第20話 久しぶりの花火
それから数日経った、ある日曜日。
僕は叔母さんと共に、スーパーで買い物へ出かけていた。
もちろん、あのショッピングモールの中にあるスーパーに、叔母さんの運転する車に乗ってやって来た。
「はい、瑞樹ちゃん、これもね」
「はい、叔母さん」
叔母さんが材料を手に取ると、すかさず僕が持つカゴへと入れた。
叔母さんは何の迷いも無く、次々と材料をカゴに入れる。
さすが、長年の主婦歴は伊達ではない。
当然、値札なども見てないが。
事前に、チラシなどを確認して献立を決めているので、見る必要も無いらしい。
以前、感心して、その事を言ったら。
“主婦を長年やっていれば、自然になるわよ”と言われた。
そして、”瑞樹ちゃんが和也の嫁になったら、私が教えてあげるからね♪”と。
含み笑いをしながら叔母さんが言うのを聞いて、思わず、頬が熱くなってしまった事もあった。
「あれっ?」
叔母さんと一緒に歩いていたら、とある棚に目が止まる。
「(花火だ)」
棚には、袋に入った花火のセットが売ってあった。
”そう言えば、昔は、よくカズちゃんとしてたな〜”
ふと脳裏に、二人で遊んだ幼い頃の光景が浮かんだ。
そんな事を、思い出していたら。
「あら、花火が欲しいの?」
「あ、いえ・・・」
僕が立ち止まった事に気付いた叔母さんが、振り返り、そう言ってきた。
「いいのよ、和也と楽しみなさい」
「えっ、そんな・・・、良いですよ」
「いいから、いいから。
大事な、未来の嫁の頼みですもの」
「・・・」
叔母さんがそう言いながら、花火をカゴの中に入れた。
しかし叔母さん、”未来の嫁認定”だけは止めて欲しいなあ・・・。
・・・
「(コンコンコン)」
「いいよ〜!」
「(カチャ)」
家に戻ってから、すぐにカズちゃんの部屋へと向かった。
「カズちゃ〜ん」
「なに〜」
「買い物に行った時に、花火を買ったから。
夜、一緒にやらない?」
「花火を買ったの?」
「うん。
ねえ、一緒にしない?」
「そうだね、久しぶりにしてみるなあ」
「うん♪」
カズちゃんの返事を聞いて、僕は機嫌良く頷いた。
こうして夜に、花火をカズちゃんと一緒にする事となった。
************
「準備は良い?」
「うん、良いよ」
僕は、カズちゃんに確認すると。
準備を終えたカズちゃんが、返事をする。
夏の遅い夕暮れも過ぎ。
夕食も既に済ませた僕達は、庭に出て花火の準備をした。
花火を付けるロウソク、庭だから当然、蚊取り線香も要るし。
念の為、バケツに水を張っておく。
「始めようか、ミズキちゃん」
「うん」
「(シュ〜ッ)」
「(バチバチバチ)」
カズちゃんの合図で、花火に火を点けた。
爆ぜる音と共に、火薬が噴射される。
・・・
「(バチバチバチ)」
「(シャ〜ッ)」
それから何本か袋から出し、花火をし続ける。
「ねえ、カズちゃん」
「なに?」
「昔はよく、一緒に花火をしていたね」
「うん、していたね」
「結構、無茶苦茶な事もしてたし」
「そうだね、二人で火が付いた花火を振り回した事もあった」
「結局、それを叔母さんに見つかって、一緒になって起こられたよね」
「ははは、そんな事もあったね」
噴射される火と、爆ぜる音の中。
二人で、そんな昔の話をしていた。
・・・
そうやって、次々と花火に火を点けて行き。
とうとう、花火も最後になってしまった。
「(パチッ・・・、パチッ・・・)」
最後に点けたのは、線香花火であった。
暗い空間の中に、小さな火の玉が爆ぜながら光っている。
「綺麗だなあ・・・」
「ホントだね」
小さな火の玉が光っているの見て、思わず僕がそう漏らすと。
カズちゃんも、それに同意してくれた。
「不思議だなぁ・・・」
「なにが?」
「子供の頃は、線香花火なんて何が面白いのだろうって、思っていたのだけど。
女の子になってから見ると、ただ綺麗なだけで無く。
可愛いとか健気だとか、色々思えるようになったんだよね」
「そうなんだ」
ウットリしながら花火を眺めている僕を、カズちゃんが優しい表情で見詰めている。
「ああっ、落ちちゃった・・・」
持っていた線香花火から、火花が落ちたので。
「「あっ!」」
次の花火を持とうとした所で、カズちゃんと手が触れた。
カズちゃんも取ろうとしたのだが、残りが一本になっていたので。
二人の手が、触れたのである。
「カズちゃん、やって良いよ」
「いいよ、ミズキちゃんやって」
「カズちゃん、して良いから」
「ミズキちゃんの方こそ」
すると反射的に、僕たちはお互い譲り合い出した。
「じゃあ、一緒にしない?」
「えっ?」
「ほらほら、カズちゃん、上の方を持って♪」
このままでは、埒があかないので。
僕は微笑みながら、カズちゃんに強引にそう言ってみる。
カズちゃんは僕の言う通り、左手で花火を上の方を持つと。
僕の方は右手で持っているので、自然とカズちゃんにくっ付く形になった。
「カズちゃん、昔より大きくなったね・・・」
「ミズキちゃんは、想像以上に変わったね」
二人で線香花火に、火を点ける。
自分の手の上に有る、カズちゃんの大きな手の存在を感じて。
思わずそう呟いたら、彼がそんな事を言った。
「イヤだった・・・?」
「ううん、とっても可愛くなったから、ビックリしている」
少し不安になったので顔を上げ、カズちゃんにそう尋ねるが。
彼は優しい眼差しで答えてくれたので、僕の頬は熱くなる。
こうして僕たちは、二人で持った線香花火が落ちるまで、そんな話をしていた。




