第23話 夏祭りの夜に(後)
お参りを済ませたら、次に、別ルートの参道に入った。
この神社は、拝殿の正面から伸びた参道と。
境内の右から伸びる参道の、二つの参道があった。
境内に入ったのは、正面からの参道なので。
今度は、正面から見て、右側の参道に入ったのである。
そうやって、歩いていていたら。
「あっ、ミズキちゃん、金魚掬いだね」
「ホントだ〜」
イキナリ、カズちゃんが指を差しながらそう言ってきた。
参道脇で、金魚掬いをやっている屋台があるのを、彼が見つけたのだ。
「ミズキちゃん、やりたい?」
「やりた〜い〜♪」
「じゃ、行こう」
カズちゃんが僕を誘ってきたので、僕は喜んで答える。
こうして、カズちゃんと一緒に、金魚掬いをする事になった。
・・・
「(ああっ、やぶれちゃった〜)」
僕は、破れたポイを見て悔しがる。
「それっ」
「(ヒョイ)」
そんな僕を尻目に。
カズちゃんは、金魚を掬っていた。
「・・・カズちゃん、上手いね」
「うん?」
金魚を掬うカズちゃんに向かい、羨ましそうな目を向けたら。
その視線に気付いたカズちゃんが、振り向いた。
「ふふっ、破れたんだね」
僕が店のオジさんと、破れたポイを交換している所を見たカズちゃんが。
僕がムクレている理由に気付く。
「ほらっ、ミズキちゃん、こうするんだよ」
「えっ?」
ムクレている僕を見たカズちゃんが、おもむろに近付き密着すると。
僕が取り替えたばかりの、新しいポイを手ごと持った。
つまりカズちゃんが、僕を横から覆うようにしながら。
ポイを持つ、僕の右手を持ったのである。
カズちゃんの大きな右手が、僕の手に被さっている。
イキナリ触れた部分に、カズちゃんの少し高い体温を感じて。
小さく、驚きの声を上げるが、聞こえてない様だ。
「それっ」
「(スーッ)」
カズちゃんは、僕の手を持ったまま。
ポイを水面に、平行に近い状態で侵入させ。
「(ヒョイ)」
「(チャポン)」
そして、金魚を捕まえ、水面に平行状態のまま掬うと。
浮いていたお椀の中に、金魚を入れた。
「ねっ、こうするんだよ」
「(コクリ)」
金魚を掬った所で、カズちゃんがそう言うけど。
僕はただ、頷くだけである。
「次は、ミズキちゃんがやってごらん」
「ねえ、カズちゃん・・・」
「ん、なに?」
「・・・お願い、自分でやれる自信が無いから。
もう一度だけ、やって欲しいの・・・」
「ふふふ、良いよ」
次に、自分でやるようカズちゃんが言うが。
まだ出来そうに無かった僕は、そう言って、カズちゃんに上目遣いで甘えてみた。
そんな僕のおねだりに、カズちゃんは笑って了承してくれる。
************
「カラ・・・、コロ・・・」
「〜♪」
祭りからの帰り道。
あれから二人は、しばらくして神社から離れた後バスに乗り。
そして、バス停から降りて歩いている所である。
僕は、片手に巾着。
もう片手には、金魚が入ったビニール袋を二つ持っていた。
取った金魚は、二人合わせて10匹ほどであるが。
その内、7匹は、カズちゃんの成果であり。
残りも、カズちゃんの手助けで、掬った物である。
結局、僕は、カズちゃんにもう一度だけサポートしてもらい。
その後、自分で掬ってみたけど、ポイが破れてそこで終了となった。
だから、僕が掬ったのは。
カズちゃんの手助けで取った、3匹だけである。
それで、店のオジさんから、金魚の入った袋をもらったが。
カズちゃんが、自分が掬った分も僕にくれた。
だから僕は、金魚の入った袋を二つ持っていた。
「ミズキちゃん、ご機嫌だね」
「うん♪」
金魚が入った、袋を掲げてジッと見ていると。
カズちゃんが、そう言ってきた。
それに対して、僕は機嫌良く返事をする。
そうやって、しばらく歩いて。
やっと叔父さんの家が、見えた所で。
「ねえ、カズちゃん〜」
「どうしたの?」
「疲れちゃったから、少しだけ休ませて〜」
慣れない浴衣と、履物を身に着けていたので。
結構、疲れてしまった。
祭りの会場では、興奮して感じなかった疲労が。
冷静になった所で、急に襲ってきたのである。
疲れた僕は、金魚の入った袋と巾着を持ったまま、膝に手を付いた。
「(ヒョイ)」
「きゃっ!」
そうやって手を付いて休んでいたら、突然、体が後ろに倒させた。
「(あれっ?)」
視界には、夏の夜空が映っているけど。
背中に、予想していた痛みが無かった。
気が付くと、僕の背中と膝の裏に、誰かの腕の感触がある。
「ミズキちゃん、運ぶよ」
すると、僕の間近にカズちゃんの顔があり。
ビックリしている僕に、カズちゃんがそう言っていた。
要するに、僕は。
カズちゃんから、お姫様抱っこをされていたのである。
「ね、ねえ〜、カズちゃん止めてよ〜」
「ミズキちゃん、疲れてるでしょ。
もう少しだから、早く帰って休まないと。」
「でも〜」
「最初は、オンブしようと思ったけど、浴衣を着てオンブは出来ないからね。
もしかして、オンブの方が良かった?」
「・・・このままで良いです」
カズちゃんが、イジワルな笑みを浮かべつつ、そう言うと。
渋々ながら、僕は了承した。
「ねえ、カズちゃん・・・」
「なに?」
「私・・・、重くない・・・」
怖ず怖ずと、僕はカズちゃんに聞いてみる。
「(フワッ)」
「きゃっ!」
「ミズキちゃん。
こうして、僕が投げられ上げられるくらいなんだから。
そんな事は無いよ」
「う、うん・・・」
不意に軽く投げ上げられて、ビックリしたが。
カズちゃんが、そう言ってくれた。
「(カズちゃん、ありがとう・・・)」
カズちゃんに、心の中でお礼を言いながら。
カズちゃんの首に、巾着を持った手を廻す。
そうやって僕は、カズちゃんに抱えられているので。
まるで雲に乗っている様な、フワフワした気分になった。
こうして僕は、彼に抱えられフワフワした気分のまま、家へと帰ったのであった。




