を持っていた。
しかし、神社で泣いた時。
カズちゃんから女の子になった僕を受け入れてもらえて、心が楽になったと同時に。
カズちゃんの前では、むしろ逆に、女の子になりたいと思うようになっていた。
「カズちゃん、どうすれば良い・・・?」
僕は、ここに居ない、カズちゃんに尋ねた。
前のように、とても本人の目の前で言える事ではなかったが。
だけど、どうしても尋ねずには居れなかった
こうして、僕はベッドの上で座りながら。
目の前に居ないカズちゃんに、尋ねていたのだった。




