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第25話 波立つ心

 それから数日後の事。




 「う〜っ、迷っちゃうなあ〜」




 僕は、お店のショーウィンドウの前で、ボヤいていた。


 今日は、ショッピングモールに来て。

色々と、洋服屋さんの前を見てる。


 良い物が有ったら買おうと、モール内を歩いていたのである。


 でもカズちゃんは、用事があるので、今日は別行動なのだ。




 「これ何か、ちょっとエロいかな〜」




 そうやって、お店の前を渡り歩いていたら。

たまたま、あるお店のショーウィンドウの中にある。

一体のマネキンが着ている服に、目が止まった。


 それは一見すると、何の変哲もないワンピースであるが。

胸元が大きく開いて、谷間が見えている。


 しかも(すそ)も結構短くて、座るとき気を付けないと。

何だか中が見えそうである。


 そんな服を見て、僕は思わず(ひと)(ごと)を言っていた。




 「(でも、これを僕が着たら。カズちゃんどう思うかなあ)」




 ”エロい”と言っている割に。

僕は、この服を着て、カズちゃんに見せ付けてやりたくなった。


 海に行って、ビキニ姿を見せてから。

何だか、妙な所で大胆になっていた。


 大きく開いた胸元から、(のぞ)く谷間も。

他の男の子から見られるのはイヤだけど、カズちゃんになら見られても良い。


 裾だって、ホンのチョットだけなら・・・。


 でも、カズちゃんなら、顔を赤くしながらも見るんだろうなあ。


 彼のしそうな事を考え、僕は顔を緩ませていたら。

視界の端に、良く知っている人影が飛び込んできた。




 「(あれ? カズちゃんじゃないの?)」




 カズちゃんが居たのである。


 用事があると言うことで、どこに行くは聞いてなかったけど。

このモールに来てたんだね。


 しかし、その次の姿に僕は、ショックを受けた。




 「えっ・・・、カズちゃん、その娘、誰?」




 カズちゃんと、知らない女の子が並んで歩いていた。


 その娘は少し年下の、中学生くらいであるが。

高一のカズちゃんなら、丁度いい位の年頃である。


 背中までの長い髪に、クリクリとした目が特徴的な。

僕が男のままなら、付き合いたいと思う位に可愛い娘だ。


 見ると、カズちゃんは、その娘と楽しそうに話をしており。

時折、二人が笑っているのが見える。


 それは、(はた)から見ても、恋人でもおかしくない位の親密さだ。




 「(ムカムカムカ)」




 そんな二人の姿を見て。

僕の心の奥から、黒い物が(あふ)れ出して来た。


 また、それと同時に悲しさも湧き出して来た。




 「・・・カズちゃん」




 モールを仲良く歩く二人を見ながら。

僕は、その場で立ち尽くしていた。




 ************




 「(パタン)」


 「(ドサッ!)」


 「は〜っ・・・」




 あの後、買い物をする気力も無くなった、僕は。

気付くと、叔父さんの家に帰っていた。


 帰るとそのまま自分の部屋に入り。

ベッドに、体を投げ出す様にして寝っ転がる。


 帰る途中の事は、余り覚えていない。


 タダ、あの二人の姿だけが、脳裏に浮かんでいただけである。


 いったい二人は、どんな関係なんだろうか?


 やはり、そう言う関係なんだろうか?


 でも、良く考えてみると。

僕は、カズちゃんの事を良く知らない。


 もっと、正確に言えば。

僕が、ここに来るまでの事や、外での事だ。


 そして、一番肝心な。

カズちゃんに、彼女は居るかと言う事も知らないのである。




 「はあ・・・、聞くしかないか・・・」




 色んな考えが、頭を廻るが。

結局、本人に直接、聞くしかないだろう。


 外の事に関しては、叔母さんも知らない事が有るだろうし。


 気が重いが、カズちゃんが帰ったら聞いてみよう。


 そう思いながら、部屋の天井を眺めていた。



 ・・・




 「(ガチャッ)」


 「カズちゃん・・・」




 カズちゃんが帰ってきたので。

僕は、急いで下へ降りた。


 そうしたら、居間の方に居るようなので。

そちらに向かいドアを開けると、思った通りカズちゃんが居た。




 「どうしたの、ミズキちゃん?」


 「あのね、カズちゃん。

 今日、どこに行ってたの?」


 「えっ?」




 内心の不安を押し隠して、カズちゃんに聞いてみる。

一瞬、カズちゃんが、間の抜けた声を出した。




 「今日、モールの方で見かけたから・・・」


 「うん、確かに居たよ」


 「可愛い娘と一緒だったね・・・」


 「えっ?」




 僕がそう言うと。

今度はカズちゃんが、驚きの声を上げる。




 「それに、何だか仲が物凄く良さそうに見えたから。

 ねえ・・・、ヒョッとして、付き合ってるの?」


 「違う違う! ミズキちゃん、違うよ!

 あの娘は、航の妹なんだよ〜」




 見えない何かに突き動かされた僕が、カズちゃんにそう言うと。

僕の表情を見たカズちゃんが、首を必死で振りながら否定する。




 「・・・それにしては。

 ずいぶん、仲が良いみたいだけど・・・」


 「だから、あの娘とは、航の妹だから。

 昔っからの顔見知りで、僕の事を兄貴だって慕ってるんだよ。」


 「ホントに・・・?」


 「ホントだよ、いつも僕に。

 “和也さんが、本物のお兄ちゃんだったら良いなあ〜”って、言ってるから」


 「・・・」


 「僕だって、妹以上の感情なんて無いから。

 お願いだから、信じてよ〜」




 ・・・



 しばらく僕の顔を見て、必死で否定するカズちゃん。


 こんなに必死なら、まず嘘を()いている事は無いだろう。


 ひとまず安心するが、しかし、心のドコかにまだ引っ掛かりがあった。

それはモールで見た、あの娘の表情である。


 あれは、タダの兄以上の感情が有るように思える。


 それは何となくだけど、女になった僕には分かってしまった。


 カズちゃんの言葉を聞いても、僕の心はまだ()ぐ事は無かった。



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・思い出の海と山と彼女
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