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第2話 変わった物、変わらない物(前)

 「ねえ、カズちゃん、バスの時間は良いの?」


 「・・・はっ、ごめんごめん。

 じゃ、じゃあ、向こうで待とう」




 何とか動揺が収まった頃。

カズちゃんの方は、まだ、僕を見ながら呆然としていたので。

心配になって尋ねてみたら、彼が慌てて反応した。




 「荷物持つよ」


 「あ、いいよカズちゃん、私が自分で持つから」


 「良いから良いから、ミズキちゃんは女の子でしょ」




 そうやって、カズちゃんがバス停の方に行こうとしたので。

僕がトランクを持って、一緒に行こうとしたら、すかさず彼が持ってくれた。


 僕は、慌てて自分で持とうとするけど。

カズちゃんは、少しテレた笑顔を見せながら、そう言ってトランクを持ち続ける。




 「(こう言う所は、全然変わらないなあ)」




 僕を気遣ってくれる、彼を見て、そんな事を思ってしまう。


 カズちゃんは、大人しく人見知りをするが。

その分だけ優しくて。

昔は何かあると、すぐに僕に近寄り心配してくれていた。


 僕のトランクを持っていてくれる。

そんな彼を見て、僕は思わず顔が緩んでしまった。



 ・・・



 「ここは、全然変わらないね〜」


 「うん、だけど最近は、人口流出して、空き家が多くなってきたけどね」


 「あ、やっぱり、そうなんだ」


 「ここは、何もない田舎だから」




 僕はバス停の、屋根のあるベンチの下に座り、カズちゃんと色々な話をしていた。




 「でも、ミズキちゃん」


 「なに?」


 「こうしていると、普通の女の子と変わらないね。

 例えば、しゃべり方とか」


 「あ、これね、女の子として生活出来るように、女言葉をレクチャーされたけど。

 以外と簡単に、習得することが出来たよ。」


 「元々から、言葉使いが丁寧(ていねい)だったからねえ」


 「後、立ち居振る舞いとかも。

 油断をすると、足の間が広がる事に気を付ける以外は、特に注意を受けなかったし」


 「へえ〜」


 「でも、その事を、お母さんに話したら。

“瑞樹は男なのに、物腰が柔らかかったからね〜”って、言われたの・・・」


 「はははっ・・・」




 僕がガックリとしながら、そう言うと、カズくんが、苦笑いをした。


 確かに、僕が男だった時は、余り男らしく無いと、自分でも自覚していた。


 だからって、女の子にならなくても良いのに・・・。


 始めの頃は、そんな事も思っていたが。

次第に、女の体に馴染んでいった自分に対し、複雑な思いも抱いていた。




 ************




 「(ブルルル〜)」


 「あっ、来たね」




 いかにも田舎らしい。

型が古いバスが、音を立ててやって来た。


 それを見てカズちゃんが立ったので、僕も、一緒に立った。


 二人でバス停の前まで移動すると。

バスが止まり、”プシュ〜”と言う音と共にドアが開く。


 この地方のバスは、後乗り前降りのスタイルなので、後ろのドアが開いた。


 こう言うタイプのバスは、最初に整理券を取って。

降りるときに、料金と一緒に料金箱に入れなければならない。


 ドアが開いたのと同時に。

僕は、慌てて乗り込み、券を取ろうとした。




 「あれ?」




 券を取ろうとして、ステップを駆け上がりかけた所で。

なぜか視界が、上の方へと向いていく。


 どうやら、僕の方が後ろに倒れているみたいだ。


 都会の、床が低いバスと違い。

田舎の古い型のバスは床が高いので、高いステップを登らないとイケナイ。


 馴れないサンダルを履いた状態で、高いステップに上がった時。

サンダルがズレて踏み外してしまったのだ。




 「(ぽすっ)」




 ”ああ、後ろに倒れる”と、のんきに、他人事の様に思っていたら。

背中に、何かが当たった。


 だが、そのおかげで、僕は後ろに倒れずに済んだ。




 「大丈夫、ミズキちゃん?」




 後ろから、声がした。


 急な事で、思考が停止してしまっていたが。

その声を聞いて、慌てて、自分の頭を回転させる。




 「(えっ? 僕は抱き止められてるの?)」




 僕は、誰から抱き止められていたのだ。


 この状況で、行えるのは唯一人。


 そう、カズちゃんが、僕を抱き止めていたのである。




 「ミズキちゃん?」




 僕の返事が無いで、カズちゃんが再び尋ねてきた。


 改めて自分の状況を確認する。


 僕は今、カズちゃんの抱き締められている。


 カズちゃんの体は、見た目にはスリムな体格だが。

実際に、抱き締められていると、見た目以上に、広い胸と(たくま)しい腕をしている。


 そんなカズちゃんに、抱き締められていたら。

近くで見た時以上に、動揺してしまった。


 その上、僕はカズちゃんに抱き締められたまま、宙に浮いた状態になっている。




 「・・・あの、カズちゃん、早く下ろして」




 僕は、動揺して赤くなった顔で、カズちゃんにお願いする。




 「あ! ああっ! ご、ごめんね」




 僕が、恥ずかしそうなにしながら言った言葉を聞いて、カズくんが慌てて返事をした。




 「(そおっ〜)」




 しかし、慌てた様子にも関わらず。

僕を、まるで大事な荷物でも下ろすかの様に、カズちゃんは丁寧に地面へと下ろしてくれる。




 「・・・カズちゃん、ありがとう・・・」




 僕は、カズちゃんにお礼を言ったが。

恥ずかしくて、まともに顔を見ることが出来なかった。



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・思い出の海と山と彼女
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