第21話 夏祭りの夜に(前)
「はい、着付けが出来たわよ」
「叔母さん、ありがとうございます」
ある日の夜。
僕は、奥にある部屋の中に居た。
叔母さんから、浴衣を着付けてもらう為である。
「わあ・・・、綺麗・・・」
「そうでしょう、これは私が若い頃に来たヤツだから」
姿見には、朝顔の柄の浴衣が映っている。
僕が姿見の前でウットリしながら、そう言い。
それを聞いた叔母さんが、昔の事を語っていた。
「ふふふっ、これで和也を誘惑しなさい♪」
「お、叔母さん・・・」
続いて叔母さんが、笑いながら言うのを聞いて。
僕は恥ずかしくなる。
こうして、着付けを済ませた僕が、カズちゃんの前に現れると。
僕を見たカズちゃんが、そのまま呆然となった。
「ほら、ボーとしないで。
早く、瑞樹ちゃんを、祭りに連れていきなさい!」
「う、うん・・・」
僕を見てボーとなった、カズちゃんに。
叔母さんが活を入れる。
「あっ、そうそう、浴衣は帯が面倒だし、瑞樹ちゃんはまだ一人では出来ないから。
どこかに入って、変な事をしない様にね♪」
「か、母さん!」
「叔母さん・・・」
そして叔母さんが、微笑みながら。
そんな意味深な事を言ったので、僕とカズちゃんは顔が赤くなった。
・・・
少しして、家を出た僕とカズちゃんは、夜の道を歩いている。
これから夏祭りに向かう為である。
僕たちが向かう祭りは、幹線道路ぎわにある神社で行われるのだ。
とりあえず、そこまではバスで行くため、バス停まで歩いていた。
「(カラ・・・、コロ・・・)」
「ホント、母さんには参るよ」
「ホントだね」
僕とカズちゃんは、先ほどまでの叔母さんの事を話していた。
結局二人は、あの後も叔母さんにイジられた訳である。
僕は浴衣に、藍染の巾着を持ち。
足元は、女性用の可愛らしい履物を履いていた。
歩幅が制限される浴衣に、履き慣れない履物を履いているので、歩くのとても遅い。
しかしカズちゃんは、そんな僕に合わせ、ユックリと歩いてくれていた。
「ごめんねカズちゃん、歩くの遅くて」
「いいよ、ミズキちゃん。
それに、ミズキちゃんの綺麗な浴衣姿を見れたから」
「えっ!」
僕がカズちゃんに謝ると。
カズちゃんは、そう言ってイタズラっぽく笑った。
「ミズキちゃん、行かないと遅れるよ」
「あ、う、うん・・・」
カズちゃんの言葉に、一瞬、立ち止まってしまったけど。
そんな僕を見た、カズちゃんの呼び掛けに気を取り直す。
こうして二人は会話をしつつ、バス停へと向かったのである。
*************
「わあ〜、人がいっぱい」
目的のバス停に着き、降りようとしたら。
カズちゃんが不安定な足元を、側で支えてくれた。
カズちゃんに支えられながら、バスを降りた後。
ユックリとした足取りで、神社へと向かう。
そうやって歩いていたら、祭りが行われている神社に着いた。
既に、参道には多くの屋台が立ち並び。
数多くの人が、訪れていた。
中には自分と同じ様に、浴衣姿の女の子も見える。
参道の奥からやって来た。
両親に連れられた小さい女の子も、浴衣姿であった。
それらの人々の活気を見て、僕は思わず声が出た。
「ねえ〜、カズちゃ〜ん! 早く、行こうよ〜!」
「ああっ、ミズキちゃん! ちょっと待ってよ〜」
その活気を見た僕は、またもやテンションが上がり。
その人混みの中へ突撃する。
歩くコツを、掴んだ事もあり。
僕は動き辛い、浴衣と履物にも関わらず。
今までと打って変わり、”カラコロ”と音を転がしながら進んで行く。
それを見たカズちゃんが、慌てて、僕を追いかけた。
・・・
「えへへ〜っ」
「はあ〜。もお、ミズキちゃんは〜」
「ごめんね、カズちゃん♡」
僕は、綿あめ片手に、ご機嫌である。
一方のカズちゃんは、そんな僕に呆れていた。
「何か、ミズキちゃんはそうしていると。
子供みたいで、全然、成長してないね〜」
「あ〜、もうひどいなあ〜」
カズちゃんが溜め息を付きつつ、そんな事を言うと。
それを聞いた僕が、思わずムクレた。
・・・そんな事、自分でやってて気にしてるんだよ。
女の子になってからは。
チョットした事でも、テンションが上がりやすくなり。
それと共に、子供っぽくなる。
「でも、ミズキちゃん、裾が乱れるから。
浴衣で走らない方が良いよ」
「う、うん・・・」
そうなのだ、今は浴衣を着ているのである。
叔母さんから着付けてもらっている位だから、自分では出来ない。
だから、激しく動いたらイケナイ。
第一、折角の浴衣で、はしたない事をしたら。
浴衣が可哀想である。
僕は反省しつつ、片手に綿あめを持ち。
巾着を、揺らしながら歩いていた。
「でも不思議だなあ」
「何が?」
「こんな形で、 ミズキちゃんと祭りに来れるとは思わなかったよ」
はぐれないように、すぐ横を歩いていた、カズちゃんが。
ふと、そんな事を呟いた。
「・・・いやだった?」
「ううん。だって、こんな可愛い娘と一緒なんだもん」
「もお〜、カズちゃんたら〜」
一瞬、不安になったが。
カズちゃんが、冗談めかして笑顔で答えた。
僕は、怒った風に言うけど。
可愛いと言われて、僕はとても嬉しくなった。
それが例え、冗談だとしても。
こうして、先ほどとは違い。
僕は、ユックリとした足取りで歩き。
カズちゃんも。
やはり、僕に歩みを合わせながら、歩いていたのである。




