第19話 海に行って遊ぼう4
僕は、そのままカズちゃんに、抱かれたまま震えていたのだが。
「(カーーーーッ!)」
落ち着いてくると、今度は逆に体が熱くなってきた。
今、二人は、水着を着ている状態で抱き合っている。
つまり、”ほぼ裸で抱き合っているのと、変わらないんじゃないの!”
そんな変な事を妄想してしまい、それで熱くなってしまったのだ。
「(ドクンドクン)」
そして、重なった肌を通して、カズちゃんの鼓動が伝わってきた。
多分、カズちゃんも、その事に気付いたのだろう。
伝わる鼓動は、鐘が鳴る様に早かった。
「カ、カズちゃん、ありがとう。
もう、私は大丈夫だから・・・」
「う、うん・・・」
さすがに、恥ずかしくなったので。
そう言って、カズちゃんに廻した腕を緩める。
すると、カズちゃんの方も、僕から離れてくれた。
カズちゃんから、離れた事にホッとした反面。
あの抱き締めてくれた、腕の感触が肌に残り。
逆に、まだ触れて居たくなる様な、未練を感じてしまった。
************
あれから再び、みんなと合流した後。
海の家で、昼食を取る。
例の二人組が居ないか、心配だったが。
どうやら、既にどこかへ行ったのか、姿が無かった。
それで安心して、昼食を済ませたら。
午後は、自由時間となった。
「カズちゃん、海に入ろうよ〜」
「あ、待ってよ、ミズキちゃん!」
結局、僕はカズちゃんと、行動を共にしている。
例の二人組の件もあるけど。
航くんたちも、カズちゃんの目が無いと、手を出してくる心配があるので。
カズちゃんに、くっ付いているのである。
最初、航くんたちは、僕と二人きりになるのを狙っていたのだが。
“カズちゃんと一緒が良い”と言って、意思表明した所。
諦めた航くんたちは、カックリ肩を落としながら、他の娘をナンパしに出かけてしまった。
そしてカズちゃんと、二人きりになった途端。
あの二人組の事も忘れて、無防備になると、海へと向かって駆け出した。
一方のカズちゃんは、そんな僕の後を追った。
「(バシャ、バシャ、バシャ)」
「(バシャ、バシャ、バシャ)」
水音を立てて走る僕と、カズちゃん。
「それっ!」
「(バシャッ!)」
「うっぷっ!」
一旦、止まって振り返り。
追いかけてくるカズちゃんに、海水を掛ける。
「それそれそれ!」
「(バシャバシャバシャ!)」
「ちょ、ちょっとお、待ってよお、ミズキちゃん!」
「ほらっ、カズちゃん捕まえてごらんなさい〜」
カズちゃんに水を何回か掛けて、怯んだスキに逃げると。
逃げる僕の後を、カズちゃんが追いかける。
しかし僕は逃げながらも、時々振り返り。
舌をチロリと出しては、カズちゃんを挑発したのである。
・・・
「ちょっと、ミズキちゃんストップ!」
「きゃっ!」
しばらく逃げて、カズちゃんが僕を捕まえようとした所。
足元を砂に取られ、僕に倒れ込んできた。
それに気付き振り返るが、何とかカズちゃんを受け止める事が出来た。
「ご、ごめん!」
「(ギュッ!)」
「・・・ミズキちゃん」
「お願い・・・、このままで居てちょうだい・・・」
名残惜しかった腕の感触に、再び触れたので。
思わず、彼の背中に自分の腕を廻して、そう言ってしまった。
今度は恥ずかしさよりも、カズちゃんの感触を欲していたからである。
すると、そんな僕の様子を見たカズちゃんが。
また、僕の事を抱き締めてくれる。
人の目のある、砂浜で抱き合って目立つと思ったが。
逃げ回っている内に、たまたま有った岩場の影に隠れていた。
こうして再び、カズちゃんの腕の感触を、感じる事が出来た僕は。
時間を忘れて、その腕の感触を堪能したのであった。
************
「(カタン・・・カタン・・・)」
海岸から帰る、電車の中。
僕は、車窓から差し込む夕方の光を浴びていた。
あの後、しばらく経って、みんなの所に戻ったら。
航くんたちは、何だか沈んでいた。
理由を聞いてみると。
みんな、色々とナンパをした様だが。
結局、女の子全員から相手にされなかったそうだ。
そんな訳で、カズちゃんが、みんなからの嫉妬の視線を浴びて。
心持ち、冷や汗を掻いている様に見えた。
それから全員、海の家で着替え、家へと帰る所である。
「ぐおお〜っ」
「ZZZZZZ〜」
僕の周囲から、様々な音が聞こえる。
みんな、色んな意味で疲れてしまい。
それぞれ、ボックスシートに座ったまま、眠り込んでいた。
聞こえているのは、みんなのイビキである。
「すー、すー」
カズちゃんも、やっぱり同じように眠っていた。
カズちゃんは僕の右隣で、僕の肩に頭を乗せて寝息を立てている。
先ほどまで、僕も、みんなと一緒に眠っていたのだが。
肩にカズちゃんの重みを感じ、それで目が覚めたのだ。
「(すう〜っ)」
「(サラッ、サラッ)」
自然に左手を伸ばし、カズちゃんの髪を撫でてみた。
カズちゃんの髪は、サラサラして触り心地が良い。
そんなカズちゃんの髪を、撫で始めたら。
なぜか、手が止まらなくなってしまった。
「うふふっ、可愛いなあ・・・」
寝ているカズちゃんの顔を見て、思わず呟いていた。
「(なんだか、本物の女の子みたいな事をしてるなあ・・・)」
カズちゃんの髪を撫でている途中で。
自分が自然に、元からの女の子みたいな行動を、取っていた事に気付いた。
今までは、表立っては言葉遣いや立ち居振る舞いまで。
リハビリ時のレクチャーで、教わった事を意識的に行っていた。
女の子として生きていくのに、不都合が無いようにである。
だからココに来るまで、女の子として生きる為と、割り切っている所為か。
上手くやっているつもりでも、心の中では、どこかモヤモヤした物があった。
しかし、あの日から。
特にカズちゃんの前では、何の無理も無く自然に女の子になれた。
「カズちゃんのおかげかな・・・」
今度は、カズちゃんの頬を撫でながら呟く。
カズちゃんの頬は、思ったよりもツルツルしていて感触が良い。
僕は可愛い寝顔のカズちゃんを見て、頬を緩ませた。
そうやって僕は、頬を緩ませつつ。
駅に着くまで、カズちゃんの頬を撫で続けていた。




