表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/29

第22話 夏祭りの夜に(中)

 「カズちゃん、次、あれ買おうよ〜」




 しばらく歩いた所で。

僕は、チョコバナナの屋台を見つけて、指を差した。


 さっき、綿あめを食べたばかりだったんだけど。

その屋台が見えたら、どうしても食べたくなった。




 「分かったよ、じゃあ、今度は僕が(おご)るよ。


 「わ〜い、カズちゃん、ありがとう♪」




 そして僕は、カズちゃんからチョコバナナを奢ってもらう事になった。


 嬉しくなった僕は、顔を緩ませてカズちゃんにお礼を言う。


 カズちゃんの方も、そんな御機嫌な僕を楽しそうに見ている。


 そうやって今度は、チョコバナナを片手に巾着を揺らして歩いていたら。




 「お〜い! 和也、瑞樹ちゃん〜!」




 遠くから、二人を呼ぶ声が聞こえた。


 見ると、航くんともう二人が、こちらに向かっていた。


 その二人も、この間、一緒に海に来ていたメンバーである。




 「航たちも来たんだ」


 「まあな」



 合流したところで、カズちゃんがそう言うと。

航くんが、手短に返事を返した。




 「・・・瑞樹ちゃん、綺麗だね」


 「ふふっ、ありがとう」




 そして、航くんが僕の方を見て、そう(つぶや)いたのだが。

僕は、彼に軽く返事を返した。




 「はあ〜、いいなあ」


 「和也が(うらや)ましい〜」




 航くんと一緒に居た二人の方は、僕を見た後、何だか溜め息を()いていた




 「で、航たちは、何をしてるんだ?」


 「ああ、三人で、可愛い娘をナンパしに来てるんだよ」


 「やっぱり・・・」




 カズちゃんが尋ねると、当然の如く、航くんがそう答え。

それを聞いた僕が、呆れてしまった。


 そうやって呆れながら。

おもむろに、手に持っていた、チョコバナナを頬張(ほおば)った。




 「うわ〜、瑞樹ちゃん。

 ちょっと、それエロいよ・・・」


 「ホント、バナナを口いっぱい頬張って・・・」


 「この場面を、おぼえとこ・・・」




 僕が頬張った途端、三人がそう言って興奮し出した。


 三人の、言っている事を聞いて。

大体、どんな妄想しているのかが分かった。


 僕も元男だから、気持ちは分かるけど。

だからって普通、そんな事女の子の前で言うの!




 「失礼だから。

 他の女の子の前で、そんな事を言ったらダメだよ!」



 「「「ごめんなさ〜い」」」




 ”キッ”と、(にら)み付けながら僕がそう言うと。

三人は、縮こまって謝る。




 「帰ってから、私で変な事をしない様にね・・・」




 何だか、僕の事をオカズにして、後で変な事をしそうだったので。

僕がジト目で、三人を見ながら釘を刺したら。




 「ほ、ほら航、早く行かないと、時間が無くなるぞ」


 「ああっ、と言う訳で、俺たちは行くからな」


 「じゃ、じゃなあ〜」




 二人組の片方が、慌てて、航くんにそう言い。

それを聞いた航くんが、別れの言葉を言うと。

もう一人の方も、挨拶しながら慌てて行った。




 「じゃあな〜」



 「・・・」




 慌てて立ち去る三人を、カズちゃんは生温かく見ながら挨拶を返すが。

しかし僕は、軽蔑する様なジト眼で、彼らを見ていた。




 ************




 そうやって、チョコバナナを食べ終わった頃。

参道を過ぎ、神社の境内に入る。




 「ここまで来たんだから、お参りしよう」


 「うん」




 カズちゃんの提案に、僕は賛成した。


 来た時の突撃は、流石にハシタなかったので。

今は上品に、ユックリ歩いているけど。


 まだカズちゃんは、歩みを僕に合わせてくれる。




 「ミズキちゃん、ちょっと危ないよ」




 しかも、それだけでなく、周りからぶつからない様に。

僕を(かば)うようにして、歩いてくれている。


 そうやって、カズちゃんに庇われながら、賽銭箱の前に着いた。




 「「コロコロコロ・・・」」


 「「ガランガランガラン〜」」




 それからカズちゃんがポケットから、僕が巾着から財布を出し。

賽銭箱に入れたら、頭上の巨大な鈴を鳴らす。


 賽銭箱の前には三つの鈴があるが、他の二つは他の人が鳴らしていたので。

僕達は、同じ鈴を鳴らした。




 「「パン! パン!」」




 そして、二礼二拍一礼で、お参りする。


 最後の一礼の時、僕はなぜか、ある事をお願いしていた。




 ”カズちゃんと、ずっと居られますように・・・”




 そんな事を、神様にお願いしていた。


 別に最初から、お願いするつもりでは無く。

“一番、願いたい事は”と思ったと同時に、心に浮んだのだ。



 安心できて、そのままで居られる、カズちゃんの側にいつまでも・・・。



 ・・・




 「ミズキちゃん、なにをお願いしたの?」




 僕は長い一礼を済ませ、顔を上げると。

カズちゃんが、そう尋ねてきた。




 「ふふふっ、な・い・しょ♡」


 「ね、教えてよ」


 「ダメだよ〜、教えたら願いが叶わないじゃない〜」


 「それも、そうかあ〜」


 「くすくすくす」


 「ははは〜」




 二人でそう言い合った後。

なぜか、同時に笑ってしまったのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品に、ローカル色(熊本)を加えた作品です。
・思い出の海と山と彼女
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ